源氏物語名場面
朧月夜 伍
女房装束 御帳台
手引きしてきた女房は気が気でない。
雷が鳴り止み雨もやや小降りになった頃、
右大臣が娘たちの部屋を見回っていた。
しかし
屋根を叩く雨の音に紛れて朧月夜も源氏
も右大臣の足音に気がつかなかった。
まもなく、
右大臣が朧月夜の部屋に入ってきた。
御帳台に近づいて、
「昨晩はずっと荒れ
模様で心配していましたが、
お見舞いに来られませんでした。
元気にしていますか」
この時ほど、
朧月夜が困惑したことはない。
源氏と同衾している
所へ父親がやって来たのだ。
何はともあれ
戸惑ってばかりはいられない。
父が御帳台の中を
覗き込めば大変なことになる。
男がいることに
気付かれないようそっと御帳
台を出た顔が火照っていてひどく赤い。
陸へ
第八帖『花宴』
京ことば 源氏物語 《花宴》 山下智子