第二十帖 朝顔
光源氏の内大臣時代 32歳九月~冬
簀子すのこ
竹や細い板などをすきまをあけて並べた床。
水はけが必要な場所に用いる。
庇ひさし=廂ひさし=廂の間
寝殿造りで母屋もやの外側に付加された細長い下屋げや部分。
その外に簀子縁を設けた。
御簾みす
平安時代の寝殿造りなどで、目隠しに用いた。
宮殿や神殿などに用いるすだれ。
「時々でも光君にお目にかかれたら、余命いくばくもないわたしの寿命もそのたびに僅かでも延びることでございましょう
今日は老いを忘れ、憂き世の悲しみも消えてしまったようです」
そういうと、女五の宮はまた涙声になった。
「光君を婿になさった姉の大宮がお羨ましい。
孫に恵まれ、光君とも親しくお目にかかっておられます。
亡くなられた式部卿宮も、光君を婿に迎えられなかったことをずいぶん悔やんでおられました」
「式部卿宮」と「婿」という言葉に、源氏の耳が動いた。
想い人の朝顔姫宮は、式部卿宮の娘だからである。
宮は、娘を源氏に嫁がせたかったようだ。
女五の宮が今さらのように、
「もし光君と親しくお付き合いさせていただけていたなら、どんなにか嬉しいことでございましたでしょう」
源氏が朝顔姫宮のいる部屋の方に目をやると、前庭の草花がうら枯れていて野趣深く見える。
姫宮の容姿や表情がゆかしく偲ばれ、無性に会いたくなった。
女五の宮に、
「こちらにお伺いした機会にあちらにも顔を出さないと情が薄いと思われますので、あちらへもお見舞いに参ります」
そう告げると、簀子を通って姫宮の部屋へ向かった。
乳母めのとの宣旨せんじがあいさつに現れ、源氏を南の「廂ひさしの間」に案内した。
「廂の間」は、いまの廊下に近い。
つまり、客の源氏を座敷である「母屋もや」には上げないのだ。
「御簾みす越しとは、若者にでも対するような冷たい扱いですね。
わたしは当家のためにはこれまで色々と尽くしてきました。
そのことをお考えていただいて、御簾の内への出入りをお許しくださるものとばかり思っておりました」
源氏は、「廂の間」に留め置かれた不満を口にした。
朝顔姫宮は、宣旨を通して答える。
「父の在世中のことは、今となっては、何もかも夢の中の出来事のようでございます。
その夢から覚めた今、父の生前にお世話いただいたことは、これから静かに考えさせていただこうと存じます」
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