蒜 (ひる:ニンニク)
「その女にはいろんな事を教えてもらいました。今でも、感謝しております。ただ、自分より相手が格段に上の場合、どうしても気後れします。劣等感にさいなまれます」
「付き合いが長くなるにつれてますます気が重くなり、いつしか足が遠のいてしまいました」
そう言うなり、藤式部丞(とうしきぶのじょう)は黙り込んだ。
頭中将が、つづきを話すよう促す。
「ずいぶん賢い女ではないか。まさか、それでその女との関係が切れたわけではあるまい」
「はい。ずいぶん日が経ってから、何かのついでに立ち寄ったという体で訪ねました」
「頭のいい女は、焼きもちなど焼きません。しかし、久しぶりに訪ねる私を喜んで迎えるのはプライドが許さなかったのでしょう。部屋の向こうから、こんなことを言いました」
「『数か月前からカゼ気味で、蒜(ひる:ニンニク)を服用しております。臭いでしょうから、今日はお目にかかれません。何か御用でしたら承りましょう。』」
「『分かりました。じゃ、帰ります』」
「立ち去ろうとすると、また声をかけてきました」
「『よかったら、カゼが治った頃においで下さい』」
「それで、和歌で応じました」
○ ささがにの ふるまひしるき 夕暮れに
ひるま過ぐせと 言ふがあやなさ
今は、蜘蛛が巣を張る夕暮れです。『昼が過ぎて(蒜の臭いが消えて)から来て下さい』とは、どういう意味でしょう
「すると間髪をいれず、女から和歌が返ってきました」
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東シナ海は「一触即発」というよりも、「一線を越えた」危険きわまりない状況になっています。
光源氏は、いろんな場面でたびたび一線を越えますがー。
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雨夜の品定め⑪蒜食いの女
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