藤壷 風俗博物館
先帝の后腹(きさいばら:中宮か皇后の腹から産まれた子)で第四皇女。光源氏の「初恋の人」にして「永遠の女性」
紫式部
学者・詩人の藤原為時の娘。藤原宣孝に嫁ぎ、一女(大弐三位)を産んだ。夫の死後、一条天皇の中宮・彰子に仕えている間に、『源氏物語』を執筆。 宇治市源氏物語ミュージアム
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
はたち前後の若者たちの間で、60ちかい老婆が着物をはだけて慌てふためいている様は滑稽をとおりこして惨めだ。
そうこうするうちに、源氏は、刀を抜いた男が頭中将であることに気がついた。
「わたしと知って、わざと騒いでいるのだな」
馬鹿らしくなって、太刀を抜いている腕をつかんできつくつねった。
そして、同時に大笑いした。
七月、藤壷は中宮に立ち、源氏は宰相(参議)になった。
帝は、近く譲位する心づもりで準備を進めている。
ふたりの人事も、その一環である。
藤壷が産んだ若宮を次の東宮(とうぐう:皇太子)にと思っているが、これという後見人がいない。
母方は、親王(しんのう:帝の息子)ばかり。
皇族は政治を執らないので、せめて母である藤壷を中宮という確固たる地位につけておこうと考えたのだ。
当然ながら、弘徽殿女御は心穏やかではない。
内親王(帝の娘)とはいえ、新参者に先を越されたのだ。
わが子の将来を思えば、不安も募る。
帝が、なだめた。
「東宮が新帝に立てば、あなたは皇太后(こうたいごう:帝の生母)になられる。安心なさい」
藤壷が中宮として参内する夜は、源氏もお供の役を務めた。
藤壷は后腹の内親王で、しかも際立って美しく、帝の寵愛を一身に集めている。
世間の人々も、格別の存在として仰いでいる。
せつない恋にさいなまれている源氏は、輿(こし)の中ばかりが思いやられた。
藤壷が、いよいよ手の届かない遠くへいってしまう。
つい、独り言をつぶやいた。
○ 尽きもせぬ 心の闇に くるるかな
雲居に人を 見るにつけても
高い位につかれる方を見るにつけても、尽きることのない心の闇に閉ざされます
若宮は成長するにつれて、ますます源氏に似てきた。
藤壷は思い悩んでいるが、気が付いている人はいないのか。
ただ、ふたりが生き写しなので、月と日が大空に並んで光り輝いているようだと世間の人々は思っている。
二月の二十日過ぎ、帝は南殿の桜の宴を催した。
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紅葉賀⑳藤壷、中宮に
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花宴①花の宴
挿頭(かざし)の花
南殿(なでん)、紫宸殿(ししんでん)の異称
帝の即位や立太子、節会(せちえ)などの重要な儀式が行われた内裏の正殿。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
二月二十日過ぎ、帝は南殿(なでん)の花の宴を催した。
源氏は、20歳になった。
中宮と東宮の御座所は、玉座の左右に設けてある。
弘徽殿(こきでん)女御は、娘ほどに若い藤壺が自分の上座を占めることが不愉快でならないが、花の宴のような盛大な催しを欠かすわけにはいかない。
空は晴れわたり、鳥たちのさえずりが耳に心地よい。
まず親王や上達部(かんだちめ:上流貴族)をはじめとして、詩文の才にすぐれた人々が、それぞれ韻字を与えられて漢詩を作った。
源氏の、「春という文字をいただきました」という声が、いつもながらに伸びやかで美しい。
そして、即興で作った漢詩を声高らかに披露した。
次は、ライバルの頭中将。
いつも比較される源氏のあとで、どう思われるか不安だったが、とても落ち着いていて特に声の張り方など堂々として立派だった。
後につづく人々は、ふたりの出来栄えに気後れして青ざめている。
高齢の文章博士(もんじょうはかせ)は身なりこそ見すぼらしいが、さすがに場馴れしている。
夕陽が、西の空に沈もうとするころ。
「春鴬囀」(しゅんのうでん:雅楽)という舞をこのむ東宮は、紅葉の賀の折りに源氏が舞った「青海波」を思い出して挿頭(かざし)の花を与え、今日は「春鴬囀」を舞うように頼んだ。
源氏はむげに断わるわけにもいかず、ゆるやかに袖をひるがえすところを一差しだけ申し訳のように舞ったが、さすがに息を呑むほどに見事である。
後見人の左大臣は、日ごろの恨みつらみを忘れて感動のあまり涙を落としている。
そういえば、源氏はもうずいぶん久しく正妻である葵の上のところに通っていない。
藤壺中宮は源氏に目が止まるたびに、「弘徽殿女御が光君をひどく憎んでいることが不思議」で、またそれ以上に、自分が、「光君に魅かれている」ことが悲しかった。
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花宴②宴のあと
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藤壷(飛香舎:ひぎょうしゃ) 弘徽殿(こきでん)
紫式部が仕えた藤原彰子は、藤壷に住んでいた。
清涼殿(せいりょうでん)
平安京の内裏(だいり)における帝の日常生活の場
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
藤壺中宮は源氏に目が止まるたびに、「弘徽殿女御が光君をひどく憎んでいることが不思議」で、またそれ以上に、「自分が光君に魅かれている」ことが悲しかった。
○ おほかたに 花の姿を 見ましかば
つゆも心の おかれましやは
花のように美しいお姿をただ拝見するだけならば、露ほどのやましさも心に生まれなかったでしょうに
藤壷中宮が心の中で詠んだ和歌が後日、どうして世間に洩れでたのだろうか。
夜が深まって、花の宴は終わった。
中宮や東宮、上達部たちが三々五々退出して、辺りがひっそりと静まり返っている。
明るくさし昇った月がいいようもなく美しいので、ほろ酔いかげんの源氏は、この素敵な月夜をむだにしたくなかった。
清涼殿の宿直(とのい)の人々は寝静まっている。
「あの方に、お逢いできないものか」
藤壷(飛香舎)のあたりを歩いた。
しかし、手引きを頼みたい王命婦(おうみょうぶ)の部屋の扉口はかたく閉じられている。
諦めるほかないが、このままでは気がすまない。
弘徽殿の細殿(ほそどの:寝殿造りの庇の間を仕切って女房の部屋などに当てた所)に立ち寄った。
すると、北から三番目の戸口が開いている。
弘徽殿女御は花の宴のあと、上の御局(帝のそば近くにいる時に使う控えの部屋)にいるので、こちらは人気が少ない。
奥の開き戸も開いたままで、人の気配はない。
源氏は、「男女の過ちは、えてしてこんな無用心から起こるものだ」と心配しつつ、過ちを犯せないものかと中をのぞいた。
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特定秘密保護法、
12月10日からの運用を閣議決定。
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花宴③朧月夜
朧月夜(おぼろづきよ)
山の端 山と空の境の山の部分
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
源氏は、「男女の過ちは、えてしてこんな無用心から起こるものだ」と心配しつつ、過ちを犯せないものかと中をのぞいた。
女房たちは寝てしまったようだ。
そのとき、開き戸のほうから高い身分らしい女が若々しくきれいな声で、古歌を口ずさみながらやって来る。
「朧月夜に似るものぞなき」 *似るものぞなき 優るものはない
源氏はうれしくなって、とっさに女の袖をとらえて抱き上げた。
びっくりした女は、「あら、嫌だ。どなたですか」
声が震えている。
「怖がることはありませんよ」
○ 深き夜の あはれを知るも 入る月の
おぼろけならぬ 契りとぞ思ふ
夜更けに山の端にはいる朧月の情趣に魅かれて古歌を口ずさんでいるあなたに逢えたのは、前世からの浅からぬ縁があるからですよ
庇(ひさし)の間にそっと女を下ろして、戸を閉めた。
驚いて呆然としている様子が、人懐っこくて可愛らしい。
女は気を取り直して、「変な人が。だれか」と震え声で叫んだ。
「わたしを咎める人なんて、都中さがしてもいません。人を呼んでも何にもなりませんよ。静かにしていなさい」
女(右大臣家の娘)は、源氏と分かって少しほっとした。
家は政敵同士だが、けしからん男の素性が分かっただけでもわずかに気持ちにゆとりをもてた。
それにしてもひどいやり方だが、そうかといって、ものの哀れの分からない不粋な女とは思われたくない。
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花宴④お名前は
「宇治市源氏物語ミュージアム」 (おはよう とくしま) から
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それにしてもひどいやり方だが、だからといって、ものの哀れの分からない不粋な女とは思われたくない。
源氏は、いつになく深酔いしていたからだろう。
女を手放すのが惜しくなり、また女も若々しくなよやかで、もはや拒もうとしなくなった。
「(原文)らうたしと見たまふに (直訳)かわいいとご覧になっているうちに」、早くも夜が明けようとしている。
*作者は、一夜の情事を、「らうたしと見たまふに」のみで現わしている。
源氏は早く戻らねばと気がせくが、女は思い悩んでいた。
「お名前を教えてください。お便りを差し上げます。まさか、これっきりと思っていらっしゃらないでしょうね」
女は、和歌で応えた。
和歌を詠むときの様子が、妙に優美で艶っぽい。
○ うき身世に やがて消えなば 尋ねても
草の原をば 問はじとや思ふ
名前を明かさないまますぐに私が死ねば、あなたは草深いわたしの墓を訪ねては下さらないのでしょうか。(女はすでに源氏に心を奪われており、源氏の気持ちを確かめようとしている)
「なるほど。おっしゃる通りです」
○ いづれぞと 露のやどりを 分かむまに
小笹が原に 風もこそ吹け
どこのどなただろうとあなたを捜しているうちに、世間にふたりの噂が立てば(家同士の敵対関係もあるので)、さぞかしうるさいことでしょう。
(話は変わりますが、私たちの恋愛をまねるのかどうかは分かりませんが、ずっと後の世に、エゲレスという国のシェイクスピアという作家が、「ロミオとジュリエット」という戯曲を書くそうです。ロミオとジュリエットは愛し合っているのに、家同士は憎しみあうのだそうです。できれば、読みたいですね)
「ご迷惑でなかったら、どうして遠慮するものですか。捜しますよ。もしかして、からかっているのではないでしょうね」
源氏が言い終わらないうちに、女房たちが起き出して騒がしくなってきた。
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女性5閣僚のうち、在特会やネオナチと
仲のいい「安倍一族女子部」のみ残った。
花宴⑤何番目の姫君か
光源氏 朧月夜 桐壷帝 弘徽殿女御(太后) 右大臣
源氏と朧月夜の出会いの場面。伝・土佐光吉 桃山時代
朧月夜は、源氏と取り交わす「扇」を持っている。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
源氏が言い終わらないうちに、女房たちが起き出して騒がしくなってきた。
仕方なく、ふたりが逢った証拠に「扇」を交換し合って源氏は弘徽殿をでる。
桐壷に戻ると、大勢仕えている女房たちのなかには目を覚ましている者もいた。
「よくもまあ、源氏の君はお忍び歩きにご熱心なこと」
お互いを突つき合いながら、眠ったふりをしている。
源氏は部屋に入って横になったが、眠れないままに思案をめぐらした。
「美しい人だった。弘徽殿女御の妹君なのだろう。恋に初心(うぶ)なところから察すると、五の君か六の君か。
帥宮(そちのみや)の北の方と頭中将がおろそかにしている四の君は、すこぶるつきの美人と聞いている。
彼女らだったら、もっと味わいがあったかもしれない。
右大臣は六の君を東宮に入内させたいそうだが、もし六の君なら気の毒なことをした。
とにかく、何番目の姫君なのか見当もつかない。
姫君もあれで終わりにしようとは思っていない様子だったのに、どうして便りをする方法を教えあわなかったのだろう」
あれこれと思案をめぐらすのも、心惹かれているからだ。
このようなことにつけても、「藤壺あたりの風紀はしっかりしていたなあ」と、「弘徽殿のだらしなさ」とつい比べてしまう。
その日は後宴の催しがあって、源氏は忙しく一日を過ごしていたが、絶えず心にひっかかっていることがあった。
「あの姫君は、いつ退出するのだろうか」
何事につけても手抜かりのない良清と惟光(これみつ)に命じて、見張りをさせてはいる。
源氏が桐壷帝の御前から退ってくると、さっそく惟光たちが報告にきた。
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有原航平投手には、
斎藤佑樹先輩ともども活躍してほしい
花宴⑥それぞれの関係
囲碁を楽しむ空蝉(うつせみ) 風俗博物館
囲碁の対局を楽しむ空蝉と軒端萩(のきばのおぎ) 宇治市源氏物語ミュージアム
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
源氏が桐壷帝の御前から退ってくると、さっそく惟光たちが報告した。
「たった今、北門から牛車が3台ほど退出しました。
右大臣家の四位の少将と右中弁(うちゅうべん)が見送られていたので、弘徽殿からの退出でしょう。
いかにも身分の高そうな方々が乗っておられました」
「あの姫君は、もう帰ってしまわれた」
源氏は、胸がつぶれそうだった。
「どうすれば何番目の姫君と確かめられようか。
右大臣が聞きつけて、婿扱いされるのも困る。
姫君の性格を知らないで、婿になるのはなあ。
とにかく、何も分からないのは悔しい。どうしたものか」
物思いにふけりながら、横になっていた。
いつのまにか、対象が右大臣家の姫君から若紫そして正妻の葵の上にかわっている。
「二条院の若紫は、どうしておられるだろう。
何日も会っていないので、きっと寂しがっておられるだろう。
左大臣家にも、久しく御無沙汰している」
源氏は、若紫を慰めようと二条院へもどった。
若紫は見るたびに可愛らしく、素直に成長している。
しかも、とても利発で愛嬌がある。
源氏の理想どおりに育っているようだ。
ただ、男手で女の子をしつけているので、どこか不足している部分があるかも知れないという意識が抜けない。
*当時、貴族階級の子弟は女房(乳母・めのと)が育てていた
留守にしていた間のことを話してきかせたり、琴などを教えたりして一日を過ごした。
そして夕方、源氏がでかけるとき、若紫は寂しい思いをこらえて後を追ってはこなかった。
左大臣家では、例によって葵の上はすぐには顔を見せない。
退屈を紛らすために琴を弾いていると、左大臣がやってきて、先日の「花の宴」が素晴らしかったことを話しはじめた。
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「在特会」(在日特権を許さない市民の会)のヘイトスピーチ、
あなたは溜飲が下がりますか
花宴⑦藤の花の宴
高欄 (勾欄 こうらん)
建物の外縁や橋などに縦横に材をわたして、人の落下を防ぐ手すり(装飾を兼ねるものも)。
藤まつり 亀戸天神社
柳花苑(りゅうかえん)
雅楽の曲名。桓武天皇のころ唐から伝来。四人の女舞だったが、平安期に舞は絶えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
退屈を紛らすために琴を弾いていると、左大臣がやってきて、先日の「花の宴」が素晴らしかったことを話しはじめた。
「この年寄りは四代の帝にお仕えして参りましたが、今年ほど素晴らしい詩文と舞と管弦の音色を堪能して、寿命が延びる思いをしたことはございません。
それぞれの道の名人が数多いなか、光君がすべてに精通していらして、最もふさわしい人物をお招きになられたからです。わたくしのような老人も、つい浮かれて舞い出しそうな心地がいたしました」
「なにも特別なことはございません。ただお役目として、それぞれの道の名人たちをあちらこちらから招いたまでのことです。
それよりも、頭中将殿の「柳花苑」はきっと後代の手本 となりましょう。もし左大臣殿が「栄える春」に倣って舞われていたら、一代の誉れでございました」
そこへ、右中弁(うちゅうべん)と頭中将がやってきた。
3人がそれぞれ楽器をもち、高欄に背中を寄り掛からせて合奏したが、まことに興趣の尽きないものだった。
右大臣家では、姫君が夢のようにはかなかった逢瀬を思い出して、切ない物思いに沈んでいた。
右大臣はこの姫君を卯月(旧暦4月)に東宮に入内させようとしているので、いっそう塞ぎ込んでいる。
源氏はあのときの姫君が何番目の姫君か分からず、しかも自分を憎んでいる右大臣家の娘であることも気まずかった。
弥生(旧暦3月)も、20日が過ぎた。
右大臣家では「弓の結」があり親王や上達部が大勢集まったが、引き続いて「藤の花の宴」を催した。
* 弓の結(ゆみのけち)
射手を2組に分け、交互に弓を射させて勝負を争う競技
花の盛りは過ぎたが、古歌に教えられたのであろうか、遅れて咲いた二本の桜がとても美しい。
○ 見る人も なき山里の 桜花
ほかの散りなむ のちぞ咲かまし 伊勢 古今和歌集集
見る人もない山里の桜花よ、ほかの花が散ってしまった後に咲けばよいものを
新しく造営した邸宅を、姫君の裳着の儀式の日にあたって当世風に派手に飾り立ててある。
* 裳着(もぎ 男子の加冠にあたる)
公家の女子が成人した印として初めて裳を着ける儀式
源氏にも、先日、宮中で招待状を渡していたが、まだ姿を見せていない。
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オ・ト・ナ嵐 2014年 11月号 [雑誌]/鹿砦社
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10年後が、楽しいような怖いような--
花宴⑧花も恥じらう
棊局(ききょく 碁盤)
聖武天皇遺愛の品 東大寺正倉院
袍(ほう) 公家の装束の上衣(じょうい) 正装
直衣(のうし) 平常服
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
源氏にも、先日、宮中で招待状を渡していたが、まだ姿を見せていない。
政敵だが、飛び抜けてスター性のある源氏がいないと、せっかくの大掛かりな催しが地味なものとなり見栄えがしなくなる。
また、ちかく桐壺帝が退位して孫が朱雀帝として即位すると、右大臣は帝の「外祖父」になる。
ここは権力を誇示しておこうと、四位少将を迎えにやった。
○ わが宿の 花しなべての 色ならば
何かはさらに 君を待たまし
わが家に咲いている藤の花がありふれた色ならば、どうして光君をお招き致しましょう
宮中にいた源氏は、その旨を帝に伝えると、帝は笑いながら、
「藤の花の色が、自慢なんだね。わざわざ迎えに来てくれたのだ、早く行ってやりなさい。内親王たちも、心まちにしていることだろう」
*内親王たち 桐壺帝と弘徽殿女御とのあいだの娘。
源氏には、腹ちがいの姉妹にあたる。
源氏は装束などをととのえ、日がとっぷりと暮れたころに右大臣らが待ちわびている邸に着いた。
参会者たちがみんな袍(ほう)を着て正装している中を、しゃれた直衣姿で打ち解けた装いの源氏が進んでゆく様はたしかに余人とは違っている。
「花も恥じらう」の男性版か。
庭に咲いている花々は、源氏の容姿に恥じらっているようだ。
源氏は管弦の遊びなどに興じたあと、夜が更けてゆくころに、すっかり酒に酔ったように見せかけて座を立った。
寝殿には、女一の宮(第一皇女)と女三の宮がいる。
源氏は寝殿の東の戸口にいって、戸に寄り掛かって座った。
藤棚はこちらの隅にあるので、格子を開け放して女房たちが端のほうに座っている。
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楽曲 「君の名は希望」 いい曲ですよ
景気のいいアイドルソングではなく、ソロのばあい、歌唱力を問われる歌です。
渡辺麻友(AKB48)with生田絵梨花16ピアノ演奏(乃木坂46)
グループアイドル同士のコラボとしては、歌唱も伴奏もかなりのレベル。安心して聴けます。
ちなみに、「生田は、前田敦子の再来」(秋元康)だそうです。
初代と二代目。二代目、やや緊張気味
花宴⑨朧月夜
玉鬘(たまかずら)の裳着
裳着(もぎ) 公家の女子の成人式 風俗博物館
藤の花
妻戸(つまど 開き戸)
御簾(みす)
几帳(きちょう)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
藤棚はこちらの隅にあるので、格子を開け放して女房たちが端のほうに座っている。
その近くで、身分の高そうな女たちが藤の花を眺めている。
源氏の腹ちがいの姉妹たちもいるようだ。
源氏は不躾なこととは思いながら、妻戸の御簾を引き被るようにして上半身を部屋へさし入れた。
「気分が悪いところへお酒を無理に飲まされて、苦しくて困っております。どうか、こちらの物陰にでも隠して頂けませんか」
「どうしましょう。困りますわ。身分の低い者なら、高貴な縁故に頼ると聞いておりますけれど」
部屋には空薫物のかおりが煙ったいほどで、女たちは衣ずれの音がことさら華やかに聞こえるように振る舞っている。
当世風で派手な雰囲気は、奥ゆかしい深みに欠けている。
源氏が、この部屋にきた目的はひとつ。
数日前、扇をとりかわした姫君をさがしだすことだ。
「どの姫君だろうか」
だれかがそれなりの反応をするだろうと、催馬楽(さいばら)の「帯」を「扇」にかえて、のんびりとした声で謡ってみた。
○石川の高麗人(こまうど)に、扇を取られて、からき悔いする
「扇を取られて、つらい目を見た」
あの姫君には、「帯」を「扇」にかえた意味がわかるだろう。
「妙な変わった高麗人ですこと。帯ではなく、扇を取られたですって」と囁きあっている女たちは、あの姫君ではない。
黙ったまま、時折、ため息をついている気配がある。
源氏はそちらへすっと身を寄せて、几帳越しに手をとらえた。
○ あづさ弓 いるさの山に まよふかな
ほの見し月の 影や見ゆとは
朧月の夜にお会いした、ほのかな月に似たあなたに再びめぐり会えるだろうかと探しあぐねていました
あの姫君と確信してのことではなく、当て推量にいうと、
○ 心いるかた ならなせば 弓張りの
月なき空に まよはましはや
本当に愛しているなら、たとえ弓張月のない闇夜でも迷うことなどありましょうか
まさに、姫君その人である。
その姫君を、これから朧月夜とよぶ。
桐壺帝が譲位して、朱雀帝の世になった。
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中国は謝るどころか、「人道的な対処を望む」と。島民のみなさんは生活の基盤を奪われています
葵①六条御息所
光源氏 朧月夜 桐壺院 藤壺中宮 朱雀帝 弘徽殿太后 東宮(春宮) 六条御息所
仙洞御所 京都御所
中央やや右上に廬山寺(ろざんじ 紫式部生誕の地)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その姫君を、これから朧月夜(おぼろづきよ)とよぶ。
桐壺帝が譲位して、朱雀(すざく)帝の世になった。
源氏は22歳、大将に昇進している。
しかし代替わり後は何ごとにつけても億劫になり、身分の高さも加わってかつてのような忍び歩きは憚られた。
それゆえ、都のあちらこちらで源氏の足が遠のいた女たちは孤閨をかこっている。
桐壺院は仙洞御所(せんとうごしょ 上皇や法皇の住居)で、在世当時にもまして藤壺中宮と寄り添って仲睦まじく暮らしている。
折りにつけ詩歌管弦の遊びなどを興趣深く催している様子は、宮中でも話題になった。
古女房の弘徽殿太后は面白くないので、もっぱら宮中で朱雀帝の面倒をみている。
桐壺院の心配の種は東宮のこと。
しっかりした後見人のいないのが気がかりで、さしあたっては源氏を頼りにした。
そのために出世させたのだが、政治的基盤はまだまだ弱い。
源氏は気が咎める一方、うれしくもあった。
それはそうと、あの六条御息所(ろくじょうみやすどころ)と亡くなった前の東宮とのあいだの姫宮が、こんどの代替わりで伊勢の斎宮に決まった。
*斎宮(さいぐう) 伊勢神宮に奉仕する斎王(orの御所)
六条御息所は源氏の愛情があてにならないので、「幼い娘が心配だから、いっしょに伊勢に下ろう」と前々から考えていた。
桐壺院はそのへんの事情をかねてより耳にしていたようで、機嫌が悪い。
珍しく、源氏を叱りつけた。
「亡き東宮は、御息所をたいそう寵愛されていた。光は軽々しく並の女のように扱っているそうだな。おいたわしいことだ。
わたしは斎宮を、わたしの姫宮たちと同じように思っている。
光はけっして御息所を疎略に扱ってはならない。気まぐれに浮気をしていては、そのうち世間の非難を受けるだろうよ」
源氏は自分でも、「仰せのとおり」と分かっているので恐縮して控えている。
「女たちに恥をかかせてはならない。どの女も傷つけてはならぬ。女の恨みを受けてはならぬぞ」
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もと優秀な外務官僚といえど今は民間人(11/7の動画)と、つい先日まで防衛相だった政治家のもつ情報量がどれだけ違うか。いい見本になっています
葵②一条大路
上賀茂神社
下鴨神社
賀茂祭(葵祭)絵巻一部 下鴨神社蔵
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「女たちに恥をかかせてはならない。どの女も傷つけてはならぬ。女の恨みを負うてはならぬぞ」
桐壺院の叱責を浴びながら、源氏はもっとずっと深刻なことに思いが及んで、身体が小刻みに震えていた。
「不届き至極で大それた、あの『秘密』を、もし、院が知るところとなれば……」
正妻の葵の上は源氏の移り気な性分はむろん不愉快だが、あまりにも大っぴらなので文句をいうこともない。
さほど深く恨むことも嫉妬することもないのは、もともと仲のいい夫婦ではないということもあろう。
それはそれとして、葵の上はここ数日、懐妊のため悪阻(つわり)に苦しんで心細そうにしている。
源氏はそんな葵の上を、めずらしく愛しく思っている。
左大臣家では葵の上の懐妊をよろこびながらも物の怪のたたりなどを恐れて、しきりに加持祈祷(かじきとう)をしていた。
そのころ、賀茂の斎院も交代。
*斎院(さいいん) 下鴨神社と上賀茂神社に奉仕した斎王(orの御所)
弘徽殿太后(こきでんのたいこう)の産んだ女三の宮が新しく立った。
院と大后がとりわけ可愛がっている姫宮なので、神に仕える身になることがつらいが、他にふさわしい姫宮がいない。
斎院になる儀式は、規定どおりに盛大に催された。
賀茂祭(葵祭)の時には、規定の行事にいろいろ付け加えて、かつてない見物(みもの)になった。
*賀茂祭 下鴨神社と上賀茂神社で5月15日に行なわれる例祭
庶民の祭りである祇園祭に対して、賀茂氏と朝廷の行事
御禊の日は、お供の上達部などは規定の人数だが、人望があり容姿もすぐれた貴公子ばかりを選りすぐった。
*御禊(ごけい) 斎院が賀茂の祭りに先だって、賀茂川で禊をすること
下襲の色から表の袴の模様、馬の鞍まですべて見事に調えられている。
また特別の勅命で、源氏もお供した。
当日、一条大路は立錐の余地もないほど群衆と物見車で一杯になった。
うわさに聞く源氏の晴れ姿を一目見ようと、都中から女たちが溢れ出たからだ。
世を捨てた尼たちも、群衆の波に前後左右に揺られている。
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習近平、会議などの席でいつも米ロの首脳を脇侍のように従えている。意識した構図だろう。
オバマやプーチンが人民服を
葵③車争い
一条大路 大内裏は今の二条城周辺
女車(女房車、女性が乗る牛車)
網代車(あじろぐるま)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
世を捨てた尼たちも、群衆の波に押しつぶされそうになりながら前後左右に揺られている。
葵の上は日ごろから出不精で、祭り見物のために外出するようなことは滅多にない。
しかもこのところ悪阻(つわり)のために気分が悪く、出かけるつもりは毛頭なかった。
しかし、若い女房たちは祭りを見たくてしかたがない。
「わたくしたちだけで見物するのはつまりません。
光君を拝見するために、なんのご縁もない人々がはるばる片田舎から妻子を引き連れて都に上ってくるといいますのに。
北の方さまがご覧にならないなんてことはございませんわ」
大宮(葵の上の母。桐壺院の妹)も、
「今日は、ご気分が少しおさまっているようですから」
日がだいぶ高くなってから、供回りがあまり目立たないようにして出かけた。
一条大路にはすでに物見車がびっしりと立ち並んでいて、葵の上一行の牛車をとめる場所がない。
並んでいる牛車は、立派に飾り立てた女車が多い。
そのうち、葵の上の従者たちが、場所をつくるために何輛かの女車をどかせにかかった。
左大臣は人格者ということだが、従者たちは権柄ずくで乱暴なことをする。
多くの女車の中に、少し使い古した網代車で下簾(したすだれ)の様子などが由緒ありげで趣味のいいのが2輛あった
女主人は、車のずっと奥の方に身を隠すようにしている。
明らかに、人目を避けている。
下簾の端からわずかにのぞいている袖口や裳の裾、汗衫(かざみ、薄手の上着)などの衣装の色合いは、みるからに清楚で上品だ。
葵の上の従者たちが、その網代車をどかそうとすると、
「これは、さらに、さやうにさし退けなどすべき御車にもあらず」
これは、決して、そのように押し退けたりしてよいお車ではありませぬぞ
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「自分と周囲の利害のために動くのが政治屋、歴史をつくる仕事をするのが政治家」
まさに国民の意識が問われる
葵④悲惨!!六条御息所
上賀茂神社と下鴨神社 (世界遺産)
住吉如慶(じょけい)画
「六条御息所と葵の上の車争い」 源氏物語画帖
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「この網代車は、決して、そのように押し退けたりしてよいお車ではありませぬぞ」
網代車の従者たちが、葵の上の従者に手を触れさせない。
祝い酒を飲んで顔を赤らめている両家の若い従者たちは、たちまち喧嘩をはじめた。
年輩の前駆の者らが、「騒ぐでない」と叱りつけるが、とても収まるものではない。
*前駆(ぜんく・さきがけ) 行列の前方を騎馬で進み先導する人(orこと)
網代車は、斎宮の母の六条御息所(ろくじょうみやすどころ)が、日々の憂さ晴らしにもなろうかと、お忍びで出かけてきたのである。
身分を気づかれまいとしていたが、自然と分かってしまった。
葵の上の従者たちが悪態をつく。
「六条御息所が、なんだ。源氏の君を笠に着ているつもりだろうが、ただの愛人のひとりではないか。こちらは、本妻の葵の上さまだぞ」
なかに源氏の従者もいたが、「お気の毒に」とは思いながら仲裁するのも面倒なので黙っている。
そしてとうとう、網代車を押しのけて葵の上一行の牛車を割り込ませた。
うしろに押しやられて、御息所は何も見えなくなった。
物見ができなくなった悔しさはもとより、お忍びの姿が自分と知られてしまったことが恨めしくて胸が煮えくりかえった。
牛車の踏み台なども、へし折られている。
御息所は、「どうして、こんな所へでて来たのだろう」と後悔したがすでに後の祭。
見物しないで帰ろうとしたが、牛車がひしめいて一条大路へ抜ける隙間がない。
そのとき、「行列が来たぞ~」と人々の叫ぶ声が聞こえた。
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葵⑤馬上の光源氏
斎宮行列
野宮神社出発~JR嵯峨嵐山駅~嵐山渡月橋周辺
斎宮歴史博物館内部
斎宮歴史博物館
斎宮遺跡に設置 三重県多気郡明和町竹川
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そのとき、「行列が来たぞ~」と人々の叫ぶ声が聞こえた。
自分が辱められている様子を車からさげすんだ目で眺めているに違いない葵の上の勝ちほこった姿が脳裏にうかんできて憎々しく思っていた六条御息所(ろくじょうみやすどころ)は、たちまち心が晴れてわれ知らず胸がときめいた。
薄情で恨めしい源氏が通ると聞いただけで、心の高なる女心の切なさよ。
しかし、源氏の方からこちらが見えるはずもない。
馬の足を緩めることもなく、見向きもしないで素っ気なく通り過ぎていった。
例年よりもずっと趣向を凝らした車に乗り込んでいる女房たちは、競って、「自分こそは源氏の君の目に留まりたい」と笑顔を振りまきながら手を振っている。
居並ぶ女車の下簾(したすだれ)から、華やかな着物の裾や袖口がこれ見よがしにこぼれている。
馬上の源氏は一瞥もくれずに素知らぬ顔で通り過ぎてゆくが、たまに、微笑みながら流し目をおくっている女車もあった。
左大臣家の車は一目でそれと分かるので、とりわけ威儀を正して通った。
お供の者らは、うやうやしい表情で葵の上に敬意を表しながら通ってゆく。
打ちひしがれている御息所は、そんな情景を目にするといっそう自分が惨めになり屈辱を感じた。
○ 影をのみ 御手洗川の つれなきに
身の憂きほどぞ いとど知らるる
あなたの晴れ姿を一目見たくてきましたのに、あなたの影だけを映して流れ去る御手洗川(みたらしがわ)のようにつれないあなたが恨めしく、わが身の不幸が身にしみます
情けなさに涙がこぼれるのを、お供の女房たちに見られたくはない。
*このときの屈辱感が、後日、プライドの高い御息所をおどろおどろしい復讐に駆り立てることになる。
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昔の言葉ではありますが、「有権者は選挙のときだけ
王様で、選挙がおわれば奴隷になる」ルソー
葵⑥スーパースター
袿(うちぎ)
①平安中期以後の貴族女性や女官の角形広袖の衣服。上に唐衣 (からぎぬ) と裳(も)を着けて正装とした
②男性が、直衣(のうし)や狩衣(かりぎぬ)の下に着る衣服
壷装束(つぼしょうぞく)
女性が徒歩で外出するときの服装。頭からかぶった衣の裾を高くあげて帯で着付けた。市女笠(いちめがさ)をかぶるものも
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
情けなさに涙がこぼれるのを、お供の女房たちに見られたくはない。
「来なければよかった」と後悔したが、しかし、ただでさえ眩いばかりの源氏の姿やたたずまいが、晴れの場では一段と輝いてみえる。
もし来なかったら、もっと臍を噛んだであろう。
なにはともあれ、「来てよかった」と思った。
一条大路をさっそうと進む馬上の人々は、身分に応じて姿形をととのえ、装束をたいそう豪勢に着飾っている。
なかでも上達部(かんだちめ、上流貴族)は格別だが、それでも源氏の光り輝くような美しさにすっかりかき消されている。
壷装束姿の中流階級の女たちや俗世を捨てた尼なども、人波に揉まれて倒けつ転びつしながら行列を見物している。
これまでは、「自分の立場もわきまえず、みっともない」と非難されたものだが、今回は、「源氏の君が勅使として行列に加わっているので仕方がない」と誰もとがめようとしなかった。
歯が抜けて口元が巾着のようにすぼんで、髪を袿(うちぎ)のなかに着込んでいる老婆たちが、合わせた両手を額に当てながら源氏を拝んでいるのは滑稽だ。
みるからに馬鹿面した下々の男たちが、自分の顔がどれほど変になっているかとも気づかず、うれしそうに源氏を拝んでいる。
源氏ほどの男が目を止めることはない、つまらない受領の娘(紫式部は受領の娘)たちまでが精一杯飾り立てた女車に乗り、源氏を意識して派手に振る舞っている。
*受領(ずりょう) 平安中期以降、任国に赴任して政務を執った国司。 県知事に相当。清少納言や和泉式部らも受領の娘
ことほどさように、見物している人々を見物するのもなかなか面白い。
源氏がお忍びで通っている女君たちのなかには、源氏のあまりの人気ぶりを目の当たりにして、自信をなくす者もあった。
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8/20広島市の土砂災害。9/27御嶽山の大噴火。11/22長野
で震度6弱の地震。
災害列島、日本。明日は我が身