二十四帖 胡蝶
光源氏.太政大臣36 紫の上28 花散里22 秋好中宮27
明石の君:27 夕霧中将15 玉鬘 24 明石の姫君:8
*釣殿つりどの
池に臨んでいる。
聖徳太子孝養像
*角髪を結った16歳の厩戸王うまやどのおう(聖徳太子)
去年の秋に秋好中宮へ返歌しなかったことを気にかけていた紫の上は、春爛漫の今なら、秋をけなすこともなく単に春の素晴らしさを詠めばいいと思い至った。
中宮に【春の御殿】の花の盛りをぜひとも見てほしい源氏も、紫の上に返歌を届けるように勧めた。
しかし中宮ともなると、何かそれなりの行事でもなければ、好きな時に好きな場所へ行けるわけではない。
気軽に、「花を楽しむために出かける」ことなど出来ない身分である。
中宮の代わりに、若い女房のうち社交的な者たちに声をかけた。
『秋の御殿』の池は『春の御殿』の池に通じるように造られており、小さな「築山」を二つの池を隔てる関所に見立てている。
源氏は東の釣殿に紫の上付きの若い女房たちを集めて、中宮方の若い女房たちを迎えさせることにした。
『龍頭鷁首船』を唐風に飾りたて、楫かじを取り棹さおをさす童たちは*角髪に結い唐風の装束を身に着けている。
船はまず、【春の御殿】から中宮方の若い女房たちを迎えるために、【秋の御殿】に向かって漕ぎ出した。
『龍頭鷁首船』など乗ったことはもちろん見たこともなかった中宮方の女房たちは、見知らぬ外国に来たような気がして珍しがったり感心したりしていた。
水上から陸を眺めるのも初めての経験で、ふだん目にしている春の風景とは違って見えた。
ほかの【御殿】では盛りを過ぎた桜は、【春の御殿】ではまだ今を盛りと咲き誇り、渡り廊下をめぐる藤の花は絢爛と咲き初めている。
水面に影を映している山吹は、岸から溢れるように咲きこぼれている。
日が暮れかかるころ、楽人たちの奏でる雅楽の妙なる音色を耳にしながら、女房たちは気持ちを船に残しつつ、紫の上付きの女房たちの待つ『東の釣殿』に寄せた船から下りた。
*釣殿
寝殿造り南端の池に臨んで建てられた周囲が吹き放ちの建物。
魚釣りを楽しんでいたから、「釣殿」と名づけられた。
納涼や饗宴にも用いられた。
*角髪 みずら
古代における貴族男性の髪型。
成人が「冠」を かぶるようになってからは少年にのみ結われた。