「静」 上村松園
「頼朝殿の手紙は預かっておりません。口頭で伝えよ、とのことでした。それは、『都が安泰なのは、義経がいるからだ。今後ともしっかり警護するように』というものです」
「そんなはずはあるまい。お前は俺を討ち取るためにやって来た。『大名らに出陣させると、義経が宇治や勢田の橋を外して京が騒がしくなる。お前が上洛して義経を謀殺せよ』と命じられたのだろう」
「そんなことはありません。拙僧は、ただ熊野権現へ参詣するためにやって来たのです」
「ならば、梶原景時の讒言によって鎌倉に入れてもらえず、腰越から追い返されたのはなぜだ」
… … 対立⑥腰越状(大江広元への手紙)そのⅠ
「その件については、私は何も存じません。また後ろめたいことも全くございません。なんなら起請文(きしょうもん:誓いの文書)を書きましょう」
「いずれにせよ、頼朝殿の勘気をこうむっていなかったらの話だ」
義経は先刻からずっと不機嫌である。
昌俊はその場を取り繕うために、起請文を7枚書いて数枚を燃やして飲み込み、残りを神社の宝殿に奉納するなどして、やっと宿に戻った。
戻るとすぐに、都の警護のために諸国から3年交代で上京している大番衆を招集して、義経の屋敷に夜襲をかける計画を練った。
その頃、義経は磯禅師という白拍子の娘・静を寵愛していた。
静御前は、義経のそばを片時も離れない。
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