二十五帖 蛍
光源氏36 紫の上28 蛍兵部卿宮 玉鬘24 内大臣39
秋好中宮27 夕霧15 明石の君:27 柏木20
明石の姫君8 髭黒右大将 花散里22
紫式部像
紫式部は996年、越前守に任じられた父藤原為時とともに
多感な青春時代の約1年半を武生の国府で過ごした。
『紫式部公園』 福井県越前市
几帳きちょう 帷子かたびら
乱舞するゲンジボタル
蛍兵部卿宮(以下、蛍宮)が玉鬘に求愛している様子をこっそり物陰から見ていた源氏は、「弟は口説きなれているな~」といたく感心した。
玉鬘が蛍宮への返答をためらていると、どこにいたのか、源氏が近づいて来た。
そしていきなり几帳の帷子を一枚めくると、一群れの小さな光るものが辺りに散乱した。
淡い光を点滅させながら飛び交っている。
玉鬘のいる辺りが、パッと明るくなった。
光が漏れないように薄い布に包んでおいた無数の蛍を、源氏が薄暗い玉鬘の部屋に一斉に放ったのである。
突然の蛍の乱舞に急に部屋が明るくなり、玉鬘はあわてて扇をかざして顔を隠したが、蛍宮に一瞬見えた玉鬘の横顔は息を呑むほどに妖しく美しかった。
源氏は何のために玉鬘の部屋に蛍を放ったのだろうか。
「几帳越しに乱舞する蛍の光が見えれば、蛍宮はきっと中をのぞき込むであろう。
玉鬘がわたしの実の娘と思い込んでいる蛍宮は、わたしの権勢に取り入るために、これほど熱心に玉鬘に想いを訴えているのに違いない。
いずれにしろ、玉鬘がこれほどの麗人とは想像していなかったのではないか。
蛍宮の恋情をもっともっと惑わしてやろう」
どうやら蛍宮の気持ちを惑わすのが源氏の狙いだったようだ。
記憶をたどれば、そのことは玉鬘を養女として六条院に引き取ったときから源氏が企てていたことである。
しかし、もし玉鬘が実の娘ならば、このような男を夢中にさせる悪戯を思いついたがどうか。
源氏はふたりに気付かれないように、そっと部屋を出ていった。
蛍宮は、意外と近くに玉鬘がいる気配がするので心がときめいた。
帷子の隙間からそっと中をのぞくと、一間ほど隔てた辺りにおびただしい数の点滅する蛍の光がほのかに玉鬘を照らしている。
なんと幻想的で雅な情景ではないか。
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