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平家物語の群像 文覚⑱黒衣の僧が、月毛の馬に乗って


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$吉備路残照△古代ロマン-千本松原
 千本松原  沼津市の狩野川河口~富士市の田子の浦  静岡県

六代は、まだまだ甘えていたい母や乳母と別れ、住み慣れた都からはるかに遠い鎌倉へ下って行く。さながら、死への行進といえなくもない。恐怖心に押しつぶされやしないか。

12歳の胸のうち、察するに余りある。何ひとつ悪いことをしていないのに、である。

武士がたまたま自分の方へ馬を急がせてくると、「首を斬りにきたのか」 と怯え、武士たちがヒソヒソ話をしていると、「いよいよか」 と背筋が凍る。

駿河国の千本の松原で、六代の御輿が下された。そして、敷物が用意され、「お降り下さい」 と御輿から出された。

時政が馬から飛び下りて、急いで六代のもとへやって来た。

「途中で文覚房と行き会うかも知れないと思い、ここまでお連れしました。しかし、頼朝殿のお気持ちが分からないので、足柄山の向こうにはお連れできません。近江国で若君をお斬りしたと伝えます。平家一門の方なので、致し方ありません」 

六代は、時政の言葉には返事をせず、斎藤五宗貞斎藤六宗光を呼んだ。
「お前たち、都へ戻って私が斬られたとは申すな。母上や乳母を嘆き悲しませたくない。極楽往生の妨げにもなろう。いずれ分かるだろうが、鎌倉まで無事に送り届けたと伝えてくれ」

「若君に先立たれて、生きて都へ戻ろうとは思いません」

六代は、まさに斬られるというとき、肩にかかっている髪の毛を、小さな美しい手で払った。
その可憐な仕草に武士たちは、「なんと愛しい。この期に及んでなお、気品を保っておられる」 と感涙した。


六代御前とのtime to say goodbye はもう少し先ですが……。

六代は西へ向かって手を合わせ、よく通る声で念仏を10念唱えると、小さな首を差し出した。

狩野工藤三親俊が斬り手に選ばれ、左から六代の背後に回って斬ろうとしたとき、目がくらんで意識が飛んだ。「どうしても斬れません。他の人に申しつけて下さい」

時政が斬り手を選んでいると、月毛の馬に乗った黒衣の僧が、激しくムチを打って駆け付けて来る。

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