国宝 阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎/はやらいごう) 京都・知恩院
「知時の気持ち、ありがたく思う。ところで、できうることならば仏を拝みながら旅立ちたいのだが……」
重衡が願いを述べると、知時は請け合った。
「承知しました。仏像を探して来ましょう」
知時は、警護の武士と相談して近くの里から仏像を借りてきた。
幸い、阿弥陀如来である。
河原の砂の上に据えた。
知時は狩衣(かりぎぬ)の袖の括りひもを解くと、紐の一方を如来の御手に掛け、もう一方を重衡に持たせた。
重衡は紐を手にして、阿弥陀如来に語りかける。
「その昔、堤婆達多(だいばだった)が、三逆の罪(阿羅漢を殺す 仏の体を傷つけて出血させる 教団を分裂させる)を犯し、無数の経典を焼き滅ぼしながら、そのことがかえって仏門に入るきっかけとなり、尊い教えに導かれて、ついには釈尊によって天王如来になることを認められたと聞きます」
「南都を焼き討ちした私の行為は、まことに罪深いものです。だが、本意ではありませんでした。だれが、父の命令に背けるでしょうか。だれが、勅命に逆らえるでしょうか」
「釈尊は全てご存じです。罪業はたちまち報いとなり、わが運命はもはや風前の灯です」
「仏法は慈悲を第一とするゆえに、衆生を救う機縁は様々といいます。最後の念仏によって、どうか極楽往生を遂げさせて下さい」
語り終えると、重衡はゆっくりと首を伸ばした。
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