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Channel: 吉備路残照△古代ロマン
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葵21男と女は厄介なもの

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葵の上
もだえ苦しむ葵の上 風俗博物館 京都市

彰子
彰子(しょうし)の若宮(のちの後一条天皇)の五十日の祝い

  ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

葵の上は、紫式部と『源氏物語』のスポンサーである藤原道長とおなじく、清水寺の南側にひろがる鳥辺野で荼毘(だび)に付された。

八月廿日すぎの有明の月のころ。

空はしみじみと趣が深い。

悲嘆に暮れた左大臣が、夜の闇をさまよい歩いている。

左大臣の気持ちを察して、源氏

○ のぼりぬる  煙はそれと  わかねども

      なべて雲居の  あはれなるかな

空に上ってゆく火葬の煙がどの雲になったのかは分からないけれど、いずれの雲も懐かしいことよ


源氏は、葵の上を亡くした悲しみと目撃した六条御息所の生霊のことを思い合わせて、いっそう嘆きが深くなっていた。

「もしかしたら、私たちが参内(さんだい)している間に---」

つい、そう疑ってしまう。

一筋縄ではいかない男女の関係が、つくづく厭わしい。

そのせいか、つぎつぎに届けられるく女君たちのお悔やみの言葉を素直には受け取れなかった。

源氏は、若紫の待つ二条院にも帰らず、日夜勤行に励んだ。


霧の立ちこめている朝ぼらけ。

ほころびかけた菊の枝に結んだ藍色の手紙を、どこかの家の使いがもってきた。

「なんと優美な筆跡だろう」

一目見て感心すると、やはり御息所からである。

「しばらくお手紙を差し上げなかった事情は、お分かり頂けると存じます。

○ 人の世を  あはれときくも  露けきに

      おくるる袖を  思いこそやれ

人の世がはかないものと聞くにつけ涙がこぼれます。まして、北の方に先立たれた光君は袖の乾く暇もないことでしょう

お悔やみ申し上げます」

源氏は、「いつにもまして見事な文字だ」と感服する反面、「素っ気ない、誠意のない弔問だ」と不愉快になった。

生霊のことを知っているだけに、「臆面もなく、こんな白々しい手紙を」とも思う。



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葵22御息所の悔恨

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「六条御息所」上村松園画 東京国立博物館

東宮
現在の東宮御所(御車寄) 赤坂御用地

  ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

生霊のことを知っているだけに、「臆面もなく、こんな白々しい手紙を」とも思う。

だからといって返事をださないのも気の毒で、六条御息所の名誉を傷つける。

紫色の鈍色がかった紙に、手紙をしたためた。

「すっかりご無沙汰いたしております。いつも気にかけておりますが、喪中の間はお察しいただけようかと存じまして。

○ とまる身も  消えしもおなじ  露の世に

      心おくらん  程ぞはかなき

生き残った者も亡くなった者も、露のようにはかない世の中です。いずれにしろ、執着するのはつまりません

もう愛執を捨てて下さい。

喪中の便りは、御覧いただけないかも知れませんが」


御息所は、源氏が文中にほのめかしている「生霊」を自覚しているので、源氏に悟られていることを、「やっぱり」と溜息をついた。

「ほんとうに情けない。

もし桐壷院のお耳に入ったら、どうお思いになるでしょう。
同腹のご兄弟の中でも、とくに故東宮(皇太子 御息所の亡き夫)と仲好くして預いていた。
娘の斎宮のことも、心配して下さっている。
わたしにも度々、『宮中で、お暮らしなさい』と勧めてくださる。

それなのに、わたしは源氏の君と浮き名を流し、葵の上様にもっての外の事をしてしまった」


しかし、何といっても御息所は当代第一の才色兼備であり、ゆたかな趣味人である。




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葵23光源氏と頭中将

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野の宮 野の宮(野宮神社)
日本最古の鳥居の様式  京都市右京区嵯峨野

野の宮禊の儀式 禊(みそぎ)の儀式
斎宮は野の宮に籠もり、大堰川(おおいがわ)の河畔で身を清めて伊勢神宮へ赴いた。

斎宮行列 斎宮行列
野宮神社出発~JR嵯峨嵐山駅~嵐山渡月橋周辺

 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

しかし、何といっても御息所は当代第一の才色兼備であり、ゆたかな趣味人である。

斎宮とともに嵯峨の野の宮へ移るときには、いろんな趣向をこらして沿道の都人を楽しませた。

それからしばらく、風流を好む貴族たちが朝に夕に、当時はまだ草深い田舎だった野の宮を訪れた。

「さもありなん。御息所は深いところで風雅を解される方だ。お話しするのは楽しい、ためにもなる。伊勢へ下られたら、やはり寂しい」

源氏にも、別れはつらい。


七日目ごとの法事が次々と過ぎていったが、忌明けの四十九日までは二条院に帰らず、左大臣邸に引き籠もっているつもりである。

そんな源氏が気の毒で、頭中将が毎日のように源氏の部屋にやって来ては、たわいもない世間話をして慰めた。

時には、年老いてなお好色だった源典侍(げんのないしのすけ)や鼻の形が象のような醜女の末摘花(すえつむはな)の話をもちだしては笑いあったり、互いの浮気話を暴露しあったりして盛り上がった。

作者・紫式部の遊び心だろうが、源氏頭中将が恋敵として争い、ともに関係をもった女はこのユニークな二人である。

そんな色話に興じているときにも、源氏の頬を涙がつたう。

○ 見し人の  雨となりにし  雲居さへ

      いとど時雨に  かき暮らすころ

葵の上が雲となり雨となった空を見上げては、涙に暮れる今日この頃です

この和歌によっても、源氏葵の上に対する深い愛情が強烈に伝わってくる。

頭中将は、葵の上の兄としてもちろん嬉しい。

だが、不思議でならない。




◆雨夜の品定め①懸想文 ◆藤壺①藤壺の宮、入内

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葵24夫婦仲

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紫式部と清少納言
紫式部「源氏物語」と清少納言「枕草子」

青海波1
唐楽『青海波(せいがいは)』を舞う、光源氏(左)と頭中将(右) 「紅葉賀の巻」

 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

頭中将葵の上の兄としてもちろん嬉しいが、どうにも不思議でならない。

ふたりの馴れ初めtら、の死までのことについて思いめぐらした。


源氏が14歳、葵の上が17歳のときに結婚して以来ずっと、ふたりの夫婦仲が冷たくよそよそしかったことを誰よりも身近にいたのでよく知っている。

源氏はよその女のところに通うのに忙しく、めったに正妻である葵の上のもとに足をむけなかった。

たまにやって来ると、こんどは葵の上が自分の部屋に閉じこもったまま出てこない。

玄関で迎えようとしないどころか、父の左大臣に強く促されるまで源氏に会おうとしなかった。

しぶしぶ会っても、あいさつを交わすこともなくそっぽをむいたまま黙ってすわっている。


桐壺院が心を痛めて、源氏にもっと葵の上を大事にするよう諭したこともある。

源氏はつねづね、左大臣がなにかと気を使ってくれていることを申し訳なく思っていた。

義母の大宮桐壺院の妹で、源氏には叔母にあたる。

すなわち、源氏葵の上はいとこ同士である。

かくも、ふたりは血縁的に関係が深い。

しがらみにからめとられて、源氏葵の上と縁を切ることができず、不本意ながら夫婦を続けているのだろうと気の毒に思ったこともある。

だが、源氏を正妻として特別な存在と考えてくれていたようだ。


そうと分かると、頭中将葵の上の早すぎる死がますます惜しまれてならない。




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葵25朝顔の宮

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朝顔の宮 光源氏 葵の上 頭中将 朝顔の宮 桃園式部卿宮ももぞのしきぶきょうのみや 紫の上 桐壺院

なでしこ 撫子  秋の七草の一つ
○ 秋の野に  咲きたる花を  指(および)折り 
    かき数ふれば  七種(ななくさ)の花
萩の花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花また藤袴、
朝貌(がお)の花      山上憶良  万葉集

   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

そうと分かると、頭中将葵の上の早すぎる死がますます惜しまれてならない。


源氏は、前庭の枯れた下草の中に咲いている龍胆(りんどう)と撫子を折らせた。

そして、夕霧の乳母である宰相の君(さいしょうのきみ)に、手紙を添えて大宮のもとに届けさせた。

○ 草枯れの  まがきに残る  撫子(なでしこ)を

      別れし秋の  かたみとぞ見る

枯れ果てて寂しくなった庭の垣根に、撫子の花が咲き残っておりました。秋に死に別れた方(葵の上)の忘れ形見(夕霧)を見るようです

夕霧のあどけない笑顔は、本当に可愛いらしいものです。

大宮は風に吹かれて散る木の葉のように流れ落ちる涙のため、しばらく源氏からの手紙を読むことができなかった。

○ 今も見て  なかなか袖を  朽(く)たすかな

        垣ほ荒れにし  大和撫子

今も、撫子(夕霧)を見てかえって袖を涙で濡らしております。垣根が荒れはて、生まれてすぐに母親(葵の上)に先立たれた撫子ですから


秋の夕のつれづれに、源氏は久しぶりに朝顔の宮に手紙をしたためた。

今夕のしみじみとした情趣を、朝顔の宮なら理解してくれると思ったからである。

朝顔の宮桐壺院の弟の桃園式部卿宮の姫宮で、葵の上とおなじく源氏のいとこ。

源氏が若いころから思いを寄せていた女君の一人である。




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葵26もの思ふ秋

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上賀茂神社 賀茂別雷かもわけいかづち神社 (通称:上賀茂神社) 世界文化遺産

下鴨神社 賀茂御祖かもみおや神社
(通称:下鴨神社) 世界文化遺産

賀茂祭絵巻
賀茂祭(葵祭)絵巻一部 下鴨神社

   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

源氏が若いころから思いを寄せていた女君の一人である。


朝顔の宮源氏に好意をいだいているが、源氏の派手な恋愛遍歴を聞くにつけ、ことに六条御息所の決して幸せとはいえない顛末を知るにつけ深入りを避けた。

プラトニックな関係を保ちつづけ、季節の移ろいに触発されては便りを交わす風流な交友に終始した。

生霊となって恋敵をとり殺したほどに源氏に執着した御息所と対照をなす女人である。

桐壺帝から朱雀帝へ代替わりしてから長く斎院を続けたため婚期を逃し、そのまま独身を貫いて出家。

*斎院 下鴨神社と上賀茂神社に奉仕した未婚の内親王or女王

御息所の影絵のような貴婦人として、とりたてて活躍する場面もなく物語の表舞台からひっそりと消えていった。

斎院になるまでは、葵の上亡きあと源氏の正妻候補に幾度となく名前が挙がって、正妻格の若紫をやきもきさせる。


いつも忘れたころに届く源氏からの便りだが、女房たちは目を輝かせて朝顔の宮にわたした。

空色の唐(から)の紙に、

○ わきてこの  暮こそ袖は  露けけれ

       もの思ふ秋は  あまた経ぬれど   

とりわけ今日の夕暮れは、悲しみに袖をしとど濡らしております。やるせない物思いに涙した秋はたくさん経てきましたが

筆跡など心をこめて書いてあるので、いつもよりいっそう見栄えがする。


朝顔の宮

「喪中でお引き籠もりのご様子とお聞きしておりましたので、お便りをご遠慮いたしておりました」

○ 秋霧に  立ちおくれぬ  と聞きしより

      しぐるる空も  いかがとぞ思ふ

秋霧の立つころ北の方に先立たれたとお聞きしてより、時雨の空を仰ぐたびに残された光君の悲しみはいかばかりかと拝察しておりました

かすれた薄墨で書いてあるが、朝顔の宮の筆跡と思うから奥ゆかしく心惹かれる。




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葵27左大臣邸を出る

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あこめ 衵(あこめ)姿 京都・風俗博物館  貴族階級の女児が上着として着用する
 大殿油(おほとなぶら)
宮中や貴族の邸宅でともした油のともし火

 汗衫 汗衫(かざみ) 風俗博物館  貴族階級の女児用薄手の上着

  ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

ややかすれた薄い墨で書かれているが、朝顔の宮の筆跡と思うからか奥ゆかしく妙に心惹かれる。

日がすっかり暮れた。

源氏は大殿油を近くに燈させて、気心の知れた女房たちをよんで四方山話をさせた。

中納言の君は何年もの間ひそかに情けをかけてきた女房だが、喪中には葵の上に気兼ねする必要はないにかかわらず一度も色めいたことをしなかった。

そのことを、中納言の君源氏のやさしさと思っていた。

亡き葵の上がとりわけ可愛がっていた幼い女童(めのわらわ)がいる。

名前は、あてき

両親がいないので、部屋の隅のほうで心細そうにしている。

あてき、これからは私を頼りにするのだよ」

源氏がやさしく声をかけると、ひどく泣きだした。

小さい衵を濃く染めて、黒い汗衫、萱草(かんぞう)色の袴などを着ているのがとても可愛らしい。

「亡くなった葵の上を大事に思ってくれている人は、どうか夕霧を見捨てずに仕えてほしい。

葵の上がいたころの名残りがうすれ、そなたたちまで去っていなくなれば、がここへくる寄る辺がなくなってしまう」

そこへ、左大臣がやってきて、女房たちの身分に応じて、ちょっとした趣味的な道具や葵の上の形見となるような物を一同に配った。


源氏はいつまでも左大臣邸に引き籠ってばかりはいられないので、そろそろ二条院に戻ろうと思っている。

まず、桐壺院にあいさつに行くことにした。

源氏にすっかり馴染んでいる葵の上付きだった女房たちは心細くなって涙をあふれさせている。

左大臣大宮も寂しげに肩を落としている。

源氏は叔母である大宮に別れの挨拶の手紙を届けさせた。




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葵28久々の二条院

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袍
袍(ほう) 束帯及び衣冠着用時の上着

したがさね
 下襲(したがさね) 束帯の内着

えい
 纓(えい) 冠の付属具で背後の中央に垂らす部分

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

源氏は叔母である大宮に別れの挨拶の手紙を届けさせた。


院の御所へ着くと、桐壺院

「何日も精進したせいか、ずいぶん面やつれしたものだ」

すぐに食事などをとらせ、源氏が恐縮するほど何くれとなく心を配って世話をした。


すこし元気をとりもどすと、つぎに藤壺の中宮をたずねる。

女房たちが久しぶりの来訪を珍しがり嬉々として迎えた。

源氏がだれよりも会いたい藤壺の中宮は、王命婦(おうみょうぶ)を通して、

北の方を亡くされて光君には悲しみが尽きないことと拝察いたします。日が経つにつけましてもご心中いかばかりかと」

源氏

「この世が無常であることは一通りはわきまえているつもりでございました。

しかし身近な者の死をみますと、つくづくこの世が厭わしく思い乱れることも多々ございました。

そんなとき藤壺様からたびたびお見舞いのお便りを頂きまして、どれほど慰められたことでございましょう。

お蔭さまで、今日まで生き永らえることができました」

無紋の袍(ほう)に鈍(にび)色の下襲(したがさね)をきて、冠の纓(えい)を巻きあげた源氏の喪服姿は、華やかに装ったときよりもいっそう優美でなまめかしい。

東宮(とうぐう 皇太子 源氏藤壺の子)にも久しく会っていないことが気がかりで、夜が更けてから退出した。 


やっと自邸に戻ってきた。

二条院では、邸中の部屋や調度類を磨き立てて、男も女もみんな打ち揃って久々の源氏の帰りを楽しみにしていた。

身分の高い女房らは里から戻って美しく着飾り、これみよがしに化粧をこらしている。




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今度の事件で、すっかり変わりました。平和国家からきた日本人として中東でも比較的安全だったのが、「向こう見ずな首相(というより血気盛んな青年将校)の発言と行動」とによって、過激派の無差別テロの標的ペタしてね

葵29若紫

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源氏と朧月夜1
源氏 若紫(紫の上) 桐壺院 葵の上 東宮 藤壺の中宮

寝殿造  寝殿造 西の対

几帳の帷子几帳の帷子(かたびら)
帷子  几帳(きちょう)や帳(とばり)などに用いて垂らす絹

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

身分の高い女房らは里から戻って美しく着飾り、これみよがしに化粧をこらしている。

源氏の帰宅を迎える彼女らの晴れがましく嬉しそうな表情を見るにつけ、左大臣邸で暗く沈んだ様子で見送ってくれた女房たちをしみじみ気の毒に思い出していた。


衣服を着替えると、若紫のいる西の対に向かった。

久しぶりに帰ってくる源氏のために、若紫は精一杯おめかしをして綺麗に着飾って待っていた。

「しばらくお会いしない間に、すっかり大人の女性になられましたね」

源氏が小さな几帳の帷子(かたびら)をもち上げると、若紫は横を向いて恥ずかしそうにしている。

そろそろ14歳になるのだろうか。

文句なしの美少女である。

しかも、火影に照らされた横顔や頭の恰好などが叔母にあたるあの方にますます似てきている。


久しく会えないでいた間、ずっと心配していたことなどを少し話して、

「わたしが留守にしていたあいだのお話をゆっくりしてあげたいのですが、あまり縁起のいい話ではないので、しばらく他の部屋で休んでからまた参りましょう。

これからはいつでも、お会いできます。

姫君が、『うるさい』と思うことがあるかも知れませんよ」

源氏がやさしく若紫に語りかけているのを、乳母(めのと)の少納言はうれしく聞いていたが、やはり一抹の不安を拭えなかった。

葵の上亡きいま、だれが源氏の正妻になるのだろうか。




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安倍晋三という人物、むやみに攻撃的なだけで想像力が決定的に欠けている。もっとも、スピーチとイスラエルでの行為が日本人ふたりの殺害につながったと認めれば、その瞬間、政治生命を絶たれるだろう。安倍帝国の終焉ペタしてね

葵30源氏と若紫

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いご 碁盤を囲む空蝉(うつせみ)と軒端荻(のきばのおぎ) 宇治市源氏物語ミュージアム

若紫
土佐光起筆『若紫』源氏物語画帖
スズメが飛んでゆくほうを眺める若紫(紫の上)、尼君、侍女らがいる僧都の家を外から垣間見る光源氏

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

葵の上さま亡きいま、一体どなたが次の源氏の君のご正妻になられるのでしょう」

少納言は、しきりに気がもめた。

源氏の君は、たくさんの身分の高い女君のもとにお忍びで通っていらっしゃる。
その方々の中から、ご正妻が選ばれるのかしら。
その選ばれたご正妻と、姫君との関係はどうなるのかしら。

できれば、姫君源氏の君ご正妻になってほしいもの」


源氏は東の対の自分の部屋にもどって、中将の君という女房に足などを揉ませているうちに寝入ってしまう。

翌朝、起きるとすぐに左大臣邸の夕霧に手紙をかいた。

*当時、貴族の子息は母方の実家で生まれ育てられた

その日の夕刻にさっそく大宮から返事がとどいたが、一人娘をなくして悲しみに沈んでいる左大臣邸が案じられる。


二条院に戻ってからというもの、源氏は物思いに耽ってばかりで夜の忍び歩きも億劫でおとなしくしていた。

ただ若紫がすべてにわたって理想的に成長していることが殊の外うれしかった。

北山の寺にいた藤壺そっくりの若紫を、自分の理想通りに育てようと兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)から奪うように引き取ってきたときの夢が実現している。

14歳だが、その年齢で源氏葵の上と結婚した。

夫婦になっても、おかしくない年頃だ。

結婚を匂わすようなことを時々言葉にだしてみるが、若紫はまったく気がつかない様子である。

しかたなく、源氏は西の対で若紫と囲碁を打ったり偏つき遊びをしたりして日々を暮らしていた。



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金正恩さんは安倍晋三さんと同じやんちゃな三代目。どうやらミサイルが楽しい「おもちゃ」に見えるらしいペタしてね

葵31起きたまはぬ朝

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御帳台 御帳台(みちょうだい)
貴族の座所や寝所として屋内に置かれた調度(家具)

硯箱
「国宝 源氏物語絵巻物」から
夕霧(光源氏の長男)と妻の雲居雁(くもいのかり)。夕霧は恋人・落葉宮の母親からの手紙を読んでいるが、雲居雁落葉宮からのラブレターと疑い取り上げて隠した。
夕霧の前に、大きな「硯箱(すずりばこ)」がある。

碁盤 棊局(ききょく 碁盤)
聖武天皇遺愛の碁盤 東大寺正倉院

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

しかたなく源氏は西の対で若紫と「碁」を打ったり、「偏つき遊び」をしたりして日々を暮らしていた。

*偏つき遊び ・ゲームを兼ねた教育
 ①漢字の旁(つくり)に偏(へん)をつけて字を完成する
 ②旁を隠して、偏を見て文字を当てる
 ③特定の偏の字をいくつ知っているかを競う

若紫はとても利発で愛嬌がある。

碁は筋がいいから上達がはやく、偏つき遊びはひらめきに秀でているので誰にも負けない。

たわいない遊びの中にも、優れた才能をのぞかせた。

そんな若紫にも、少女っぽさの中にそこはかとない大人の女の色気がただよっている。

「まだ無邪気なところも残っているが、そろそろいい頃かな」

源氏はどうやら「いけないこと」を考えているようだ。


源氏若紫は、いっしょに暮らし始めてからずっと御帳台のなかで添い寝している。

若紫は、源氏の胸に抱かれて寝ていたのだ。

それゆえ、まわりの女房たちには、ふたりがいつから男と女の仲になったのか分かるはずもなかった。


ある朝、源氏だけが、早く起きてきた。

若紫は、なかなか起きてこない。

(原文)男君はとく起きたまひて、女君はさらに起きたまはぬ朝あり。

女房たちは心配して、

姫君はどうされたのかしら。ご気分がすぐれないのかしら」


源氏は東の対の自分の部屋に戻るとき、硯箱を御帳台の内に差し入れた。




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葵32夜の衣を

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衾
衾(ふすま)  掛け布団  風俗博物館
結び文 結び文
細く巻き畳んだ書状の上端or中央を折り結んで、結び目に一筋墨を引いたもの

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

源氏は東の対の自分の部屋に戻るとき、硯箱をそっと御帳台の内に差し入れた。

だいぶ経ってから若紫が上体を起こすと、枕元に硯箱がおいてある。

開けると、中に結び文がはいっていた。

さりげなく書き流した歌が一首。

○ あやなくも  隔てけるかな  夜をかさね

      さすがに馴れし  夜の衣を

どうして私たちはこれまで何事もなく過ごしてきたのでしょう。幾夜ともなく共寝して馴れ親しんできた仲なのに


源氏の君が、こんなことをなさるとは」

若紫は夢にも思わなかった。

「どうしてこんなに嫌らしい方を疑いもせず、父とも頼み兄とも慕ってきたのでしょう」

若紫は情けなく、悔しくてならない。


昼ごろ、源氏がやってきて御帳台のなかを覗きこんだ。

「ご気分が悪いそうですが、どうなさったんですか。今日は碁も打たなくてつまらないですね」

若紫は黙ったまま、不機嫌そうに衾(ふすま)を被った。

女房たちは離れたところに控えているので、源氏若紫の側に寄った。

「どうして、こんなに気づまりな態度をとられるの。思いのほか冷たい方だったのですね。女房たちが変に思うでしょう」

を引きのけると、若紫は汗びっしょりで額の髪もひどく濡れている。




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また、風刺は弱者(例えば少数派)から強者(例えば権力者)に向かうもので、その逆であってはならないペタしてね

葵33三日夜の餅

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みかよのもち 三日夜の餅(みかよのもち)
以下、風俗博物館

三日夜の餅 三日夜の餅の儀
結婚三日目の夜、三日夜の餅が饗された。

香壷の箱
香壺(こうご:香を入れるつぼ)と香壺を入れる箱

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

掛け布団を引きのけると、若紫は汗びっしょりで、額の髪もひどく濡れている。

「あっ、いけない。これは大変だ」

源氏は色々と苦心して慰めようとするが、若紫は心の底から「ひどい!」と思っているので一言も返事をしない。

「分かりました。もう、お目にかかりますまい。とんだ恥をかいたものです」

怨みごとをいいながら硯箱を開けると、返歌が入ってない。

「なんと子供っぽいことか」

そんな若紫をいっそう可愛らしく思って、一日中、御帳台に入ったまま言葉を尽くして御機嫌をとるが、いっこうに打ち解けない若紫がますます愛おしくなった。


ちなみに、当時の男女の関係はたいてい強姦から始まった。

お互い顔を知らないまま、女房の手引きによって男が女の寝室に忍びこむ。

源氏にとって「永遠の女性」である藤壺のときもそうだった。

幼い頃から添い寝していた、「理想の妻」である若紫(のちの紫の上)は例外だ。

そして男が3日間つづけて通えば結婚が成立し、三日夜の餅を食べる。


惟光(これみつ)が、源氏に頼まれていた「三日夜の餅」をずいぶん夜が更けてから持ってきた。

少納言に結婚のしるしの三日夜の餅をもたせたら、姫君は恥ずかしく思われるだろう」

少納言の娘の(べん)を呼んで、三日夜の餅のはいっている香壷の箱をわたした。

「これを、姫君の枕元に差し上げてください。ご祝儀のものです。大事に扱ってくださいね」



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葵34少納言の安堵

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朝顔の宮
光源氏 若紫(紫の上) 兵部卿宮

几帳 几帳(きちょう)
二本のT字型の柱に薄絹を下げた間仕切り

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

「これを、姫君の枕元に差し上げてください。ご祝儀のものです。大事に扱ってくださいね」

(べん)は若い女房なので、事情も分からないまま、三日夜の餅のはいっている香壷の箱を、枕元の几帳の下から差し入れた。


少納言は、源氏が婚礼の作法通りにきちんと進めていることを知り、ありがたくて嬉しくて涙がこぼれた。

源氏の君は、姫君を妻として考えてくださっている」

少納言は、後見人のいない若紫の行く末をずっと案じていたのだ。

父の兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)は健在だが、皇族は後見人にはなれない。

源氏も、桐壺帝の子でありながら、「しっかりとした後見人を」ということで、父のすすめで左大臣の娘の葵の上と結ばれたのだった。


「三日夜の餅の儀」をすませた後は、源氏は内裏や院にほんのしばらく参内している間さえ、若紫の面影がしきりに浮かんで恋しくてならなかった。

恋の手だれが珍しく恋にときめいて、そわそわとして落ち着かない。

そんな、初めて恋をしった少年のような自分の気持ちが不思議だった。


一方、それまで通っていた女君たちから恨みがましい手紙が次々に届いた。

ちょっぴり気になる女君もいないわけではないが、やはり新妻と一夜たりとも離れたくない。




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国会質疑(予算委員会)は以前からよく見たり聞いたりしているが、答弁席からスピッツのようにキャンキャン吠えたてる恥ずかしい総理は初めて。
先日は、いつもの調子で日本人二人を捕虜にしているイスラム国を「野次った」気分だったのではないかペタしてね

葵35若紫の素性

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冷泉帝即位時けいず 冷泉帝即位時の系図
光源氏 朧月夜 右大臣(系図では左大臣) 葵の上 朱雀帝 
弘徽殿女御(系図では太后)

夕顔1
夕顔(芦名星)をとり殺す六条御息所(田中麗奈)の生霊

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

ちょっぴり気になる女君もいないわけではないが、やはり新妻と一夜たりとも離れたくない。

女君たちには、

「喪中で心が晴れません、そのうち、お目にかかりましょう」


御匣殿(みくしげどの)と呼ばれている朧月夜(おぼろづきよ)が、まだ源氏を忘れられないでいると聞いた父の右大臣

御匣殿 御匣殿(帝の衣服などの裁縫をする所)の女官の長

「そうか。源氏の君が大切にしておられた葵の上が亡くなられたようだから、もし六の君(朧月夜)を正妻にしてくださるのなら、まんざら悪い話ではなかろう」

というので、

源氏を嫌っている弘徽殿女御(朱雀帝の即位で皇太后)は、ますます源氏を憎んだ。

「父上、とんでもございません。宮仕えを立派に務めあげれば、なんの不都合なことがございましょう」

そして、朧月夜が入内(じゅだい)できるよう色々と画策した。

源氏も、「朧月夜が入内したら残念だ」とは思うものの、さしあたっては若紫以外の女君には心がむかない。

「どうせ短い浮き世だ。これからは姫君を妻ときめ、ふたりで仲良くやっていこう。女の恨みを負うのは、もうこりごりだ」

六条御息所(ろくじょうみやすどころ)の生霊にふたりの女(夕顔葵の上)をとり殺されたことによほど懲りたのか、殊勝なことである。

御息所にはお気の毒だが、生涯の伴侶にするには気が重い。折につけて、お話しをする相手としてなら理想的な方だ」


世間の人々は若紫の素性をしらず、源氏が宮中から気に入った若い女房を連れてきたと思っているようだから、兵部卿宮に二条院での生活ぶりを知らせて、「裳着の儀」を立派に執り行おうと考えた。

裳着(もぎ) 女子の成人を示す通過儀礼(男子の元服に相当)



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賢木①六条御息所

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賢木
「賢木(さかき)」 源氏物語第十帖

もぎ
裳着の儀(女子の成人式) 風俗博物館

内裏
内裏(だいり) 帝の私的な生活空間

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

世間の人々は若紫の素性をしらず、源氏が宮中から気に入った若い女房を連れてきたのだろう思っている。

それゆえ、父の兵部卿宮に二条院での生活ぶりを知らせて、裳着(もぎ)の儀を立派に執り行おうと計画した。

ところが、若紫はあれ以来すっかり源氏を嫌っている。

「長いあいだ源氏の君を信頼しきって、まつわり付いていたのが浅はかだったわ」

日毎に悔しさが募って、源氏を避けてばかりいる。

源氏が冗談をいうと、不愉快で迷惑そうな顔をする。


年が改まった。

元日には例年のように、まず「院」に参上してから「内裏」そして「東宮」を訪れたあと、左大臣家に足を運んだ。

久しぶりに顔をみる夕霧はすっかり成長して、源氏が抱き上げてあやすと無邪気ににこにこする。

目もとや口もとが、ますます東宮(藤壺との子)と似てきた。

「だれか、不審に思わないだろうか」

かつて幼い東宮をだいて御簾(みす)の向こうから現れた桐壺帝が、源氏にいったことがあった。

「この子は、そなたと実によく似ている。そっくりだ」

あのときは全身が小刻みに震えて、本当に生きた心地がしなかった。


斎宮の伊勢への下向が近づくにつれて、御息所はひましに心細くなった。

葵の上亡きあとは、身分からしても六条御息所源氏の正妻になるだろうと世間では噂していた。

御息所邸でも、少なからず期待している。

ところが、源氏の足はすっかり遠のいてしまった。



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賢木②未練

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野宮神社 野の宮(野宮神社)
に代わって、伊勢神宮に奉仕する斎宮が潔斎(けっさい 身を清めること)する場所。 京都市右京区嵯峨野

斎宮歴史博物館 斎宮歴史博物館
 三重県多気郡明和町竹川503

伊勢神宮 伊勢神宮(内宮)

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

ところが、源氏の足はすっかり遠のいてしまった。

遠のいた理由は、悲しいけれど六条御息所にも察しがつく。

「生霊となって、女君たちにとりついているところを、源氏の君がご覧になって、つくづく浅ましい女だと私を嫌われたのでしょう」

無理もないことゆえ、源氏への思いをきっぱりと断ち切って、娘の斎宮に付き添うかたちで伊勢へ向かう決心をした。

母親が斎宮(さいぐう)に付き添って伊勢へ下った先例はないが、「若い娘ひとりを送り出すのは覚束ない」ことを口実にしたのである。

そのことを知った源氏は、さすがに寂しくなった。

「疎ましいこともあったが、あれほど知性も教養も際立っている御息所が都を遠く離れて、伊勢へ下られるのはいかにも惜しい」

そして、心のこもった手紙をたびたび書きおくった。


手紙のやりとりはしても、御息所は、「源氏の君と会ってはならない」と心に決めた。

もし会えば悩みがまして、折角、伊勢へ向かおうとした決意が揺らいでしまうだろう。


源氏はそのうち野の宮を訪ねようと思っ ていたが、気楽に足を踏み入れる場所ではないので、気にはかかっていたがいつの間にかずいぶん月日が経ってしまった。

その頃、父の桐壷院が重病というほどではないが、体調を崩した。



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賢木③嵯峨野

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斎宮
大伯大来皇女(おおくのひめみこ)
史実としての初代斎宮 父は天武天皇 同母弟に大津皇子

嵐山~嵯峨野 嵐山~嵯峨野
都から嵯峨野への叙情的な道行は、「平家物語」にもしばしば登場する

   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

その頃、父の桐壷院が重病というほどではないが、体調を崩した。

源氏は心身ともに余裕がなくなったが、「薄情な男と思われるのは心外」だから、何とかやり繰りして、野の宮の六条御息所を訪ねることにした。

さっそく、従者に手紙をもたせた。

九月七日の頃で、斎宮御息所が伊勢へ下るまぎわである。

御息所は、「会えば未練がつのって苦しくなる。もう会いたくない」と心に決めているが、「立ち話でいいから、お別れのあいさつをしたい」と手紙にある。

「どうしたものか」と迷ったすえ、「物越しにお目にかかるのなら」とひそかに心待ちにした。

*物越し  御簾(みす)や几帳(きちよう)を隔てて対面する


十人余りの気心の知れた従者を伴った源氏一行が、晩秋の広々とした嵯峨野をわたってゆく。

いかにも物寂しい風情。

秋の花々はのこらず萎れかかり、霜枯れた浅茅が原は寂寥としている。

*浅茅が原  背の低い笹の密生する原っぱ

弱々しく聞こえてくる虫の音にまじって、時折、松風が蕭蕭と吹く。

耳を澄ますと、絶え絶えにかそけき楽の音が聞こえてくる。

まことに風雅である。

「この辺りに、思い悩んでいる御息所が住んでおられる。どうして、今まで訪れなかったのだろう」

源氏は、過ぎ去った日々を悔やんだ。



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