文覚はなんとか神護寺を立派に修復しようと大願を立て、勧進帳を携え、方々の施主 (せしゅ:僧や寺に物を施す人) を勧誘して歩いた。
ある日、後白河法皇の御所・法住寺殿に参上した。
御寄進願いたい、と近臣に申し出る。
御遊 (ぎょゆう:宮中や上皇の御所などで催された管弦の催し) の最中で聞き入れられなかったが、文覚はもとより物事に動じない荒法師。
近臣が取り次がないのだと思い、庭に押し入って声をはりあげた。
「大滋大悲の君が、この程度のことをどうしてお聞き入れ下さらないのか」
文覚は、勧進帳を広げて、声高らかに読みあげた。
沙弥文覚、謹んで申し上げます。
貴賤道俗から広く助成をいただいて高雄山の霊地に寺院を建立し、現世と来世の安楽という大いなるご利益を勤行 (ごんぎょう:仏道の実践に努める) することを乞う勧進の書状であります。
真理とは、果てしなく広大なもの。
悲しいかな、仏は早くに姿を隠し、生死流転 (しょうじるてん:生死を繰り返して、果てしなく三界六道の迷界をめぐること) のこの世は暗黒となった。
妄念 (もうねん:迷いの心) の雲は真理を覆い、衆生 (しゅじょう:生あるもの全て、特に罪深い人間) が本来もっている清浄な仏性の光はかすかである。
人はただ酒色に耽り、人を謗り、法をないがしろにしている。どうして、閻魔大王 (えんま:仏教における地獄の責任者) や獄卒 (ごくそつ:地獄で死者を責める悪鬼) の責めを免れることができようか。
(原文) 只耽色耽酒誰謝狂象重淵迷徒謗人謗法是豈免閻羅獄卒責
私はたまたま俗塵 (ぞくじん:浮世のちり) を払って法衣を着てはいるが、今なお悪い心がはびこり、日夜、悪心を生じ、立派な考えは耳に逆らってすぐに消えてしまう。
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