(左から) 金伽羅 大日大聖不動明王 勢多伽
文覚が、「あなた方はいったいどなたで、なぜ、私にこのように心をかけて下さるのか」 と尋ねると、
「われらは、大聖不動明王の御使いで、金伽羅 (こんがら) と勢多伽 (せいたか) という童子である。
『文覚が大願を発して、厳しい修行をしている。行って力を貸してこい』 という明王の仰せでやって来た」 という。
文覚が、「明王はどこにおられる?」
声を張り上げると、
「都率天 (とそつてん) に」 と答えるや、童子らは雲の上はるかに昇っていった。
「そうか、わが行を大聖不動明王が御覧になっているのか」
ありがたくも尊い気持ちにもなって、再び滝壺に戻ると、直立して滝に打たれた。
それからというもの、寒風は身に染みず、落ちてくる水は湯のように感じた。
そして、ついに21日間の大願を成しとげる。
那智に千日籠もったあと、吉野の大峯に3度、葛城に2度、高野、粉川、金峯、白山、立山、富士山、伊豆、箱根、信濃の戸隠、出羽の羽黒など、日本各地を修行して歩いた。
それでも、故郷は恋しかったらしい。
都へ戻ると、飛ぶ鳥を祈り落すほどに効験があるという意味で、刃の験者 (やいばのけんじゃ) と呼ばれるようになった。
それから、文覚は洛北の高雄にはいった。
高雄には、称徳天皇の御世に和気清麻呂 (わけのきよまろ) が建てた神護寺という山寺がある。
久しく修理していないので、春は霞に包まれ、秋は霧に烟り、扉は風に倒れて落葉の下に朽ち、屋根瓦は雨露に浸食されて、仏壇はすっかりむき出しになっている。
(原文) 久しく修造なかりしかば春は霞に楯籠めて秋は霧に交はり扉は風に倒れて落葉の下に朽ち甍 (いらか) は雨露に侵されて仏壇更に顕 (あらわ) なり
住職はおらず、稀に入ってくるものは日月の光ばかりである。
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平家物語の群像 文覚⑥春は霞に包まれ、秋は霧に烟り
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