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明石28東宮と藤壺

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紫式部石山寺観月図
『紫式部石山寺観月図』 土佐光起
琵琶湖(瀬田川)に映る月を眺めながら、『源氏物語』の構想を練る紫式部
画面左上に、「今宵は十五夜なりけりと思し出でて、」で始まる「須磨」の帖の一節が書かれている。

見立紫式部図勝川春章
勝川春章『雪月花図』 MOA美術館
左の幅(掛け物)は、清少納言の「香炉峰の雪は簾をかかげて見る」という故事を武家の奥方風に描き、
中央は、武家の娘風に石山寺で机にもたれて筆をとる紫式部に見立てている。
右は、美人で歌人の小野小町を芸者として描いている。

源氏物語四の君系図 ←クリック拡大
当ページ関連系図
光源氏 紫の上 朱雀帝 明石の君
故・桐壺院 弘徽殿大后 東宮 藤壺の尼宮

  ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

女房たちのうち、在世中の桐壺院に仕えていた年老いた者らは、立派に成長している源氏を目の当たりにして人目もはばからずうれし涙を流している。

朱雀帝は、並ぶ者のない源氏のすぐれた容姿と立ち居振る舞いに気後れして、特別にあつらえた装束を身に着けて対面した。

夢枕に立った父・桐壺院に叱責されて以来、体調が思わしくなくずいぶん弱っていたが、昨日あたりから少しもちなおしている。

ふたりでしみじみと語り合っているうちに、ずいぶん時間がたったようだ。

美しい十五夜の月が、すでに山の端をはなれている。



あの気性の激しい弘徽殿太后の息子とはとても思えないほどに気持ちのやさしい朱雀帝は、来し方のあれこれをつぶさに思い出しているのか涙が頬を伝っている。

父親の愛情はうすく、恋愛においてもいつも腹違いの弟である源氏に後れをとった。

何をするにしても、源氏に敵わなかった。

光君が須磨に下られてからというもの、詩歌管弦などの催しをすることもなくなりました」

源氏は恨みがましく、

〇 わたつ海に  しなえうらぶれ  蛭の児の
    
      脚立たざりし  年は経にけり

蛭の児--イザナギイザナミの間に最初に生まれた手足のなえた子。生まれてすぐ、舟にのせられ流された。

蛭の児は三歳まで足が立ちません。わたしは遠い海辺で、蛭のように足が萎えるうらぶれた流浪生活を三年間おくりました

は申し訳なさそうに、

〇 宮柱  めぐりあひける  時しあれば
    
      別れし春の  恨み残すな

国生みの神話のように、いったんは別れたが今こうしてめぐり会えたのだから、都落ちした春の恨みはもう忘れてください



源氏は、亡き桐壺院の追善供養のため法華八講を催すことを優先して準備にかからせた。

東宮に会うと、すっかり成人している。

久しぶりの再会になんのわだかまりもなく顔をほころばせている東宮を、源氏は感慨深く眺めていた。

東宮源氏が実の父であることを知らない

学問も相当すすみ、すでに「」として国を統治する器量を備えているようだ。


それから、国の根幹を揺るがすほどの秘密を分け合う藤壺の尼宮とも対面したが、きっと二人だけにしか分からない話が山ほどあったであろう。



明石から都まで送って来てくれた者たちが帰るとき、明石の君への手紙をことづけた。



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