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Channel: 吉備路残照△古代ロマン
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平家物語の群像 大納言典侍③今日を限りの 形見と思へば

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$吉備路残照△古代ロマン-平重衡卿之墓 平重衡卿之墓 十三重石塔は重衡の供養塔 安福寺 (重衡の菩提を弔うために建てられ、本尊の阿弥陀如来像は重衡の引導仏と伝わる) 京都府木津川市木津宮ノ裏


「一の谷で自害しようとしたが生け捕りにされ、京と鎌倉で恥をさらした。そして、奈良の衆徒に引き渡され、斬られる為にやって来た。元気な姿をもう一度見て、

見せもしたいと思っていた。もはやこの世に思い残すことはない。頭を剃って形見に髪の毛を渡したいが、このような有様なので、そうもできない」

重衡はそういうと、額の髪をかき分けて口にかかった毛を歯で噛み切った。

「これを形見として残しておこう」

大納言典侍は思いが込み上げたのか、うつ伏してしまった。

ややあって、涙声でいう。

二位の尼様や小宰相様のように、入水すべきだったのでしょうが、あなた様が亡くなられたとも聞いていなかったので、今一度、お会いしたいと思って生き長らえてきたのです。

それも、今日を限りとなりました」

それからふと気が付いたのか、「余りにみすぼらしいお姿です。お着替えなさって下さい」と、袷 (あわせ) の小袖と浄衣を、奥の部屋から出してきた。

重衡は着ていた服を、「これも形見に」と渡した。

大納言典侍は、「それも形見になりましょうが、筆跡こそ、後の世までの形見になります」と、硯(すずり)を持ってきた。

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重衡が、一首詠む。

○せきかねて 涙のかかるから衣 後の形見に 脱ぎぞ替えぬる

(とめかねた涙にぬれた衣を 形見として脱ぎかえていきます)

大納言典侍の返歌。

○ぬぎかふる 衣も今は何かせむ 今日を限りの 形見と思へば

(着替えられたお召し物も、今日を限りのお別れです。どうしたらいいのでしょう)

重衡は、「契りがあれば、来世でも必ず再会できる。日も暮れてしまった。奈良へはまだ遠い。護衛の武士を待たせるのも悪い」と立ち上がった。

大納言典侍は重衡の袂に泣きすがって、「ねぇ、もう少し、あと少し」と引き留めた。

「私だって別れたくはない。だが、もう定まった身。来世また会おう」

思いを断ち切って、出発した。



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