源氏物語名場面㉚
六条御息所 参
大伯おおくのひめみこ皇女
歴史上の
初代*斎宮/斎王
天武帝と大田皇女の娘で大津皇子の姉
○わが背子を 大和へ遣ると さ夜深けて
暁露に 吾が立ち濡れし
○二人行けど 行き過ぎ難き 秋山を
いかにか君が 独り越ゆらむ
これらの二首はともに大伯皇女の歌ですが
刑死が待ち受けている大和へ敢えて
戻って行く弟を想う姉の絶唱
☆ ☆
○ももづたふ 磐余いはれの池に 鳴く鴨を
今日のみ見てや 雲隠りなむ
大津皇子【辞世の歌】
伊勢から大和に戻った大津は
叔母の持統帝により反逆罪で死刑
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教養人で
趣味人でもある六条御息所の*邸は
いつしか
文学好きの女房や
風流を好む青年貴族が集う
活発な《文化サロン》となっていた。
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*邸
御息所没後
源氏が
宏壮な【六条院】を建立した際
御息所の邸跡を
『秋の御殿』として組み込んだ。
娘の秋好中宮が
宮中から里下りする場所である。
★
そんな順風満帆なある日、
御息所は急に重い病に臥せった。
病の不安の底で
源氏と関わりのあった
女君たちに対して一方的に行っ
てきた非道な所業が次々に蘇った。
怖くなって、
病身のまま髪を下した。
■
御息所は
見舞いに来てくれた源氏に
唯一気掛かりなことを打ち明けた。
ひとり娘/前斎宮のことである。
父(桐壺帝の弟)は
東宮時代に若くして身罷っている。
母と娘ふたりでずっと生きてきた。
後見人どころか身寄りさえいないのだ。
御息所は
我が身を振り返って甚だ心配だが
源氏に娘を託すほかない。
心から感謝しつつも、こう釘を刺した。
「くれぐれも娘を
愛人の一人に加えないで下さい」
遺言である。
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次回から、紫の上