どうやら源氏のウワサをしているようだ。
「源氏の君はあんなにお若いのに、もう北の方(正妻)がいらっしゃるのよ。つまらなくないかしら」
「でも、まだ17歳なのに女性関係はなかなかのものらしいわ。あちらこちらに通っていらっしゃるそうよ」
受領階級(地方の長官 知事に相当。頭中将のいう中流)の娘である彼女らは、源氏に関する情報にずいぶん明るい。
「あの方との事も知っているのだろうか」
源氏が顔を曇らせていると、子供たちが挨拶にきた。
その中にひとり、12~3歳ほどのひときわ品のいい美しい少年(小君 こぎみ)がいた。
身のこなしも洗練されている。
「この少年は?」
紀伊守にたずねた。
「故・衛門督(えもんのかみ)の末の子です。父親を早くに亡くし、姉(空蝉:うつせみ)がわたしの父の後添いに入ったものですから、時々こうして遊びに来ます」
「器量がよく学問もできるので、童殿上になどと考えておりますが……」
・童殿上 (わらわてんじょう)
宮中の作法を見習うため、元服前の貴族の子弟が殿上の奉仕をすること
「それは気の毒なことだ。この少年の姉が、そなたの継母というわけか」
「はい」
「ずいぶん若い継母をもったものだな」
「わたしよりも年下でございます」
中納言だった故・衛門督は空蝉を入内させたいと思っていたが、実現する前に亡くなってしまう。
やむなく、空蝉は親子ほど年齢の離れた伊予介(いよのすけ)の後妻になった。
あの方と空蝉と紫の上という準主演級の3人のヒロインはそろって父親ほどに年の離れた男に嫁いでいる。
紫式部自身が父親の友人である藤原宣孝(のぶたか)に嫁したことを何かと意識していたのだろう。
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