「空蝉の寝室に忍び込む光源氏」 歌川広重画
「紀伊守の屋敷がよろしいかと存じます。つい最近、川の水を引き入れて涼しくなったと聞いております」
紀伊守(きいのかみ)は源氏の家臣である。
「そうか。少し気分が悪いから、牛車に乗ったまま入って行ける屋敷はありがたい」
源氏の急な来訪を知らされてちょっと困った風情の紀伊守から、返事がきた。
「父・伊予介(いよのすけ)の家で慎しむことがございまして、今、親戚の女たちがわたしの狭苦しい家にきております」
「失礼がなければよろしいのですが……」
「しやいや、人は男でも女でも多い方が賑やかで楽しい」
そう応えさせた源氏は、『雨夜の品定め』での頭中将の発言を思い出していた。
「中流階級の女は面白い」
紀伊守の親戚の女たちは、まさしく中流である。
源氏は、紀伊守のもてなしを受けながら聞き耳を立てていた。
襖の向こうの母屋に女たちが集まって、ヒソヒソ話をしているのが聞こえる。
どうやら源氏のウワサをしているようだ。
王朝文学の楽しみ (岩波新書)/岩波書店
¥798
Amazon.co.jp
もっと知りたい歌川広重―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)/東京美術
¥1,680
Amazon.co.jp
「正しい」とは何か?: 武田邦彦教授の眠れない講義/小学館
¥1,365
Amazon.co.jp