卯の花
....光源氏と惟光これみつ
2008年 たけふ菊人形展:『源氏物語絵巻』から
惟光や良清ら光源氏の従者たちは、明石の君の父親と同じ受領階級/地方官(国司・国守、知事に相当)
「蓬生」の帖 関連系図
光源氏は帰京後はじめて花散里を訪ねてゆく途中、見覚えのある廃墟のような邸を見かけた。
惟光を確かめに行かせると、やはり『常陸宮邸』である。
そこには、光源氏を信じて待っていた健気な末摘花がいた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
雪の降りつづく真冬の四日間、源氏は故桐壺院の追善供養のために「法華八講」を盛大に催したが、研鑽をつんだ高徳の僧ばかりを招いたなかに、末摘花の兄である禅師の君の姿があった。
禅師の君は、帰りがけに実家の常陸宮邸に立ち寄った。
「仏か菩薩の化身のような源氏の君が、どうして、このような五濁にまみれている「この世」にお生まれになられたのでしょう」
妹にそれだけと言うと、ふらりと帰ってしまった。
この兄妹は言葉数がきわめて少なく、相手が誰であっても世間話が苦手で間が持てない。
●五濁ごじょく 仏教の世界観を表わす用語
【世の中が穢れてゆく様を5つに分類したもの】
人の寿命が短くなり/寿濁 、時代環境が腐敗し/劫濁 、煩悩が盛んとなり/煩悩濁、思想が混乱し/見濁、人の肉体・精神が貧相・無気力になる/有情濁 という5段階を経て世の中が衰微すると考えられた。
卯月(旧暦四月)のころ、源氏は何かの拍子に花散里を思い出して紫の上に気付かれないよう、そっと二条院を抜け出した。
忍び歩きのお供は決まって、気心の知れた乳兄弟の惟光である。
惟光にとって、源氏のお供をするのは決して嫌な仕事ではない。
楽しみにしている節さえある。
源氏が女君と逢うために牛車を降りて玄関に入るや、惟光もどこかへ姿をくらますのが常だった。
そして、頃合いを見計らって素知らぬ顔で戻ってくる。
どこへ行くのかは、今もって誰も知らない。
●乳兄弟ちきょうだい 血縁はないが同じ女性の乳で育てられた者同士
その日は、とっぷりと日が暮れた雨上がりの空に趣のある夕月が昇っていた。
源氏がむかしの忍び歩きのあれやこれやを懐かしく思い出しながら花散里のもとへゆっくり牛車を進めていると、鬱蒼とした森のような一角が目に入ってきた。
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今年の西大寺会陽は2月18日です。一見の価値