光源氏の愛情生活の中心には幼くして亡くした母・桐壺の更衣の存在があり、あくなき女性遍歴は母の面影を追う「母恋しの旅」にほかならない。
母の面影の直系が、母に生き写しと聞かされてきた藤壺であり、藤壺と瓜二つの若紫である。この叔母と姪にあたる二人が、源氏にとって「永遠の女性」であり「最愛の妻」とされる。
..遣水.伏見・城南宮で曲水の宴
僧都が立ち上がったので、源氏は小柴垣を離れた。
宿坊に戻っても、源氏は少女のことが気になっている。
「あの少女は一体だれなのか。藤壺様の代わりに毎日ながめていたいものだ」
しばらくすると、僧都の弟子が僧都からの言伝を惟光につたえている声が聞こえてきた。
「源氏の君が鞍馬においでになっていることを、たった今お聞き致しました。
すぐにご挨拶に伺うべきところですが....、拙僧がこの寺におりますことをご存知でありながら、お忍びでいらしていることをお恨みに存じます。
旅のお宿も、拙僧の宿坊でご用意致しましたものを」
弟子と入れ代わるように、僧都がやってきた。
気さくだが重厚な人柄で、世間の人々から信頼されている。
源氏は、自分が軽々しい服装であることがきまり悪かった。
「数日前から、瘧病(わらわやみ)を患っております。人の勧めに従って、急きょ、こちらの行者殿の加持祈祷を受けるために訪ねて参りました。
高名な行者殿の加持祈祷がもし効き目がなかったら、世間体が悪かろうと内密に参ったのです。
すぐに、貴僧のところへ伺います」
僧都は、鞍馬山に籠って以来の修行ぶりをひとくさり話すと、熱心に誘った。
「こちらと同じような草庵ですが、涼しい遣水の流れをお目にかけとうございます」
さきほど、僧都が尼君ら自分を知らない人々に、「世俗の憂さを忘れる」だの、「寿命が延びるような気分になる容姿」だのと吹聴していたので気恥ずかしいが、藤壺そっくりの少女のことが気になって出かけた。
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