源氏物語名場面
朧月夜 陸
几帳 懐紙
男がいること
に気付かれないようそっと
御帳台を出た顔が火照っていて赤い。
右大臣は娘の顔が赤いのは
病による発熱のせいだろうと思ったが、
「顔がずいぶん火照っているようだけど
どうかしたのですか、*六の君」
*六の君/朧月夜は六女
目を落とすと娘の着物が、
男物の紫の帯を引きずっている。
「何か、おかしい―」
疑念をもった右大臣が辺りに
目を凝らすと
几帳の下に和歌などを書き散らした
男物の懐紙が落ちている。
「六の君、
見たことのない懐紙だが―」
万事休す!
もはや言い逃れできない。
といって、
本当のことは口が裂けても言えない。
朧月夜はしばし呆然としていた。
激昂した右大臣は懐紙を拾い
上げると御帳台の中を覗き込んだ。
漆へ