維盛、都落ち 妻子との別れ
倶利伽羅峠の戦いに大勝した義仲は、京へ向けてそのまま進撃した。
勢いだけで、突っ走った感がある。
これは富士川の戦いにおける勝利のあと、平家軍を追撃せず、地盤固めのため鎌倉に戻った、いとこの頼朝と大いに異なる点だ。
もっとも頼朝は追撃したかったが、周囲がとめたようだ。
寿永2年(1183)7月、義仲は上洛した。
倶利伽羅峠で大半の軍勢を失った平家は、もはや防戦するだけの力はなく、安徳天皇を奉じて西国へ落ちた。
後白河院も伴っていたが、途中、比叡山に逃げられた。
維盛は一門でただ一人、妻子を都に残したまま落ちてゆく。
妻は一緒に落ちたいと訴えるが、維盛は許さなかった。
なお、北の方 (建春門院新大納言) は、鹿ケ谷の陰謀の首謀者・藤原成親の娘である。「光源氏の再来」 の連れ合いは、 「輝くばかりの美貌」 だったそうだ。
「私は一門とともに西国へ落ちるが、どこで敵が待ち伏せしているか分からない。もし、私が討たれても、出家などしてはならない。だれかと再婚して、幼い子どもたちを育ててくれ」
北の方は返事をせず、ただ泣き伏している。維盛が立ち上がろうとすると、袂にすがりついた。
「あなたに捨てられて、だれと再婚するのでしょう。前世からの契りがあったからこそ、あなたは情けをかけてくれました。どこまでも一緒にいて、同じ野原の露と消えようと睦言を交わしたことは、いつわりだったのですか。
わが身一つなら、何とでもします。しかし、幼い者たちを誰に託せばいいのでしょう。どうか連れて行って下さい」
「あなたが13、私が15の時に見初め合い、たとえ火の中、水の底へも共に入り、ともに沈み、死ぬのは一緒と誓いあった。しかし、今回は明日をも知れぬ旅の空。つらい目に遭わせたくない。いつか落ち着いたら、迎えを出す」
維盛はそう告げると、思い切って立ち上がった。
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