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末摘花⑪王朝婚活事情
紫式部in紫式部公園 福井県越前市
祇園祭 7月1日(火)~7月31日(木)
紫式部は、美人の容貌は興味なさそうにさらっと書き流すが、ブサイクの場合はなかなかどうして辛辣である。
「なぜ、これほどまでに。少女のころに何かあったのだろうか」
作者の真意と理由を探りたくなるほどだ。
末摘花の醜悪な顔の造作を戯画的で滑稽ととるか、作者の醜いものに対する悪意ととるか人それぞれだろう。
前者のばあいは長大な物語の中にひとつ滑稽譚をはさみたかったのかも知れないし、後者のばあいは紫式部自身が容姿のことで何かしら心に傷を負っていたのかも知れない。
源氏は常陸宮邸に通うようになって数日後、雪明りの中ではじめて末摘花の顔をみることになる。
源氏にしても頭中将にしても、末摘花に恋文(和歌)を書いているときは、小野小町のような美女に求愛しているつもりだったのではないだろうか。
当時の男たちは、相手の容姿も人柄もまるで知らないままに恋文をおくっていた。
女に関する情報といえば世の中にたっている噂と、お付きの女房たちが姫君の婚活のために世間に流す宣伝文句ぐらいである。
学校に通ったり、スーパーに買い物に出かけたりはしない。
男たちはどんな女を想像して求愛の歌を詠んだのだろうか。
平成の世では、身近にいる女だけではなく女優や歌手やアイドルやスポーツ選手などたくさんのサンプルがあって、その中から好みのタイプを思い描きながら、求愛の和歌を詠むことができる。
しかし、平安時代にはテレビやパソコンはおろか映画館もなく、しかも閉鎖的な身分社会である。
容姿と人柄を知る異性の数は、ごく限られていたはずだ。
「どこそこに妙齢の女がいる」と聞いた男たちは、相手を知らないままに恋の歌を詠んで送る。
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」を実践して、同じ和歌を複数の女におくる剛の者もいたかもしれない。
それを女房たちが、その男の身分と将来性そして和歌の巧拙と筆跡などをチェックした。
彼女らのお眼鏡にかなう男がいれば、その和歌を姫君にわたして姫君が返歌する。
そして、男が三夜続けて通ってきたら結婚ということになる。
命婦は、「姫君に会いたい」という源氏の望みをむげに断るわけにもいかず、まず物越しにふたりを会わせることにした。
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末摘花⑫光源氏と末摘花
平安京
命婦は、「姫君に会いたい」という源氏の望みをむげに断るわけにもいかず、まず物越しにふたりを会わせることにした。
「なにか物をへだてて姫君とお話しになってください。お気に召さなければ、そのまま帰られても構いません。もしご縁があれば、お通いください。だれも咎めたりはしません」
恋愛のエキスパート、命婦らしい計らいである。
八月二十日過ぎのこと。
月の出がいやにおそく空には星の光ばかりがきらめいて、松の梢を吹くかすかな風の音が心細く聞こえている。
末摘花はめずらしく命婦と語りあっているうちに、昔のことを思い出して泣きだした。
命婦は源氏を招くいい機会だと思い、女童(めのわらわ)に呼びにやらせる。
源氏は、常陸宮邸にお忍びでやってきた。
月がようやく空に昇り、気味悪く月に照らされている荒れた垣根のあたりを眺めていると、姫君が琴をかきならす音が聞こえてきた。
命婦に勧められたのだろうが、なかなかいい音色だ。
命婦は、別の聞き方をしている。
「男の気を引くために、もう少し当世風に弾けばいいものを」
源氏は、邸内にはいるとすぐに命婦を呼んだ。
命婦は源氏の来訪を初めて知ったような驚いた顔をして、末摘花につたえた。
「困りましたわ。源氏の君が、お越しになられました。姫君からのお返事がないので、『お会いして、お話をしよう』と度々おっしゃっていたのです。どのように、お返事を申し上げましょうか。几帳越しにでも、お話をなさいませんか」
「わたしは、男の方とお話ししたことなどございませんのに」
恥ずかしそうに奥の方へにじり入ろうとする様子が、いかにも初々しい。
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末摘花⑬末摘花デビューへ
*六條院 二条院の次に光源氏がすんだ邸宅。栄華の象徴
庇・廂(ひさし)の間 御所
恥ずかしそうに奥の方へにじり入ろうとする様子が、いかにも初々しい。
命婦は笑いながら、
「姫君の子供っぽいところが、私は心配でなりません。ご両親がご健在ならばそれでもよろしいのでしょうが。
高貴な方とはいえ、今のように心細い境遇になられたからにはもっとしっかりして頂かないと。いつまでも世間を怖がっておられるようでは、行く末が案じられます」
末摘花はいたって従順な性格で、人の意見には素直に従う。
そういうところが亡き夕顔に似ていると、命婦は思うのだろう。
「お返事を申し上げないで黙って聞いていてもいいのなら、格子を閉めてこちらでお伺いしましょう」
「縁側に源氏の君をお通しするなんて、あまりにも失礼です。まさか、軽はずみな振る舞いはなさらないでしょう」
命婦は廂(ひさし)の二間と母屋のさかいにある襖( ふすま)に錠をおろしてから、敷き物を敷いて座席を整えた。
末摘花は恥ずかしいが、こういうばあいの心得などないので、「そういうものなのだろう」と命婦に任せっきりだ。
乳母(めのと)をはじめとして年を重ねた女たちは、部屋に入って横になりうつらうつらしている。
2、3人の若い女房たちは、世に名高い美貌の源氏の姿をひとめ見たいと胸をときめかせている。
命婦は末摘花を見苦しくない衣装に着替えさせたり、身繕いさせたりした。
しかし、末摘花は少しもうれしそうでない。
命婦は源氏にたびたび、「姫君から返事がこない」と責められていたから苦し紛れにこんな手引きをしたが、末摘花を気の毒な目にあわせはしまいかと心配になった。
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*切切とした真情の吐露、メールではこうはいきませんね。
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(書き出し) 「僕が十月の二十七日に出した手紙見てくれましたか。君から返事がないので毎日毎日心配で心配で、ぢっとして居られない。手紙が君の手に渡らなかったのか、
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末摘花⑭侍従の代返
宇治市源氏物語ミュージアム
京阪宇治線 宇治駅下車 徒歩約8分。
宇治川を隔てて、世界遺産の宇治平等院。
王朝文化の雅な雰囲気にひたるには、最適な場所かも知れません。
風俗博物館
光源氏、元服の場面。
京都駅から徒歩約9分 東本願寺の裏手。
二階建ての地味で小さな建物ですが、「源氏物語」を画像で検索すると意外なほどでてきます。
命婦はたびたび源氏に、「姫君から返事がこない」と責められていたから苦し紛れにこんな手引きをしたが、末摘花を気の毒な目にあわせはしまいかと心配になった。
命婦に促されて、源氏と末摘花は襖をへだてて座った。
源氏は末摘花の高い身分からすると、当世風のへんに洒落た女というよりは奥ゆかしい女だろうと想像している。
たしかに襖のむこうの気配はもの静かで、えび香の薫りがほんのりただよってきた。
おっとりした雰囲気は、期待通りである。
源氏はずっと恋い慕ってきた胸のうちを言葉巧みに連射砲のように話しつづけるが、末摘花からの反応は手紙への返事同様まったくない。
「 … … … 」
なんにも返ってこない。
またまた、梨の礫である。
「どうにもこうにも、困ったものだ」
源氏はため息をつき、それから気を取り直して和歌を一首。
○いくそたび 君がしじまに 負けぬらむ
ものな言ひそと 言はぬ頼みに
何度あなたの沈黙に負けたことでしょう。ものを言うなとおっしゃらないことを頼みとして (なんどもお手紙を差し上げました)
つづけて、訴える。
「いっそ諦めろとはっきり仰ってください。どっちつかずの状態は辛すぎます」
「 … … … 」
やはり、無言のまま。
末摘花の乳母子(めのとご)に、侍従(じじゅう)という才気走った若い女房がいる。
焦れったくなり、末摘花を装って重々しくはない若々しい声で返歌した。
○鐘つきて とぢめむことは さすがにて
答へま憂きぞ かつはあやなき
鐘をついてこれで終わりと、あなた様のお話をお断りすることはやはり致しかねます。お答えできないのは、どうしてだろうと不思議でございます。
源氏は、「身分の割には馴れ馴れしい」と聞いた。
「はじめてのお返事だからでしょうか。お声をお聞きして、こんどは私のほうが言葉に窮してしまいます」
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末摘花⑮源氏、襖を開ける
『源氏物語』を執筆した。京都御苑近く
境内に紫式部と娘・大弐三位(だいにのさんみ)の歌碑がある
紫式部歌碑
○めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に
雲がくれにし 夜半の月かな 紫式部『新古今集』
久しぶりに逢えたのに、あなただと分かるかどうかのわずかな間に慌ただしく帰ってしまわれた。まるで雲間にさっと隠れてしまう夜半の月のように
○有馬山 猪名の笹原 風吹けば
いでそよ人を 忘れやはする 大弐三位『後拾遺集』
有馬山の近くにある猪名(いな)にある笹原に生える笹の葉がそよそよと音をたてる。どうして、あなたのことを忘れたりするものですか
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はじめてのお返事だからでしょうか。お声をお聞きして、こんどは私のほうが言葉に窮してしまいます」
○言はぬをも 言ふにまさると 知りながら
おしこめたるは 苦しかりけり
言わぬは言うにまさると存じてはおりますが、やはりあなたの沈黙はつらいものです
源氏は何やかやと取り留めのないことをあるいは冗談めかしてあるいは真剣に話しかけるが、何の甲斐もなく、姫君はふたたび無言に戻ってしまった。
うんともすんとも言わない。
これほどまでに手応えがないのは、「姫君にだれか好きな男がいるからだろう」と癪にさわって、そっと襖を開けるといきなり中へ入っていった。
「まあ、ひどいことを。手荒な真似はしないと仰ったのに」
命婦は源氏をうらんだが、姫君が気の毒とはおもいながら、そ知らぬ顔をして自分の部屋の方へもどっていった。
若い女房たちは、源氏が世に類ない美しい姿ときいているので、咎めようともせず嘆くこともない。
ただ思いも寄らないことで、何の心構えもなかったはずの姫君を案じた。
末摘花自身は茫然としてただただ恥ずかしく、身が竦んで何も考えられなかった。
源氏は、深窓で大切に育てられてきたからいつまでも初心(うぶ)なのだろうと大目にみる一方、あまりの反応のなさに妙な感じがしてかえって気の毒になった。
末摘花は、何に対しても不思議なほどに手応えがない。
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末摘花⑯後朝の手紙
渉成園しょうせいえん(枳殻邸きこくてい)
東本願寺の飛地境内地。京都駅から徒歩約10分
寛永18(1641)年、徳川家光が寄進
承応2(1653)年、石川丈山が書院式の回遊庭園として作庭
光源氏のモデルのひとり、源融(とおる)が営んだ『六条河原院』の旧蹟という伝説がある
紫式部は、『六条院』は『六条河原院』を想定していた
渉成園 国の名勝 正面奥は京都タワー
京都駅からごく近い名園にしては知名度が低いようです。
日本三名園のひとつ、『岡山後楽園』よりも野趣味に溢れています。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
末摘花は、何に対しても不思議なほどに手応えがない。
失望した源氏は、夜が明ける前にそっと帰っていった。
命婦は、「どうなるのだろう」と聞き耳を立てていたが、源氏が帰るとき、若い女房たちに「お見送りを」と指示しなかった。
源氏は二条院に戻るとすぐに横になった。
「思い通りの女は、なかなかいないものだ」
夕顔の面影をおったが、みごとに期待外れだった。
だからといって、末摘花の身分を考えると粗略には扱えない。
あれこれ思い悩んでいるところに、頭中将が顔を見せた。
「ずいぶん朝寝坊ですね。何か、わけでも」
「気楽なひとり寝のため、ついつい寝過ごしてしまいました。宮中からですか」
「ええ。朱雀院への行幸(ぎょうこう)の件ですが、今日、楽人や舞人が決定される旨、昨夜お聞きしましたゆえ、左大臣にお伝えしようと退出して来たのです。すぐに宮中にもどります」
「それでは、一緒に参内しましょう」
ふたりはお粥(かゆ)や強飯(こわいい)で腹を満たしてから、一台の牛車に相乗りした。
「まだ、眠そうですね。よほど隠し事が多いのでしょう」
その日は、いろんな事柄が取り決められたので、源氏は一日中、宮中にいた。
末摘花にはせめて後朝(きぬぎぬ)の手紙だけでも送らねばかわいそうだと思い、夕方にやっと出した。
常陸宮邸では、後朝の手紙が届くはずの時刻が過ぎても何の音沙汰もないので、命婦は気が気でなかった。
「これでは、姫君があまりにもお気の毒だわ」
末摘花はまだ昨晩のことを恥ずかしく思い続けていて、今朝くるはずの後朝の手紙が日が暮れてから届いたことが礼を欠くことてあることに気がついていなかった。
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アイドルもここまてくると、自分のイメージを損ねるようなことを平気で口にするようです。
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末摘花⑰月待つ里を
内裏(だいり)
内裏とは、帝の私的な居住場所
北半分の後宮(ハーレム)と南半分の帝の常住部分からなる
平安京大内裏復元模型
大内裏とは、内裏を中心として朝堂院(即位・朝賀・外国使臣の引見など重要な儀式を行う)や諸官庁を配置した区域
当時の内裏は、二条城の少し北
二条城 世界遺産
末摘花は昨晩のことをまだ恥ずかしく思い続けていて、今朝くるはずの後朝の手紙が日が暮れてから届いたことが礼を欠くことてあることに気がついていなかった。
後朝(きぬぎぬ)の手紙にはこうある。
○夕霧の 晴るるけしきも まだ見ぬに
いぶせさそふる 宵の雨かな
夕霧が晴れる気配をまだ見ないうちにさらに気持ちを滅入らせる宵の雨よ
来る気のない源氏の気持ちを読み取った女房たちはがっかりして胸を痛めたが、それでも返事をするよう姫君にすすめた。
○晴れぬ夜の 月待つ里を 思ひやれ
同じ心に 眺めせずとも
晴れない気持ちで月/あなたを待っている里/わたしを思いやってください。同じ心で眺めているのではないにしても
源氏は手紙を読む気すらしなかったが、それはそれとして最後まで世話をしようと心に決めた。
夜になって、源氏は左大臣といっしょに宮中を退出して左大臣邸にむかった。
左大臣は、行幸をことのほか楽しみにしている。
源氏や左大臣の子息たちが集まっては、行幸の話をしたり舞いの稽古をしたりして日が過ぎて行った。
お互いに競い合っているので色々な楽器の音が重なって非常にうるさく、いつもの静かな管弦の合奏とは様子かちがう。
源氏は管弦の練習に忙しく、恋しい女たちの所には暇を盗んで通ったが、末摘花にはすっかり御無沙汰のまま秋も暮れてしまった。
常陸宮邸のほうでは、それでもいつか源氏は来てくれるのではないかと待ち望んでいるうちに空しく月日が流れてゆく。
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末摘花⑱暮らし向き
寝殿造り クリック→拡大
平安時代におけるた都の上流貴族の住宅様式
東三条殿復元模型
代表的な寝殿造り。平安京の貴族邸宅の一つ。
平安初期の藤原良房(よしふさ)邸とされ、969(安和2)年に藤原兼家(かねいえ 道長らの父)が改築した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
常陸宮邸のほうでは、それでもいつか源氏は来てくれるのではないかと待ち望んでいるうちに空しく月日が流れてゆく。
ちなみに源氏の来訪を待ち焦がれていたのは、当の姫君よりも命婦(みょうぶ)や女房たちのほうであろう。
常陸宮家は零落していて、困窮を極めているからだ。
源氏が通ってくれれば、経済的な支援を期待できる。
なお、当時の慣習としては、通ってくる男の面倒を女の父親がみていた。
行幸が近くなって、試楽(しがく)の準備で宮中がごったがえしているころ、命婦が参内(さんだい)した。
「姫君は、どうしておられる」
源氏が命婦(みょうぶ)に尋ねると、
「これほどまでにお見限りとは。お側でお仕えしている私たちまで辛うございます」
「いまは忙しいのだ」と嘆息して、「人の愛情を少しも理解してくれない姫君を懲らしめようと思っているのだよ」
ニヤリとしたときの源氏の表情が若々しく愛嬌があるので、命婦もつい微笑んでしまった。
「困ったこと。女に恨まれるお年頃だし、相手への思いやりが薄くわがままなのも無理はないのかもしれないわ」
源氏は行幸の準備がおわったころから、時々常陸宮邸へ通うようになった。
ある宵、女房たちがのんびりと寛いでいるときを見計らって、そっと邸内にはいり格子の間から中をのぞいてみた。
末摘花らしき姿は、見えない。
几帳などは、破れたままだ。
調度や食器はもともとは上等品のようだが、古ぼけたり一部が欠けたりしている。
食事も見るからに粗末なもので、女房たちは姫君のおさがりを食べているようだ。
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暑中お見舞い申し上げます
涼風に吹かれませんか
… …
礼文島から利尻富士を望む
… …
… … 河童橋と上高地
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末摘花⑲馬の顔と象の鼻
光源氏、雪明かりの中で初めて末摘花の醜貌をみる
食事も見るからに粗末なもので、しかも女房たちは姫君の食べ残しを口に入れている。
「長生きするのも、考えものですね」
「常陸宮様がご存命だったころ、どうして暮らし向きが苦しいなどと嘆いていたのでしょう」
「いま思えば、夢のような日々でした」
貧窮生活がよほど辛いのか、ひとりの女房がうつむいて泣きだした。
寒さに震えている女房もいる。
みすぼらしい身なりの女房たちが、髪型を宮中女官風に装っているのも異様だ。
せめて宮家としての格式を保ちたいのだろう。
ふたたび味も素っ気もない夜をすごした翌朝、源氏が起きだして格子を上げると、庭の雪景色が息を呑むほどに美しい。
末摘花に声をかけた。
「庭の雪景色を、ご覧なさい」
末摘花は部屋からにじり出てくると、そのまま源氏の横にすわった。
源氏は外の雪景色を眺めているふりをしながら、ちらっと末摘花に目をむけた。
長い黒髪が裾まで 引いているので、一瞬、美人かと思った。
当時、長い黒髪は美人の必要条件だったからである。
でも、もちろん十分条件ではない。
一瞬の間をおいて、源氏は腰が抜けるほどに愕然とした。
びっくりして、声も出ない。
みっともないほどの胴長短足であることは、真っ暗な寝室でもうすうす気がついていた。
そして今こうして雪明かりの中で見ると、末摘花の顔は人類の付属物とは思えないほどの馬面でどこまでも延びている。
だが、何といっても際立って醜いのは、今まで見たこともない人間離れした象のような鼻の形と長さと色である。
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ハチャメチャに面白いローラは私生活では苦労が尽きません。もともと表情は言動ほどには明るくない。
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わが子を思う「母たち」の姿が・・
末摘花⑳先祖返り
普賢(ふげん)菩薩騎象像
(国宝、平安時代後期) 東京国立博物館蔵
・普賢菩薩、文殊(もんじゅ)菩薩とともに釈迦如来の脇侍(きょうじ・わきじ) ○釈迦三尊
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
だが、何といっても際立って醜いのは、今まで見たこともない人間離れした象のような鼻の形と長さと色である。
普賢菩薩の乗物である、あの象の長い鼻である。
つまり、馬面の女の顔の真ん中に象の鼻がついているのだ。
その鼻はあきれるほど高く盛り上がって、そのまま長くだらんと垂れ下がっている。
そして、鼻の先の方が赤く色づいている。
*紫式部はなぜ、「桐壺の巻」からずっとリアリズムを通してきたのに突然先祖 (例えば、『竹取物語』) 返りして、奇想天外で非現実的な話を挿入したのだろうか。
ひとりの女を徹底的に笑いものにして、何を言いたかったのか。
なお、「末摘花」は『源氏物語』全編の本筋との関連性はほとんどない。
また末摘花は気の毒なくらい痩せていて、肩の骨など衣装の上から痛々しく透けてみえる。
源氏は、後悔した。
どうして、こんな醜悪な女の姿をみてしまったのだろうか。
しかし、怖いもの見たさからつい繰り返し眺めてしまう。
源氏は後日、人を遣わして常陸宮邸を修理させたり末摘花やすべての女房たちに衣裳などを贈ったりした。
また、彼女らが生活に困らないよう援助の手を差し伸べる。
でも、一度も出かけることはなかった。
年の暮れに命婦(みょうぶ)が参内(さんだい)して、源氏に末摘花からの手紙をためらいながら渡した。
野暮ったい厚手の紙に、香を焚きしめている。
○唐衣 君が心の つらければ
袂はかくぞ そぼちつつのみ
あなた様のつれないお心がたまらなく辛いので、わたしの袂(たもと)はいつも涙に濡れそぼっております
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末摘花21末摘花と若紫
末摘花関連系図
末摘花に辛くあたる作者
歌川豊国筆 『執筆する紫式部』 石山寺「源氏の間」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
○唐衣 君が心の つらければ
袂はかくぞ そぼちつつのみ
あなた様のつれないお心がたまらなく辛いので、わたしの袂(たもと)はいつも涙に濡れそぼっております
和歌があまりにもお粗末なので、源氏は呆れかえった。
「あの姫が自分で歌を作ると、この程度か」
命婦(みょうぶ)は赤面しながら、遠慮がちに古ぼけた衣装箱を差し出した。
末摘花が妻として源氏のために見繕った、元旦用の衣装なのだそうだ。
野暮ったくて無粋で、センスのかけらもない。
そもそも元旦用の衣装を用意するのは正妻、葵の上の務めである。
そんなことも知らずに、押し付けがましいことをする。
源氏は末摘花からの手紙の端にいたずらがきした。
○なつかしき 色ともなしに 何にこの
すゑつむ花を 袖に触れけむ
心魅かれたわけでもないのに、どうしてこんな女を摘んだのだろう。
巻名「末摘花」の由来でもある
紫式部も悪口の限りを尽くすが、源氏も負けていない
源氏は二条院にもどると、ますますかわいらしくなった若紫と人形遊びやお絵描きに興じた。
若紫が身に付けている衣装をみて、
「おなじ紅色でも、人によってこんなに見え方が違うとはね」
源氏は髪の長い女を描いて、鼻の先に紅を付けた。
絵に描いた女を見ることさえ、疎ましい。
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一部では、NHKなどによる「メディア殺人」といわれています。
亡くなった笹井芳樹氏はノーベル賞クラスの学者だったとか。
NHKだけでなく、安倍晋三さんは自分の手駒にするため「右」に片寄った人物を政府機関などのトップに送り込んでいます。
何のために?
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末摘花22千年のいじめ
階隠しとは、社殿や寝殿造りの殿舎で正面の階段上に柱を2本立てて突出させた庇(ひさし)
紅梅をついばむメジロ
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
絵に描いた女(末摘花)を見ることさえ、疎ましい。
今度は、自分の鼻に紅をつけて赤く染めた。
源氏ほどの美しい顔立ちでも、鼻の先が赤いとやはりみっともない。
からかい半分に、若紫(のちの紫の上)にたずねた。
「わたしが赤鼻になったら、姫はどうしますか」
「そんなの、ダメです」
若紫は驚いて拭き取ろうとするが、紅はなかなか落ちない。
「大変なことになりました。とんだ悪ふざけです。帝にこっぴどく叱られましょう」
源氏がさも困ったようにいうので、若紫は紅が鼻に染み付いてしまうのだろうかと本気で心配している。
ふたりがじゃれ合っている様子は、まるで仲の良い兄妹のようだ。
階隠しの下に、早咲きの紅梅がひともとあって、もう紅の花をつけている。
源氏はその花を目にすると、雪の日に初めて見た末摘花を思いだした。
○紅の 花ぞあやなく うとまるる
梅の立ち枝は なつかしけれど
(末摘花を見てからというもの)、紅の花がどうにも厭わしい。紅梅の高く伸びた枝には心ひかれるが。ここまで執拗だと、度の過ぎたいじめではないか。
紫式部によほど憎ったらしい女がいた?まさか、『紫式部日記』で悪態をついている清少納言ではあるまい。
十月十日頃、桐壺帝は朱雀(すざく)院へ行幸(ぎょうこう)して、紅葉の賀宴(がえん)を催すことになった。
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ダスティン・ホフマンになれなかった男は、青春を卒業できないということか。テーマ曲も挿入歌も、素晴らしい。
20代の方は必見だと思います。30代以上の中には、切なさに胸が痛くなる方がいらっしゃるかも知れません。
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紅葉賀①リハーサル
唐楽『青海波(せいがいは)』を舞う、光源氏(左)と頭中将(右)
清涼殿と南庭(前庭)
桐壺帝は十月十日頃に朱雀院へ行幸して、紅葉をみる賀宴(がえん 酒盛り・祝宴)を催すこととなった。
*行幸(ぎょうこう・みゆき) 帝が外出すること
それに先立って、帝は、身重の藤壷をはじめ女御(にょうご)や更衣(こうい)たちにも賀宴を見せようと、清涼殿の南庭で試楽(しがく リハーサル)を催した。
源氏は、頭中将を相手に「青海波」を舞った。
頭中将は容姿・心ばえともに並外れて優れているが、源氏と並ぶとやはり花の傍らの深山木である。
それでも、両者の息のあった華麗な舞いは見物人たちを魅了してやまなかった。
とりわけ、西の空に沈もうとしている夕日に映える源氏の舞姿は、息を呑むほどに美しい。
また、舞いながら朗唱している声は澄みわたるように清らかで、しみじみと見る者の心を打った。
帝は、涙をぬぐっている。
上達部(かんだちめ)や殿上人(てんじょうびと)らも、みな涙にむせんでいる。
一方、藤壺は、源氏の優美な舞いに心を奪われながらも愁いに沈んでいた。
「あの秘め事さえなかったら、もっと素直な気持ちで源氏の君の晴れ姿を拝見することができましょうに」
政敵の弘徽殿女御だけは、源氏を呪うようなことをいう。
「神にでも魅入られそうな舞姿だわ。薄気味悪く、不吉だこと」
その夜、帝が藤壺にたずねた。
「今日は、光の『青海波』が圧巻だった。あなたはどう思いましたか」
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紅葉賀②久々の手紙
「清涼殿」in内裏
北西に「藤壺」、北「弘徽殿」、北東隅「桐壺」、南東「紫宸殿」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「今日は、光の『青海波』が圧巻だった。あなたはどう思いましたか」
藤壺は戸惑った末、やっとこれだけ答えた。
「格別、でございました」
翌朝、藤壺のもとへ源氏から手紙がとどいた。
「昨日の「青海波」をいかがご覧になりましたか。藤壺様への苦しい思いに耐えつづけました。
○もの思ふに 立ち舞ふべくも あらぬ身の
袖うち振りし 心知りきや
(藤壺様を前に気持ちが乱れ)、無心に舞える心の状態ではありませんでした。舞いながら袖を振った私の気持ちを、お分かり頂けたでしょうか
中学か高校の教科書に載っていた有名な万葉歌
○あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る 額田王
*袖振る (求愛の)合図を送る
あれ以来、源氏とのあらゆる接触を自分に禁じていた藤壺だが、きのうの源氏の舞姿が目もくらむほどに美しかったからだろうか、珍しく返事した。
○唐人の 袖振ることは 遠けれど
立ち居につけて あはれとは見き
青海波は唐の国の舞いですから、袖を振ることがどういう意味なのか存じません。ただ、源氏の君の一挙手一投足は、深く心にしみました
久しぶりに届いた藤壺からの手紙は、源氏にとって何よりもの宝である。
自然に、顔がほころんできた。
「異国の舞楽にも通じておられる教養の深さ。すでに、中宮(皇后)としての風格を備えておられる」
源氏は尊い持経(じきょう:肌身離さず持っていて読誦する経文)のように、両手で丁寧に広げてなんども眺めていた。
朱雀院への行幸には、春宮(とうぐう:皇太子)をはじめ宮廷を挙げてお供した。
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