清盛の命を受けた5日後の10月21日、300名あまりの侍(さむらい)が、完全武装で摂政基房の行列を待ち構えていた。
一行がやって来ると、従者たちを引き倒してさんざん暴行を加えた上、元結いを切りおとすという侮辱をはたらいた。
さらに、基房の牛車に矢を放ったり簾(すだれ)をひきちぎったり乱暴の限りを尽くして、六波羅に引き揚げて行った。
報告を受けた清盛は、「神妙(しんびょう)なり (よくやった)」と満足げな様子だったという。
藤原氏繁栄の基礎をきずいた鎌足や不比等はいうにおよばず、藤原良房、基経よりこのかた、摂政関白がこのような屈辱を受けたのは、いうまでもなく初めてのことであった。
これこそ、「平家悪行のはじめ」であった。
思ってもいなかった破廉恥な暴力事件を聞いて、心底、驚いたのは小松殿(重盛)。
摂政の基房を襲うとは不敬であり、重盛はひどく恐縮した。
基房一行に乱暴狼藉をはたらいた侍らを、厳しく叱りつけて追放した。
「たとえ父上がいかなる命令を下そうとも、どうして私に知らせなかったのか。およそ資盛こそ、恥知らずである」
栴檀(せんだん)は双葉(ふたば)より芳(かんば)し、という。
すぐれた者は、幼いときからその兆候がある。
「12、13歳にもなる資盛よ、お前が礼儀をわきまえるべきだったのに、とんでもない無礼を働いて父上(清盛)の悪名を立てるとは、不考の至りである。罪は、お前ひとりにある」
資盛を叱責し、父祖の地である伊勢での謹慎を命じた。
世間の人々は、こうした重盛の振る舞いに大いに感心した。
以上は、古典文学中の名作『平家物語』による。
次回は、一等史料といわれる関白九条兼実の日記、『玉葉』の記事を紹介したい。
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