「深く傷ついて苦しんでいたのでしょうが、何事もないかのように振る舞っていました。わたしには別れる気などさらさなかったのですが、本当に申し訳ないことをしました」
「それにしても、恋人にはどんなタイプの女がふさわしいのでしょうね」
「飛び抜けた美人でも、嫉妬深い女はいただけません。目から鼻へ抜けるような才女は理屈っぽくて、付き合っているうちに煩わしくなります。浮気女は、もちろん論外です」
「いっそうのこと、吉祥天女(きっしょうてんにょ)と恋しますか」
頭中将が笑いを誘ったあと、それまでずっと聞き役に回っていた藤式部丞(とうしきぶのじょう)が、白状するよう促された。
「私ごとき下々の者に、みなさまに披瀝するような恋の思い出などありましょうか……」
藤式部丞がためらっていると、頭中将がせっついた。
「早く、早く」
気乗りしないままに、話し始める。
「文章生(もんじょうしょう:大学寮で文章道を専攻する学生)だった頃でした」
「文章博士(もんじょうはかせ:大学寮で詩文や歴史を教えた教官)の娘に、驚くほど聡明な女がいました」
「思慮が深く、漢学の素養はなまじっかな博士には太刀打ちできないほどのレベルでした」
「書はどこまでも流麗で、非の打ち所がありません。政治向きのことにも理解があり、家事万般もソツなくこなしました」
「わたしは、その女を先生として漢詩文の作り方を教わりました。朝廷に仕えるために必要な学問も、いろいろ学びました」
「夜は夜で、閨房(けいぼう)の語らいにも豊かな教養がにじみ出たものです。私のような凡庸な男とは、どこからどう見てもはなはだ釣り合いがとれません」
「女の父親もなぜか私のことを気に入ってくれていましたが、なにぶんにも才能も教養も違いすぎます」
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ジミー大西は、放浪の天才画家・山下清を彷彿させます。
かつて世間を騒がせた戦場の二股男、山路徹氏を二人の女性タレントとともに覚えていらっしゃる方は多いでしょうね。