源氏物語
第33帖藤裏葉
光源氏39 紫の上:31 東宮(春宮) 明石の君:30
明石の姫君:11 夕霧:18 雲居の雁:20
内大臣 雲井の雁
後朝きぬぎぬの文ふみ
夕霧は逢瀬の明けた朝、雲居の雁へ後朝の文を届けるが
娘の部屋へ来た内大臣が、その文に目を通した。
風俗博物館
浮世絵「艶源氏春のきぬぎぬ」
二代歌川国貞画
きぬぎぬ
衣きぬを重ねた語で、男女それぞれの衣服。
当時は掛け布団の代わりに、
男女が衣を脱いで衣を重ねて寝た。
夜明け前、男女が各々の衣を着て別れる。
内大臣、
「二人とものんびりと朝寝か、いい気なものだ」
夕霧は、夜がすっかり明けないうちに足早に帰っていった。
その寝乱れ髪の姿には、父・源氏ゆずりのドキリとするほどの妖艶な美しさと魅力がある。
後朝の文は人目を避けていたいつもの手紙とちがって、正式に使者(右近将監)を立て、玄関で係りの女房に手渡した。
雲井の雁が返書を書けずに悩んでいる様子を見て、女房たちが陰口を叩いているところへ不意に内大臣が現れた。
そして「後朝の文」に気づくと、ためらいなく目を通し始めた。
これを無神経と言わずして何といおう。
後朝の文の一部、
「打ち解けて下さらない貴女にお逢いして自分が哀れに思えましたが、抑えられない恋心からこの手紙を認めました」
○ 咎むなよ 忍びに絞る 手もたわみ
今日あらはるる 袖の雫を
お咎めなさいますな。
こっそり袖を絞る手に力がないので
今日は人目につくほど袖に涙の雫が流れることを。
夕霧のずいぶん馴れ馴れしい詠みぶりに、内大臣はつい口元がゆるんだ。
「筆跡も、いつの間にか上手になられたものだ」
それらの感慨にはもう昔の恨み辛みの名残りはない。
ふと目をやると、雲井の雁はまだ文面をあれこれ思案中で書き始めていなかった。
「早く返事を出さないと、夕霧殿が首を長くしておられますぞ」
内大臣は、女になったばかりの雲井の雁をからかいながら部屋を出て行った。
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