第二十帖 朝顔
光源氏の内大臣時代 32歳 九月~冬
遣り水
寝殿造りの庭園などで、外から水を引き入れて設えた流れ
光源氏 紫の上 朧月夜 明石の君
朝顔姫宮 花散里 故藤壺宮/女院
若い日の光源氏は、朧月夜
と同衾している現場を彼女の父・右大臣に
目撃され、罰せられる前に自ら「須磨」へ下った。
「朧月夜君はとても聡明で教養の深い方と伺っております。
軽率なお振る舞いとは無縁のお人柄なのに、どうしてあのような不可思議なことが起きたのでしょう」
「そうです、聡明な美しい方です。
今更ながら、お気の毒なことをしたと悔やまれます。
浮気性の男は、年を重ねるにつれて後悔することばかり。
おとなしい私さえ、そうなのですから」
源氏は朧月夜のために涙した。
源氏はまた、
「あなたが蔑んでいらっしゃる明石君は、身分に似合わず物の道理をわきまえています。
ただ他の方とは同列に扱えないので、気位を高くもっているようですが、私は意に介しておりません。
※当時が『身分社会』であったことが分かる
それにしても、まったく取り柄のない女も、人並み優れた女も滅多にいません。
東の院で寂しく暮らしている花散里は、昔のままに可憐な人柄です。
気立ての良さが気に入って世話をするようになったのですが、慎ましく控え目な態度は今もかわりません。
今ではもう、互いに別れられそうもなく心から愛しいと思っています」
昔話や今の話などを語っているうちに、夜が更けていった。
月が静かに美しく冴えわたっている。
紫の上、
○ 氷閉ぢ 石間の水は 行きなやみ
空澄む月の 影ぞ流るる
氷に閉じこめられた石の間の遣水は流れかねていますが
空に澄む月影はとどこおりなく西へ流れています
わずかに首をかしげて空を眺めながら歌を詠んでいる紫の上は、並ぶ者がないほど可愛らしい。
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絶望名言
ダメな男と言うものは幸福を受け取るに当たってさえ、
へたくそを極めるものである。
弱虫は幸福をさえ恐れるものです。
綿でけがをするんです。
幸福に傷つけられることもあるんです。
太宰治
「僕は太宰さんの文学は嫌いなんです」
その瞬間、氏はふっと私の顔を見つめ、軽く身を引き、虚をつかれたような表情をした。
しかしたちまち体を崩すと、半ば亀井氏のほうへ向いて、誰へ言うともなく、
「そんなことを言ったって、こうして来てるんだから、やっぱり好きなんだよな。なあ、やっぱり好きなんだ」
三島由紀夫『私の遍歴時代』より
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