もだえ苦しむ葵の上 風俗博物館 京都市
彰子(しょうし)の若宮(のちの後一条天皇)の五十日の祝い
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
葵の上は、紫式部と『源氏物語』のスポンサーである藤原道長とおなじく、清水寺の南側にひろがる鳥辺野で荼毘(だび)に付された。
八月廿日すぎの有明の月のころ。
空はしみじみと趣が深い。
悲嘆に暮れた左大臣が、夜の闇をさまよい歩いている。
左大臣の気持ちを察して、源氏、
○ のぼりぬる 煙はそれと わかねども
なべて雲居の あはれなるかな
空に上ってゆく火葬の煙がどの雲になったのかは分からないけれど、いずれの雲も懐かしいことよ
源氏は、葵の上を亡くした悲しみと目撃した六条御息所の生霊のことを思い合わせて、いっそう嘆きが深くなっていた。
「もしかしたら、私たちが参内(さんだい)している間に---」
つい、そう疑ってしまう。
一筋縄ではいかない男女の関係が、つくづく厭わしい。
そのせいか、つぎつぎに届けられるく女君たちのお悔やみの言葉を素直には受け取れなかった。
源氏は、若紫の待つ二条院にも帰らず、日夜勤行に励んだ。
霧の立ちこめている朝ぼらけ。
ほころびかけた菊の枝に結んだ藍色の手紙を、どこかの家の使いがもってきた。
「なんと優美な筆跡だろう」
一目見て感心すると、やはり御息所からである。
「しばらくお手紙を差し上げなかった事情は、お分かり頂けると存じます。
○ 人の世を あはれときくも 露けきに
おくるる袖を 思いこそやれ
人の世がはかないものと聞くにつけ涙がこぼれます。まして、北の方に先立たれた光君は袖の乾く暇もないことでしょう
お悔やみ申し上げます」
源氏は、「いつにもまして見事な文字だ」と感服する反面、「素っ気ない、誠意のない弔問だ」と不愉快になった。
生霊のことを知っているだけに、「臆面もなく、こんな白々しい手紙を」とも思う。
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とんでもないテロ事件が起きたものです。もはや、世界中どこが襲撃されてもおかしくない。現行の国境を否定している「イスラム国」に各国から若い信奉者が集まり、
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