Clik here to view.

六代は、まだまだ甘えていたい母や乳母と別れ、住み慣れた都からはるかに遠い鎌倉へ下って行く。さながら、死への行進といえなくもない。恐怖心に押しつぶされやしないか。
12歳の胸のうち、察するに余りある。何ひとつ悪いことをしていないのに、である。
武士がたまたま自分の方へ馬を急がせてくると、「首を斬りにきたのか」 と怯え、武士たちがヒソヒソ話をしていると、「いよいよか」 と背筋が凍る。
駿河国の千本の松原で、六代の御輿が下された。そして、敷物が用意され、「お降り下さい」 と御輿から出された。
時政が馬から飛び下りて、急いで六代のもとへやって来た。
「途中で文覚房と行き会うかも知れないと思い、ここまでお連れしました。しかし、頼朝殿のお気持ちが分からないので、足柄山の向こうにはお連れできません。近江国で若君をお斬りしたと伝えます。平家一門の方なので、致し方ありません」
六代は、時政の言葉には返事をせず、斎藤五宗貞と斎藤六宗光を呼んだ。
「お前たち、都へ戻って私が斬られたとは申すな。母上や乳母を嘆き悲しませたくない。極楽往生の妨げにもなろう。いずれ分かるだろうが、鎌倉まで無事に送り届けたと伝えてくれ」
「若君に先立たれて、生きて都へ戻ろうとは思いません」
六代は、まさに斬られるというとき、肩にかかっている髪の毛を、小さな美しい手で払った。
その可憐な仕草に武士たちは、「なんと愛しい。この期に及んでなお、気品を保っておられる」 と感涙した。
六代御前とのtime to say goodbye はもう少し先ですが……。
六代は西へ向かって手を合わせ、よく通る声で念仏を10念唱えると、小さな首を差し出した。
狩野工藤三親俊が斬り手に選ばれ、左から六代の背後に回って斬ろうとしたとき、目がくらんで意識が飛んだ。「どうしても斬れません。他の人に申しつけて下さい」
時政が斬り手を選んでいると、月毛の馬に乗った黒衣の僧が、激しくムチを打って駆け付けて来る。
史跡女子の旅 (学研ムック)/学研パブリッシング
Image may be NSFW.
Clik here to view.

¥1,050
Amazon.co.jp
文覚 (人物叢書)/吉川弘文館
Image may be NSFW.
Clik here to view.

¥1,995
Amazon.co.jp
歴史とは何か (岩波新書)/岩波書店
Image may be NSFW.
Clik here to view.

¥861
Amazon.co.jp