古来、風光明媚な歌枕として名高い
岡辺の館跡 神戸・西区
先般、雨まじりの暴風が吹き荒れたとき以来、入道の娘は高潮を恐れて「浜辺の館」から「岡辺の館」に移り住んでいる
第2帖 帚木(ははきぎ)
雨夜の品定め (あまよのしなさだめ)
夏の長雨の一夜,光源氏や頭中将らがめぐり会った女性たちの品定めをする場面 (若かった源氏は聞き役)
高麗(こうらい こま)/高句麗(こうくり)
←クリック拡大 胡桃色
クルミ科クルミの樹皮や果皮を染料として染めた、淡い茶色。
平安時代には、布地や紙の染色に使われていた
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
入道は、うれしかった。
〇 ひとり寝は 君も知りぬや つれづれと
思ひ明かしの 浦さびしさを
ひとり寝の切なさを源氏の君はお分かりいただけるでしょうか。明石の浦で物思いに眠れぬままに夜を明かしている娘の寂しさをお察しください
「私は娘の行く末が心配で、久しく気持ちの晴れない日々が続いております」
入道は小刻みに身体を震わせているが、それでも気品を失っていない。
「しかし、海辺の生活には慣れておられるでしょう」
源氏、
〇 旅衣 うら悲しさに 明かしかね
草の枕は 夢も結ばず
旅寝の悲しさに夜を明かしかね、安らかな夢を見ることはありません
ふるさとを遠く離れている自分はもっと寂しい、と詠んだ。
源氏は、翌日の昼下がりに「岡辺の館」の入道の娘宛に手紙を認めた。
かつて「雨夜の品定め」のとき、だれかが、「上流の女」よりも「中流の女」のほうが魅力があると話していたことがある。
入道の娘は、まさに源氏物語の作者と同じく「中流の女」。
明石のような辺鄙な土地に意外に素晴らしい女が埋もれているかもしれないと気を回して、高麗の胡桃色の紙に思いっきり趣向を凝らした。
〇 をちこちも 知らぬ雲居に 眺めわび
かすめし宿の 梢をぞ訪ふ
見も知らぬ旅路の空を眺めてはわびしい気持ちに襲われております。噂に聞くあなたの家を訪ねましょう
入道は「岡辺の館」に来て、源氏からの手紙を待っていた。
待ちかねた手紙が届くと、入道は飛び上がらんばかりに喜んで、使いの者に上等な酒を好きなだけふるまった。
それから、娘にすぐ返事を書くよう勧めるが、娘はなかなかその気にならなかった。
だいぶ時間がたった。
入道は娘の部屋に入って急かすが、いっこうに書こうとしない。
源氏からの心憎いまでにしゃれた手紙とみごとな筆跡、それに大きな身分差に気後れしているのだ。
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