二十三帖 初音
光源氏.太政大臣36 紫の上28 花散里22
明石の君:27 夕霧中将15 玉鬘 24 明石の姫君:8
*臨時客
正月二日、六條院{【春の御殿】にて上達部や
親王らを招いて臨時客が行われた。
『風俗博物館』
正月の華やぎは【春の御殿】のみ、
ほかの【御殿】は寂しくひっそりとしている。
まして、空蝉と末摘花が暮らす『二条東院』はーーー。
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妙におかしい。
「昨日は、朝から夕方まで息つく暇もないほど年賀の客への応対に追われました。
みんながやっと帰ったかと思えば、次は年始回りです。
すっかり疲れ果ててつい居眠りしてしまったようなのですが、あちらが気の毒に思ったのか起こしてくれなかったのです」
紫の上が憮然としたまま表情ひとつ変えないので、源氏はバツが悪くなって早々に退散した。
だからといって、【六条院】の主たる者が正月二日に何もしないで無為に過ごせるわけではない。
二日は*臨時客の日で、年賀の客が大勢やってくる。
サボるわけにはいかない。
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できるだけ紫の上と顔を合わせないようにしながら、源氏は大勢の年賀の客人たちと挨拶を交わし応対した。
太政大臣である源氏の勢威を示すように、上達部や親王などがひとり残らず訪れた。
豪勢な会食が終わると、管弦や正月の遊びなどを存分に楽しむ。
そして、上達部や親王たちはそれぞれの都合で帰ってゆく。
源氏が【二条院】に住んでいた昨年までと同じ流れだが、今年は一つだけ艶っぽい要素が加わっており「新たなドラマ」を予感させた。
飛び切りの美人で、教養も高いと評判の玉鬘の存在である。
若い貴族たちはもちろん玉鬘に会えるわけではないが、それでも終始ソワソワしていた。
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ただこうしたお目出度い正月らしい年賀の客の賑わいは、【六条院】でも、『春の御殿』だけに限られている。
ほかの『御殿』に住んでいる女君たちには、大勢の年賀の客人たちが呼び交わす声や馬のいななきや牛車のきしむ音などが、ひっそりとした部屋に築地や木立を隔てて聞こえてくるのみだ。
年の改った華やぎを目の当たりにできないことが、何とももどかしい。
*臨時客
・平安時代に年始(通常は正月2日)に摂関家や大臣の邸宅におい
て、親王や公卿以下の貴族を迎えて催した宴会
・大饗だいきょうのような『公式行事』ではないので、「臨時客」という
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