平等院:この世の西方極楽浄土
そうした作者の清盛に対する憎悪が、清盛は熱病で悶絶死したと書かせたのではないか。
無間地獄に落とす前に、現世で、仏敵清盛に焦熱地獄を存分に味わわせてやりたかったのだろう。
ただし、清盛は南都に総大将として派遣した末子重衡に、東大寺と興福寺に火を放て、と命じてはいない。
戦火が、たまたま東大寺や興福寺方面へ吹く強い風に乗って、大仏などを襲ったとも言われる。
清盛は厳島神社に平家納経をおさめているし、日頃の仏事供養もなおざりにはしていないようだ。
後世、比叡山を焼き討ちにしたり一向一揆の勢力を根絶やしにしようとしたりした織田信長のような、破壊的な革命的価値観の持ち主ではないだろう。
平家物語は、琵琶法師の弾き語りで広く流布した作品であり、そもそも仏教説話的な要素が色濃い。
祇王や祇女、仏御前たちは若くして髪をおろして出家、西方浄土に往生するために朝夕、念仏を唱えた。
平家物語がこしらえた、理想的な生活なのだろう。
九条兼実も、浄土宗の開祖法然上人に帰依している。
庶民代表といえる白拍子から摂政関白まで、ひたすら極楽浄土を希求しているのだ。
そんな社会風潮の中、清盛にその意図があったかどうかはともかく、結果的に大仏を焼いてしまった。
この事実が、清盛を悪者にするために史実を歪曲したり、逸話をこしらえたりした最大の理由ではないだろうか。
時子は耐えられないほど熱かったが、熱病で苦しんでいる清盛の枕辺に寄って、涙ながらに尋ねた。
○御ありさま見奉(たてまつ)るに、日に添へて頼み少なうこそ見えさせたまへ。この世におぼし召し置くことあらば、少し物の覚えさせたまふ時、仰せ置け
日増しに、ご回復の望みは少なくなっていくようです。
もし何か言い残すことがあれば、少しでも御気分のいい時におっしゃって下さい。
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平家物語の群像 二位尼⑧清盛は仏敵か
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