…いざさらば 涙くらべん ほととぎす 我もうき世に ねをのみぞなく
建礼門院は和歌を二首、ふすまに書き記した。
○此ごろは いつならひてか わがこころ
大宮人の こひしかるらん
仏門に入ってからは昔の華やかな暮らしぶりなど忘れていたのに、このところ宮中の人々がしきりに恋しく思われる
○いにしへも 夢になりにし 事なれば
柴のあみどの ひさしからじな
昔の栄耀栄華は夢になってしまった。柴で編んだ草庵の生活はもう長いことはなく、ほどなく極楽浄土に迎えられることだろう
後白河のお供で来ていた徳大寺左大臣実定は、庵の柱にこう書き付けた。
○いにしへは 月にたとへし 君なれど
そのひかりなき 深山辺の里
昔は月にたとえられるほど光り輝いていたあなた様ですが、今はその輝きはなく、深い山里で侘びしく暮らしておられます
建礼門院は、来し方行く末のことに考えをめぐらして感傷にひたっていた。
ちょうどその時、ほととぎすが二声三声鳴いて飛んで行った。
○いざさらば 涙くらべん ほととぎす
我もうき世に ねをのみぞなく
さあホトトギスよ、わたしと涙比べをしよう。私も、鳴いてばかりいるおまえと同じように、このつらい世の中で泣いてばかりいるのだから
壇の浦で捕虜となった20人余りの平家の公達は、ある者は都大路を引き回されて首を刎ねられ、ある者は妻子と引き裂かれて遠い流刑地に送られた。
清盛の異母弟の頼盛だけは、母・池禅尼が、かつて清盛に源頼朝の助命嘆願をしていたお蔭で京都で暮らしている。
40人ほどの女房たちには何らお咎めはなく、耐えがたい思いはあっただろうが親類や縁者を頼っていた。
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平家物語の群像 建礼門院⑱いにしへも 夢に~
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