藤原俊成卿 愛知県蒲郡市竹島園地
都へ攻め上ってくる木曽義仲の勢いに追われるように、平家一門は西国を目指して都を落ちていった。
忠度も行動を共にするが、途中、列を離れて都へ引き返す。
そして藤原俊成を訪ね、勅撰集が編纂されるようなら是非、自分の作品を一首でも採り上げてくれるよう懇願した。
都落ちは平家没落への行軍であって再び都へ戻ることはないということが、忠度には見えていたのだろう。
だから、武士として常ならぬ現世に生きることを捨て、歌人として永遠に生きた証(あかし)を残そうとしたのだ。
…… ……
○三位うしろをはるかに見送つて立たれたれば、忠度の声とおぼしくて、「前途程遠し、思ひを雁山の夕べの雲に馳す(大江朝綱の漢詩)」と高らかに口ずさみ給へば、
俊成が忠度の後ろ姿が遠くなるまで見送っていると、「前途は遙かに遠い。今、私は、これから越える雁山の夕暮れの雲に思いを馳せています」と、忠度が高らかに吟じる声が聞こえ、
○俊成卿いとど名残り惜しう覚えて涙を押さへてぞ入り給ふ。
俊成はいっそう名残惜しく思い、涙をおさえて邸内に入られた。
○その後、世静まつて、千載集を撰ぜられけるに、忠度のありさま、言ひ置きし言の葉、いまさら思ひ出でてあはれなりければ、かの巻物のうちに、さりぬべき歌いくらもありけれども、
世の中が落ち着いて、俊成が千載集を撰んだ時、あの時の忠度の様子や言い残した言葉を改めて思い出して哀れに思い、巻物の中に採録できる優れた和歌はたくさんあったが、
○勅勘の人なれば名字をば表されず故郷の花といふ題にて詠まれたりける歌一首ぞ、読人知らずと入れられける。
朝敵なので名前を公表できず、「故郷の花」という題で詠まれた歌一首を、「読人知らず」としてお入れになった。
「古郷の花」といへる心を詠み侍りける 読人知らず
○さざ波や 志賀の都は 荒れにしを 昔ながらの 山桜かな
大津京は、今は荒れてしまったが、長良山に咲く桜は昔のままの山桜であることよ
○その身朝敵となりにし上は、子細に及ばずといひながら、恨めしかりしことどもなり。
忠度が朝敵となったからには仕方がないが、読人知らずとするのは切なく残念である。
…… 原文に忠実な訳ではありません ……
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