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頼政の長年の郎等に、渡辺源三競滝口という者がいた。
宮尾登美子の 『宮尾本 平家物語』 によると、
「競が都大路を歩くと、あまりの美しさに女たちは皆めまいがして倒れた。」ほどの美男ぶりである。
三井寺へ駆けつけるのが遅れて都に残っていたのを、宗盛が六波羅へ呼んで、「そちはどうして、頼政入道の供をせずに都にいるのか。」と尋ねた。
競が、かしこまって答える。
「日頃、もしもの時は真っ先に駆けつけて、頼政殿に命を捧げるつもりでおりました。しかし今回はどうしたことか、何の知らせも頂けなかったのです」
宗盛は、「今後のことを考えて、当家に奉公するか。それとも、朝敵・頼政法師に味方するか。本音を申せ。」と問う。
競は、涙をはらはらと流しながら言った。
「たとえ代々のよしみがありましても、どうして朝敵となった方にお仕えできましょう。こちらに奉公いたします」
宗盛は、「ならば奉公するがよい。頼政入道以上の恩賞を与えよう。」と言い残して、奥へ入っていった。
日が暮れて宗盛が奥から出てくると、競が畏まって告げた。
(原文) 「三位入道殿三井寺にと聞え候ふ。定めて討手向けられ候はんずらん。入道の一類渡辺党さては三井寺法師にてぞ候はんずらん罷り向かつて選り討ちなども仕るべきに、乗つて事に逢ふべき馬を持ちて候ひしを、このほど渡辺の親しい奴めに盗まれて候ふ。御馬一疋下し預り候はばや」
(現代語訳) 「入道は三井寺にいるようです。討手を差し向けられるでしょうが、入道の一族の渡辺党や法師らが待ち受けておりましょう。私が、正面から討ちとってやります。こういう時のための馬を、渡辺党の親しい者に盗まれてしまいました。馬を一頭下げて頂けないでしょうか」
宗盛は、「そうだな」と、かわいがっている煖廷 (なんりょう 南鐐とも) という白葦毛の馬に、立派な鞍を置いて与えた。
頂いて屋敷へ帰ると、「日が暮れたら、三井寺へ馳せ参じよう。頼政殿の先陣を駆けて、討ち死にしよう。」と呟いた。
日が暮れると、妻子らを安全な場所に隠して三井寺へ出発。
大きな菊綴をつけた色鮮やかな紋の狩衣に、先祖代々の緋威の大鎧を着て、星白甲の緒を締め、厳めしい作りの大太刀を佩き、24筋差した大中黒の矢を背負った。
滝口の武士としての作法か、鷹の羽で作った的矢を一手、箙に添えている。
滋籐の弓を持って煖廷にまたがると、乗換用の馬に乗った従者を一人従え、屋敷に火をかけて三井寺へ駆けつけた。
六波羅では、「競の館が燃えている。」と騒ぎになった。
競による、あざやかな復讐劇。
『平家物語』によって愚か者に設定されている宗盛公、まさに面目躍如である。
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