源氏物語名場面㉙
六条御息所 弐
野宮神社
嵯峨野
《竹林の小径》の側に鎮座。
学問や恋愛成就、子宝安産等の祭神を祀る。
「縁結びの社」として若い女性に人気。
『源氏物語』第十帖「賢木」の舞台
樹皮のついた
黒木の鳥居や美しい苔の庭園には
長い風雪に耐えた枯淡の味わいがある。
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六条御息所は源氏に
会いたいが会いたくない会えば―
そんな
どっちつかずの気持ちで部屋を出た。
源氏はすでに縁側に上がっていた。
見ると、
両の頬になぜか涙が伝っている。
御息所は心の底から驚いた。
一瞬だけ
長きにわたる
抱えきれないほどの苦悩
から解き放れたような気がした。
「私はこの方のために
どれほど懊悩してきたことか。
関わりのある女君たちを憎み嫉妬し、
あろうことか手に掛けたこともあった」
■
東の空が白み始める時分、
源氏、
○暁の 別れはいつも 露けきを
こは世に知らぬ 秋の空かな
貴女と別れる暁はいつも涙に濡れていましたが
今朝は今までになく秋の明け空が涙に曇っています
六条御息所の返歌、
○おおかたの 秋の別れも かなしきに
鳴く音な添えそ 野辺の松虫
ただでさえ秋の別れは悲しいのに
野辺の鈴虫よ
鳴いてさらに悲しませないでおくれ
■
御息所は
斎宮について伊勢に下り
六年後に
斎宮とともに帰京すると六条
の【邸】を増改築して暮らし始める。
教養人で
趣味人でもある御息所の【邸】は
いつしか
文学好きの女房や風流を愛する青年
貴族らが集う《文化サロン》になっていた。