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平家物語の群像 源頼政⑦わが身に代へて思ふ馬なれども

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$吉備路残照△古代ロマン-三井寺と源頼政  頼政、仲綱、次男兼綱らが三井寺 (園城寺) に集結


宗盛は返歌もしないで、「みごとな馬だ。素晴らしい馬だが、仲綱があまりにも惜しんだのが憎い。仲綱と焼印せよ。」と命じ、馬に仲綱という焼印を押して厩 (うまや) に入れた。

客が、「評判の名馬を拝見したい。」というと、宗盛は、「その仲綱めに鞍を置け、引き出せ、ひっぱたけ。」などという。

          ……       ……

(原文) 伊豆守この由 (よし) を伝へ聞き給ひて、「仲綱が身に代へて思ふ馬なれども権威に就いて取らさるるさへあるに、剰 (あまつさ) へ仲綱が天下の笑はれ草とならんずる事こそ安からね。」と大きに憤られければ、

三位入道宣ひけるは、「何条事のあるべきと思ひ侮づつて平家の人どもがさやうの痴れ事をするにこそあんなれ。その儀ならば命生きても何かはせん。便宜を窺ふでこそあらめ」

(現代語訳) 仲綱は伝え聞いて、「わが身に代えてもと大事に思う馬を、権柄ずくで奪われたことさえ悔しいのに、天下の笑い者にされるとはあんまりだ。」と憤慨すると、

頼政は、「平家の連中は、われらが何もできないと侮って、そんなふざけた真似をするんだな。そういうことなら命はいらん。時機を待とう。」と決意を述べた。

          ……       ……

そんな宗盛の愚行を見るにつけても、世間の人々は、聡明であった重盛を偲んだ。




ある日のこと、重盛が参内 (さんだい) したついでに中宮 (異母妹の建礼門院徳子) の部屋を訪ねた折、八尺 (約2.4m) ほどの蛇が、重盛の袴の左の裾を這い回った。

「私が騒ぎ立てれば、女房たちも騒ぎだすだろうし、中宮も驚かれるだろう。」と考え、左手で蛇の尾を押さえ、右手で頭をつかんで、直衣 (のうし) の袖の中へ入れた。

そして、何事もなかったかのように立ち上がると、「六位の蔵人はいるか、六位の蔵人はいるか。」と呼ぶ。

すると、当時、衛府の蔵人 (くろうど) であった仲綱が、「はっ、仲綱がこちらに。」とやってきたので、蛇を渡した。

仲綱は弓場殿 (ゆばどの) を通り抜け、殿上の小庭に出ると小舎人 (こどねり) を呼んで、「これを受け取れ」と命じると、小舎人は、首を大きく横に振って逃げてしまった。

仕方なく、郎等の (きおう) を呼んで、蛇を渡した。

    平重衡①重衡卿は生田森の副将軍 参照


翌日、重盛は、仲綱のもとに鞍をつけた良馬を遣わした。

「昨日の振る舞いは、優雅でしなやかであった。この馬は乗り心地が素晴らしい。衛門府の詰所から遊女のもとへ通うときに使え」

仲綱は、重盛への返事として、「御馬、畏まって頂きます。それにしても、昨日の振る舞いは、舞楽の名曲で、西域の人が蛇を見て楽しみ木製の蛇を小道具に使うという『還城楽』に似ていました。」と申し上げた。

重盛はいつもこのように優雅に振る舞ったが、腹違いとはいえ弟の宗盛は、他人の大事な馬を奪い取って、天下に大事が起きるきっかけを作るとは情けないことだ。


5月16日夜、頼政、嫡子・伊豆守仲綱、次男・源太夫判官兼綱、六条蔵人仲家、その子・蔵人太郎仲光以下、
甲冑で武装した軍勢300余騎が、館に火をかけて焼き払い、三井寺へ向かった。


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