二十三帖 初音
光源氏.太政大臣36 紫の上28 花散里22
明石の君:27 夕霧中将15 玉鬘 24 明石の姫君:8
源氏は人妻・空蝉の寝室に忍び込むが逃げられる。
歌川/安藤広重画
貴族社会では男は女房の手引きで女の寝室に入った。
女房たちには深窓育ちの何も知らない姫君たちの
「婿取り」という大切な仕事があったのだ。
3日続けて通えば結婚が成立した。
源氏は2度、案内なしで忍び込んでいる。
相手はともに人妻の藤壺宮と空蝉。
藤壺宮はただの人妻ではない。
空蝉 伊予の介 紀伊の守
*閼伽棚あかだな
仁和寺
年始回りの最後は、出家している空蝉。
尼僧の部屋らしく経典や仏具なとをきちんと取り揃えて、日々、静かに仏道にいそしんでいる雰囲気が漂っている。
仏具のお飾りや*閼伽棚など、空蝉のセンスの良さを示してとても趣深い。
一方、*女らしくたおやかで控え目だがコケティッシュな仕草と立ち居振る舞いは昔のまま。
源氏の男心を惹きつけた。
「遠い昔のことになりましたが、あなたとの仲はつらいことばかりでした。
それでも、どんなご縁なのでしょう。
お付き合いは今まで絶えませんでしたね」
「このように源氏の君におすがり申していることが、本当にありがたいご縁に恵まれていることと存じております」
しみじみと語る空蝉の頬には涙が伝っている。
「たびたび私につれなくして辛い思いをさせた罪の報いを、あなたが今こうして仏に懺悔していらっしゃるのを見ているとかえって辛くなります。
分かりましたか。
男というものは、私のように素直な者ばかりではないということを」
源氏の言葉の意味するところを察した空蝉は、恥ずかしさで顔を赤らめた。
夫・伊予の介の死後、継子の河内の守に言い寄られた浅ましい過去を、源氏は知っていたのだ。
「このような尼姿をお目にかけなければならない以上の報いがございましょうか」
空蝉は泣いた、心の底から泣いた。
空蝉の気持ちの収まるのを待ってから当たり障りのない思い出話や世間話をして、源氏は帰っていった。
年始の別れ際に、源氏はどの女君に対しても声をかけた。
「もしお会いできない日が多くなっても、けっして心の中ではあなたを忘れているわけではありません。
ただ、いつか来るこの世との別れだけが気にかかります。
人の寿命は分からないものですから」
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*閼伽棚
仏前に供える水などを載せる棚。閼伽とは仏に供える水
*女らしく
紫式部は、空蝉と玉鬘の母・夕顔を「女らしい」女としている。
共通点は、二人とも身分社会において中流。
相違点は、夕顔は自分の男受けのするコケティッシュな面を知っていた
が、空蝉はどうも疎かったようだ。
ちなみに、女の方から源氏に誘いをかけたのは色好みの老女・源典侍げんのないしのすけと夕顔の二人。