安徳天皇入水像の碑
……山口県下関市みもすそ川町
「一門の男たちが、助命されることは万に一つもありません。また縁の薄い者が、私たちの後世を弔ってくれることはないでしょう。昔から、合戦で女は殺しません」
「あなたは生きて、私たちの菩提を弔って下さい」
建礼門院は、母・二位の尼の言葉を夢のように聞いていた。
源氏勢との決戦は、ますます不利になってゆく。
「もはや、これまで」
二位の尼は、安徳天皇を抱き上げて舟ばたへ歩み出た。
「尼御前、私をどこへ連れて行くの」
「前世の善行によって天皇としてお生まれになりましたが、悪縁のために運が尽きました。まず東に向かって伊勢神宮を拝み、それから西方浄土の来迎にあずかるために念仏を唱えて下さい。この国は悩みの多いところです」
「極楽浄土という、素晴らしい都へお連れ致します」
安徳は小さな左右の手を合わせ、東を向いて伊勢神宮に別れを告げ、それから西を向いて念仏を唱えた。
「母が息子を抱いて入水した時の様子は忘れようとしても忘れられず、悲しみをこらえようとしてもこらえきれません」
残された者らの泣き叫ぶ声は、地獄の炎の底で苦しむ罪人たちの阿鼻叫喚(あびきょうかん:地獄の様々な責め苦にあって喚き叫ぶ様子)も、これほどではあるまいと思えるものだった。
「源氏の荒武者に捕らえられて都へ上る途中、明石の浦で、内裏よりもはるかに立派なところに安徳天皇をはじめ、平家一門の公卿や殿上人が礼儀を正して控えている夢を見ました」
「『ここはどこですか』と尋ねると、二位の尼らしき方が、『龍宮城です』と答えました」
平家物語 (岩波文庫 全4冊セット)/岩波書店
¥3,549
Amazon.co.jp
平清盛―平氏一門の栄え (学研まんが人物日本史 平安時代)/学研
¥798
Amazon.co.jp
…… …… (時子=二位の尼)
↧
平家物語の群像 建礼門院⑯ここは龍宮城です
↧