『遠藤武者盛遠』 歌川国芳画
全身全霊というか傍若無人というか猪突猛進というか、横恋慕だろうと略奪だろうと、周囲の親しい人々を不幸のどん底につき落としながら、一途で激しい己の恋心を袈裟に叩きつけた遠藤盛遠は、出家後、
文覚を名乗ってからの修行ぶりも、やはり激烈である。
どうみても、尋常の人物ではない。
まず、修行とはどういうものか試そうとした。
(原文) 十九の年道心発し出家して修行に出でんとしけるが、修行といふはいかほどの大事やらん試いてみん
6月の風がなく日差しの強い日に、山里の薮の中へ入って裸になって寝転んだ。
全身を虻 (あぶ) や蚊や蜂や蟻が刺したり咬んだりしたが、7日間、文覚は微動だにしなかった。
8日目に起き上がって、「修行というのはこのくらい厳しいものなのか」と、人に尋ねると、「そんなに過酷だったら、生きてはいられまい」という。
「では、大したことはない。」とすぐ修行に出た。
熊野へ参詣して那智籠りをしようと思ったが、まずは修行の小手調べに、名高い那智の滝にしばらく打たれようと滝壺へと向かった。
(原文) 熊野へ参り那智籠りせんとしけるがまづ行の試みに聞こゆる滝に暫く打たれんとて滝本へこそ参りけれ
12月10日のころで、雪が降り積もり、氷が張って谷川は音もしない。
峰は、嵐が吹き荒れて凍っている。
滝の白糸は氷柱になって、上から下まで真っ白で、周りの梢も見分けがつかない。
それでも文覚は滝壺に下りていって首まで浸かり、不動明王の慈救呪 (じくじゅ: 唱えると災厄から免れ、願い事が叶うという) を唱えていた。
2~3日は、刃物で刺すように冷たい滝壺に浸かっていたが、さすがに4~5日も経つと堪えきれずに浮き上がった。
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平家物語の群像 文覚④修行といふはいかほどの大事やらん
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