袈裟御前の髪洗い
袈裟は、夫の渡に酒を好きなだけ飲ませて、いつもとは異なる奥の部屋で寝るようにすすめた。
それから自分の髪を丹念に洗うと、玄関に近い部屋に蒲団を敷いて横になった。
夜が深くなった。
盛遠が、こちらにやって来る気配がする。
闇にまぎれて屋敷に忍び込んだ盛遠は、袈裟の言葉どおりに、濡れた髪の首を斬り落とした。
その首を持って、屋敷から一目散に走り出た、
そして、月明かりの中で、その首を見てビックリ仰天。
腰を抜かした。
渡、ではない。
なんと、愛しい袈裟の首ではないか!!
一途に思ってくれる盛遠と愛する渡との板挟みになって懊悩した末の、これが袈裟の哀れな決断であった。
翌朝、目を覚ました渡がいつも寝ている部屋に行くと、首のない妻の亡骸が横たわっている。
大変なショツクを受けるが、目の前に現れた盛遠の憔悴しきった姿に盛遠を憎みきれず、共に出家して袈裟を弔った。
袈裟の命をかけた犠牲によって、盛遠はやっと自分の罪の深さに気が付いたのである。
衣川も、出家して袈裟の菩提を弔った。
その昔、「忠臣は二君に仕えず、貞女は二夫をかえず」といった。
やみくもに暴走する盛遠を戒めるとともに、夫に操を立てるために自らの命を犠牲にした袈裟御前は、「貞女の鑑」として後世に伝わっている。
盛遠は出家後、文覚 (もんがく) と名乗って、32日間の断食をしたり厳冬期に那智の滝に何日間も打たれたりなどの、人間離れした荒行に打ち込んだ。
その後、政治的な動きが目立つが、『平家物語』は詳細に記している。
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平家物語の群像 文覚③袈裟御前は「貞女の鑑」
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