故・夏目雅子さん扮する玄奘三蔵 『西遊記』(1978~80年 日本テレビ)
「素晴らしい所ですね。こちらに苦しみはないのですか」
建礼門院がたずねると、二位の尼らしい女性が答えた。
「龍宮城の苦しみは竜畜経の中に書いてあります。それゆえ、よくよく後世を弔って下さい」
・竜畜経(りゅうちくきょう)……虫から鳥獣に至るまで全ての畜生は弱肉強食を繰り返すという苦があり、牛馬は人に使われる苦がある。また、竜(神獣・霊獣)も畜生であると説く
そこで、建礼門院は目が覚めた。
「それからますますお経を読み、念仏に励んで、平家一門の菩提を弔っております。都を落ちて以来のわたしが遭遇してきた出来事は、六道輪廻に当たるのではないでしょうか」
建礼門院の過酷すぎる来し方に、後白河法皇は涙した。
「中国の三蔵法師・玄奘はインドに仏道修行の旅に出たとき、悟りを開く前に六道を体験したと言われております。あなたが六道をこれほどはっきりと身をもって体験されたということは、本当にありがたいことです」
お供の公卿や殿上人も袖を濡らした。
建礼門院も大納言典侍も阿波内侍も泣いている。
そうこうするうちに寂光院の入相の鐘の音が鳴り、夕日が大きく西に傾いたので、後白河は名残りは尽きなかったが、涙をこらえて都へ帰って行った。
建礼門院は今さらながらに昔のことをあれこれ思い出しては追憶の涙が流れるに任せ、戻って行く後白河の後ろ姿が小さくなるまで見送った。
それから、御本尊に向かって祈った。
「天子聖霊 一門亡魂 成等正覚 頓証菩提」
・安徳天皇の聖霊と平家一門の亡魂が一切の真理を悟って、速やかに菩提を得られますように
昔は、東に向かって伊勢神宮と正八幡宮を拝み、「天子の寿命が、千年も万年も続きますように」と祈ったものだ。
今は、西に向かって、「過去の聖霊が、必ず極楽浄土へ迎えられますように」と祈っているのが悲しく切ない。
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平家物語の群像 建礼門院⑰入相の鐘の音
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