平重盛 小松殿 灯篭大臣
『平家物語』によると、清盛の嫡男である重盛は温厚にして徳性きわめて高く、また武勇にも学識にもすぐれた、非の打ちどころのない人物である。
一門がまだ得意の絶頂にあったころ、早くも平家の滅亡を自覚した預言者でもあった。
矛盾する言い回しになるが、重盛は、男たる者の理想はかくあるべしと『平家』が創造した、実在の人物である。
なぜ、そんなことになるのか。
前提として、物語中の重盛のみならず歴史上の重盛も、おそらく文武両道にすこぶる秀でた人物だったのだろう。
そして、なによりも肝心なことは、『平家』の作者が、物語中の重盛の言葉を通して、自分自身の意見や思想を表現しようとしたのではないかということだ。
重盛の発言の多くはそのまま作者の考えと解釈しても、それほど的外れではあるまい。
また、重盛の人となりを理想化したのは、物語を分かりやすくまた面白くするためでもあったのではないだろうか。
言い換えれば、聴き手(『平家』はもともと琵琶法師による弾き語り)や、読み手の関心をつなぎ留めるために、歴史的事実よりも文学的虚構を優先させたのだろう。
つまり、多くの人々に興味を持続してもらうための効果的な手法として、「善」と「悪」をくっきりと対比させながら、物語を書きすすめたのではないだろうか。
清盛はたいてい横暴な「悪人」であり、重盛はいつも思慮深い「善人」である。
その分かりやすい構図を、歴史的事実に優先させた。
『平家物語』は文字通り『物語』であって、『歴史書』ではない。
面白ければ、それで一向に構わないわけだ。
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平家物語の群像 平重盛①『平家』が創造した、実在の人物
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