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空蝉④恋の冒険

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$吉備路残照△古代ロマン-空蝉
 「空蝉(うつせみ)」の語源 十二単(じゅうにひとえ)の脱け殻

空蝉は親子ほどに年齢の離れた伊予介(いよのすけ)の後妻になっていた。


やがて夜が更け、供の者たちは酒の酔いも手伝って寝入ってしまった。

源氏は意識が冴えて、まんじりともしない。

頭中将(とうのちゅうじょ)の、「中流の女は面白い」という言葉が脳裏を去らないのだ。

その中流の女である空蝉が、同じ紀伊守の屋敷にいる。

暗闇の襖ごしに、若い女少年の声が聞こえてきた。

「どこにいるの、お姉さま」

「ここよ、小君。源氏の君はどんな方だった?」

「立派な方でした。ウワサ以上に美しい方で、まともにお顔を見られませんでした」

「そうなの。昼間の明るいうちだったら、私ものぞき見したかったわ」

どうやら、若い女は空蝉で、少年は小君らしい。


しばらくすると、また空蝉の声が聞こえてきた。

中将(女房の名前)はどこに行ったのかしら。そばに誰もいないと不安だわ」

ある女房が応えている。

「下の屋に、湯を使いに行きました。すぐに戻ります」


襖の向こうに空蝉が一人でいると思ったのか、源氏はやおら起き上がった。

そして、襖を引くとカギがかかっていないらしくすんなり開いた。

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空蝉⑤人妻を拉致

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中央官制と地方官制 中央官制と地方官制

図が不鮮明ですが、受領階級の「受領」は、「国司」とほぼ同じ意味。紫式部も受領階級、つまり『源氏物語』でいう「中流」です。

襖(ふすま)を横に引くと、掛け金がかかっていないらしくすんなり開いた。

ほの暗い部屋の中に衣装箱や寝具などが雑然と置いてあり、それらの間に小柄な女が横になっている。

源氏が方違えのため急に紀伊守の屋敷を訪れたので、空蝉は、この物置のような部屋をあてがわれたのだろう。

源氏は忍び寄って、空蝉(うつせみ)が身体の上に重ねている着物をそっとはいだ。

しかし、空蝉は女房の中将が湯屋から戻ってきたと思っているのか、目を閉じたまま。


源氏空蝉の耳元でささやいた。

「お呼びの中将が参りました」
   ・光源氏の当時の官位は、中将

男の声と分かって、空蝉は驚き、そして怯えた。

「あっ」と短く叫んだきり、身体を震わせている。

「けっして、気紛れではありません。どうか怖がらないで下さい。前からお慕いしておりました。今夜、こうしてお会いできたのは何かのお導きです」

プレイボーイの特殊技能なのかどうか知らないが、源氏は初対面の相手だろうと誰だろうと、こんな歯の浮くようなセリフを臆面もなく並べ立てる。

「お人ちがいでしょう」

空蝉は震えながら抵抗するが、源氏は自分の部屋へ連れ出すためにひょいと空蝉を抱き上げた。

そして自分の部屋へ連れ込もうとしたちょうどその時、湯屋から戻ってくる中将と鉢合わせした。


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空蝉⑥人妻の身で

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空蝉系図 空蝉関連系図

自分の部屋へ連れ込もうとしたちょうどその時、湯屋から戻ってくる中将と鉢合わせした。

中将が、暗がりの中で「何ごとか」と目を凝らすと、男が女を両手で抱えて部屋へ入ろうとしている。

あたりには、えもいわれぬ芳香が立ち込めている。

そこで、すべてを理解したが、相手が相手だけに声を出して咎めるわけにはいかない。

ただただ驚き呆れている中将に、源氏が声をかけた。

「夜が明ける前に、お迎えに来なさい」

時代が違うとはいえ、えらく堂々とした17歳である。

空蝉(うつせみ)は、まるでモノのように運ばれていることだけでも逃げ出したくなるほど屈辱的で情けないのに、そういう自分の惨めな姿を目撃した中将がどう思っているかと想像すると顔から火が出るほどに恥ずかしくいたたまれない思いだった。

源氏は襖を閉めると、空蝉をふとんにそっと横たえた。

空蝉は恥ずかしさと悔しさで死んだようになっている。

源氏はふたたび、いったいどこから出てくるのかと不思議に思われるような甘い言葉を降り注ぐが、空蝉はけっして心を開こうとはしなかった。


「こんなことがあって、よいものでしょうか。どうせ私など、数ならぬ身です。それでも、私には私なりの生き方がございます。結婚する前に、あなた様と結ばれたらどんなにか幸せだったことでしょう。人妻の身で、こんなことになって本当に辛うございます」

「人妻でなかったら……」という点は、あの方と同じ。

まばゆいような源氏の美貌に魅かれながらも、空蝉は泣きながら訴えた。


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空蝉⑦一夜の慰み者

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空蝉軒端荻小君 姉と弟 (空蝉 小君)  


「どうか、今後、わたしに構わないで下さい。卑しい女には、卑しい女なりの誇りがあります。お願いです。今日の事はなかったことにして下さい」

空蝉(うつせみ)は、身分ちがいの男によって一夜の慰み者にされたことが悔しくてならない。

もちろん、「今夜のことが、夫の伊予介(いよのすけ)に知られたら……」という心配もある。


一方、当代一のモテ男を自他ともに認めている源氏は、情事のあと、これほど筋道立てて拒絶の意を含んだ言葉を浴びたことはなかった。

この明快な話しぶりが、頭中将(とうのちゅうじょう)のいう、「中流の女は面白い」ということか。

思えば、空蝉より身分も教養も高い上流中の上流であるあの方六条御息所(ろくじょうみやすどころ)や正妻の葵の上らは、論理的な話し方はしない。

珍しさも手伝ってか、この論理性が源氏空蝉への関心をかき立てた。


夏の短夜(みじかよ)は、早くも明けようとしている。

人が起き出す気配に、中将が迎えに来た。


空蝉の毅然とした態度がいたく気に入った源氏は、弟の小君(こぎみ)を、「近いうちに宮仕えさせるから…」と紀伊守(きいのかみ)に約束して身辺に使うことにした。

本音は、小君空蝉との連絡係にしたいらしい。



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空蝉⑧逃げれば追う

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空蝉 囲碁 空蝉(うつせみ)と軒端荻(のきばのおぎ)  囲碁の対局を垣間(かいま)みる光源氏 ……『宇治市源氏物語ミュージアム』

源氏小君(こぎみ)を召し抱えると、空蝉のことをあれこれ尋ねた。

また、実弟である小君の容姿や立ち居振る舞いから空蝉の顔立ちや身のこなしを想像した。

というのは、源氏がレイプまがいに空蝉と関係をもったのは夜の暗がりであり、互いの姿形はほとんど見えていないからだ。

源氏空蝉について分かっているのは、「小柄で痩せ型」ということぐらいである。


たびたび小君に命じて空蝉へ手紙をもたせるが、空蝉からは梨の礫。

何の反応も返ってこない。

空蝉の冷たい仕打ちに、源氏の恋心はますます募った。

「逃げれば追う」

古今東西、恋愛心理の法則通り。

小君に命じた。

姉上に会う手だてを考えてくれ」

小君は、初対面のときから源氏に憧れている。


ある日、小君紀伊守(きいのかみ)の屋敷に出かけて様子を探ると、紀伊守は任地(和歌山)に出かけていて、女ばかりが鬼の居ぬ間よろしく寛いでいた。

夏の暑い盛りで、屋敷の襖や障子などは開け放してある。

源氏小君の導きで幾つかの部屋を進むと、大柄な女小柄な女が囲碁に興じていた。






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空蝉⑨対照的な女たち

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空蝉軒端荻小君 
 空蝉(うつせみ) 軒端荻(のきばのおぎ) 小君(こぎみ)

木画紫檀碁局 碁盤 木画紫檀碁局(もくがしたんのききょく=碁盤)  東大寺正倉院蔵 聖武天皇遺愛の品       ○平安時代の貴族たちは男女を問わず、日常的に囲碁に親しんだ


源氏小君の手引きでいくつか部屋を進むと、大柄な女と小柄な女が囲碁に興じていた。

碁盤をはさんで小柄な女の肩越しに見える大柄な女は軒端荻(のきばのおぎ)。

伊予介の先妻の娘にして、紀伊守の妹だ。

つまり、伊予介の後妻である空蝉には継娘(ままむすめ)にあたる。

色白で目鼻立ちのはっきりした華やかな顔立ちの美人だが、着物が胸元までしどけなくはだけていて豊満な胸のあたりがあらわになっている。

若々しいが、やや粗雑で品性を欠くようだ。

明るく陽気に囲碁を楽しんでいるが、もう少し落ち着きが欲しい。


一方、空蝉はどうか。

先日、一夜を共にしたが、小柄で痩せていた。

それ以外のことは、まるで分からない。

源氏には後ろ姿しか見えないが、時々横を向いたときに横顔が見える。

ひいき目に見ても、美しくはない。

目は腫れぼったく鼻筋は通っていず、華がない。

しかも、顔の表情がなんとなしに老け込んでいる。

器量では、軒端荻に数段おとる。

美少年の弟・小君とは似ていないようだ。


しかし、空蝉が身にまとっているたおやかな雰囲気が、不美人であることを意識させない。

対局中、軒端荻に話しかける言葉もしっとりとして品が良く、落ち着いている。

碁石を碁盤に置くときの所作も優美で、たしなみ深い。


ふたりの対照的な女を見比べて、源氏は若くて美貌の軒端荻ではなく、地味だが品の良い空蝉に軍配をあげた。

空蝉への想いを一層深くして、一旦その場を離れた。


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明けましておめでとうございます 平成26年元旦

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青海波1  

青海波を舞う光源氏(左)と頭中将


初春のお慶びを申し上げます

今年1年はまるまる『源氏物語』になりそうです

2014年があなたにとって良い年でありますように

               平成26年 元旦


現実社会に目を向けると今年は大きな懸念事項がある。


安倍晋三首相は、中国と韓国の激しい反発は織り込み済みだったろうが、アメリカの厳しい失望(disappointed)表明やEU、ロシアなどの非難声明を考慮に入れていたのだろうか。
東南アジア諸国も、愉快ではないはず。

中国の王毅外相がここぞとばかりに各国の外相に、「日本が、『戦後秩序』を壊そうとしている」と電話しまくっている。
『戦後秩序』を主導したのはアメリカだから、日米を離反させたいのだろう。

オバマ政権はもともと安倍氏を危ない国家主義者と見て、距離を置いている。

欧米に見放され国際社会でふたたび孤立したら、中国は尖閣諸島に侵攻するのではないか。
ただ、尖閣が中国の領土になれば力のバランスが崩れてアメリカも困るだろうから、それは許さないだろうという米軍の抑止力頼みの妙な安心感はあるが。

とにかく一国の宰相が外交感覚を無視して、個人的な信念やら情念やらで国民を窮地に陥れていいものか。

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空蝉⑩恋しつつ拒む女

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空蝉1 
 源氏空蝉の寝室に忍び込んだが逃げられる 歌川広重画。

囲碁の対局が終わると、軒端荻は、「今夜は、こちらで寝ます」というなり、空蝉の隣ですぐに寝息を立てた。

軒端荻はすこぶる健康で、何の悩みもないらしい。

夜が更けて女房たちが寝静まったころ、源氏小君の手引きで空蝉の部屋に向かった。

男を女の寝室に導くのは普通、女に仕える女房だが、女の弟というのは実に珍しい。

これから、『源氏物語』の英訳本などを読んでいて外国人が大笑いするという「艶笑譚」が始まる。

『源氏物語』は、25か国ほどの言語に翻訳されています。ちなみに、ここ数年、ノーベル文学賞候補にその名が挙がっている村上春樹の作品は今現在、およそ20か国で出版されているそうです。

空蝉はあの夜以来、源氏を拒否しながらも忘れられないでいる。

昼は物思いに沈み勝ちで、夜は目が冴えてなかなか眠れない。

空蝉は、父親ほどの年齢のをもつが愛してはいない。

それどころか、衛門督(えもんのかみ)という中央官僚だった亡き父親よりも格下の伊予介という地方役人の後妻に収まったことを、ずっと不満に思っている。

そんな時、天下に並びなき貴公子の源氏と結ばれた。

レイプ同然だったが、不愉快でもなければ憎悪心も湧いてこなかった。

「こんなことがあってはなりません。わたしは人の妻です」と17歳の源氏を諭しつつ、こうも言っている。

「もし独り身であれば、どんなに嬉しいことでしょう」

それ以来、空蝉の心の中に源氏が住みつく。

しかし行動の上では、身分や器量が違いすぎることを意識せざるを得ず、「人妻だから」と拒絶し続けた。

源氏を想いつつも拒みつづける女にはあの方がいるが、あの方の場合は身分と器量は源氏と同格で、「人妻だから」の一点だけである。

いずれにしろ、二人とも源氏の求愛を斥けることによって女としての価値を高めている。

空蝉が寝つかれずにいると、衣(きぬ)ずれの音がして最上等の芳香が漂ってきた。




 愛する源氏物語  俵万智 / 文藝春秋

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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹/文藝春秋

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空蝉⑪逃げられた

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空蝉 空蝉が抜けだした夜着


空蝉(うつせみ)が寝つかれずにいると、衣(きぬ)ずれの音がして最上等の芳香が漂ってきた。

「きっと、源氏の君だわ」

当時、男女の逢引きは互いの顔が見えない夜の暗がり。衣装に焚き染めた香りや、身体に触れたときの手の感触が重要なポイントだった。

源氏からの手紙に何度か返事を出さずじまいなので、源氏の気持ちがもはや離れてしまっているのではないかと不安に駆られているところだった。

忘れられていなかったことが妙にうれしい。

でも、やはり男と女の関係になってはいけないと、単衣(ひとえ)を1枚だけ羽織ってふとんからそっと抜けだした。


空蝉が寝室をでるのと入れ違いに、源氏が忍び込んだ。

女がひとり寝ている。

ふとんに滑り込んで夜着をはいで身体に触れると、手の感触がいつかの夜とは違う。

肌触りがもっと滑らかで弾力がある。

空蝉は小柄で痩せていた。

目の前の女は、大柄でやや太っている。

空蝉ではないことに気がつくと、昼間、囲碁に興じている二人の女を垣間(かいま)見たときのことを思い出した。

源氏の視線の正面に座っていた軒端荻(のきばのおぎ)であろう。

伊予介(いよのすけ:愛媛県の副知事に相当)の娘で、空蝉の義理の娘にあたる。

器量良しとはお世辞にもいえない空蝉に対して、軒端荻は色白で華やかな顔立ちの美人だった。

しかし、着物姿はしどけなく居ずまいはがさつだった。

清少納言紫式部らは作品の中で明らかに「地方」を見下げているが、彼女らをしても越えられなかった時代性なのだろう。


今、眠っている寝姿もどことなく品性を欠いている。

だからといって、「あっ、間違えた」というわけにはいかない。

さてどうする、源氏の君



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空蝉⑫永遠のアイドル

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清少納言 

紫式部(973?~1014?)&清少納言(966~1025)

空蝉軒端荻小君 
光源氏 空蝉(うつせみ) 軒端荻(のきばのおぎ)

さてどうする、源氏の君

千年後の今日も、漁色家として鳴り響いている源氏のこと。

あなたの予想している答えが、正しい。

「ちょっとHな永遠のアイドル」というイメージだろうか。


余談だが、ひと月ほど前の新聞か雑誌のアンケートの回答に光源氏の名前があった。

そのアンケートは、20~30代の女性に、「どの時代に戻って、何をしたいか」と尋ねていた。

「平安時代に戻って、光源氏と熱烈な恋愛をしたい」という回答が多いのに驚いたものだ。

そこに男性編はなかったが、別の媒体でのアンケート。

アンケートを取ったのは英国のメディアだったと思う。

「もし日中戦争が勃発したら、あなたは戦場に赴きますか」

日本の若者のほとんどは、「行きません。逃げます」

中国の若者の大多数は、「もちろん行く。徹底的に戦います」

安倍首相は中国と戦っても負けない国づくりをしたいようだが、彼我の若者の士気を汲みとっておくべきだ。

もし尖閣諸島で双方の誤解から交戦するような事態にたち至った場合、全面戦争に発展しないという保証はない。

赤紙(召集令状)1枚で、若者を戦場へ駆り出す愚を繰り返してはならない。


源氏は、空蝉に逃げられたことが腹立たしかった。

「私よりも、伊予介のほうが魅力があるというのか」

見当違いなことで怒っている。

源氏空蝉の情交はW不倫になるが、そのあたりの意識は空蝉にはあっても源氏にはまるでない。

史実においても、源氏ほどの高位高官は不倫で罰せられることはなかったようだ。

空蝉よりも美人で可愛げのある軒端荻がそばに寝ている。

「まぁ悪くはないし、人違いだと気づかれたらバツが悪い。この女も変に思うだろう」

抱き寄せると、軒端荻は目を覚ました。




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空蝉⑬空蝉の薄衣

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小袿 
 小袿(こうちき:貴族女子が着る上着)

空蝉2
小袿を残して部屋を抜け出す空蝉
(うつせみ)


抱き寄せると、軒端荻(のきばのおぎ)は目を覚ました。

何が起きたのか分からない様子だ。

彼女の意識がはっきりしないうちに、源氏軒端荻その人に会いたさに今ここにいると思わせる作戦に出た。

お得意の「口説き文句」の連射である。

「ずっと以前から、お慕いしておりました。あなたのお姿を遠くからでも眺められたらと、時々兄上のお屋敷を訪ねるようになったのです。気紛れなんかでは決してありません。怖がらないで下さい」

軒端荻は次第に意識を取り戻すと、思いもよらない事態に驚いた。

源氏の君が、なぜここに……」

軒端荻はまだ男女の仲を知らない生娘だったが、変にませていて慌てたり取り乱したりはしなかった。

源氏は今夜のことを大っびらにしないよう軒端荻に念を押す。

「私たちの仲は、二人だけの秘密にしておきましょう。その方が、男と女の仲は趣が深いものです。私は忘れないから、あなたも忘れずに待っていて下さい」

「私のほうからは、とてもお手紙を差し上げられません」

軒端荻は、源氏から愛される立場ではないことをわきまえているようだ。

「いいのです。私のほうからお手紙を差し上げます。あなたは何事もなかったようにしていて下さい」

そういうと、源氏空蝉が残していた薄衣(うすぎぬ)を持って帰って行った。


翌朝、源氏は憎らしい空蝉のことで頭が一杯で、軒端荻に「後朝(きぬぎぬ)の手紙」を出さなかった。

後朝の手紙…男女が共寝した翌朝、男から女に手紙を出す風習があった




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空蝉⑭叱られた小君

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二条院 光源氏の引っ越し
母・桐壺更衣の実家→①内裏の淑景舎(しげいしゃ:桐壺)→②二条院 母里を桐壺帝が改築→③六条院(六条御息所の邸跡を改築)

平安京内裏 ←クリック 拡大
 淑景舎(しげいしゃ 右列の上から2つ目) 平安京内裏

六条院 六条院復元模型
東本願寺の別邸、渉成園(枳殻邸:きこくてい)が擬せられている

翌朝、源氏は憎らしい空蝉のことで頭が一杯で、軒端荻に「後朝(きぬぎぬ)の手紙」を出さなかった。
後朝の手紙…男女が共寝した翌朝、男から女に手紙を出す風習があった


源氏はそのころ住んでいた二条院に戻ると、小君(こぎみ)を叱りながらぼやいた。

お前がちゃんと手筈を整えていないから、姉上に会えなかったではないか」

「申し訳ありません」

「お前の姉上は、よほど私のことが嫌いらしいな。私は伊予介(いよのすけ)より劣るか」

小君が応えようもなく黙っていると、源氏が八つ当たりする。

「お前は可愛いいが、つれない女(ひと)の弟だからな。いつまで目をかけてやれるか分からなくなった」


源氏は気を取り直して、和歌を一首詠んだ。

○空蝉の 身をかへてける 木のもとに

       なほ人がらの なつかしきかな

あなたは蝉が脱皮するように薄衣(抜け殻)を残して去ったけれど、あなたの人柄が懐かしく思われます

この和歌の冒頭「空蝉」により、小君の姉を空蝉と呼ぶ

どうやら源氏空蝉の「容姿」ではなく、「人となり」に強く魅かれているようだ。

稀代の「イケメン」は、「面食い」ではなかった。

千年前の17歳の精神年齢は、平成の世でいえば何歳位に相当するのだろうか。


小君がこの和歌を空蝉のもとに届けると、姉に叱られた。

「あなたのせいで、困っているのよ。悪い噂が立つではないの。小君のためにも良くないわ」

空蝉は脱ぎ捨てた薄衣(うすぎぬ)が、源氏の手元にあることが恥ずかしくて仕方がない。

一方では、うれしくもあった。

源氏が本気で自分のことを想ってくれていると感じるからだ。

いつかのことが「一夜の戯れ」でなかったら、「いけないこと」と分かってはいるがどんなに嬉しいことだろう。

源氏からの手紙の隅に、和歌を書き留めた。

○空蝉の 羽におく露の 木がくれて

      しのびしのびに ぬるる袖かな

蝉の羽におく露のように人目を忍びながら、あなたを想って涙に暮れております。




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夕顔①六条御息所と夕顔

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夕顔系図 光源氏 夕顔 頭中将

夕顔2
 『源氏物語五十四帖 夕顔』 歌川(安藤)広重


やはり17歳のころ、源氏は7歳年上の六条御息所(ろくじょうみやすどころ)のもとへ通っていた。

先の東宮(皇太子)の未亡人で、美しくて教養が豊かで気品に溢れている。

源氏が知り合う前、彼のライバルで義兄の頭中将(とうのちゅうじょう)ら男たちにとって、高嶺の花のような存在であった。

空蝉が中流なら、こちらは正真正銘の上流の女。

しかし、源氏はあまりにも理知的で毅然とした雰囲気を漂わせる六条御息所が鬱陶しくなっている。

本妻の葵の上と一緒にいる時に感じる気詰まりと似てきた。

会っていて、気持ちが晴れない。


その日、六条御息所のもとへ通う途中、むかし世話になった大弍乳母(だいにのめのと)が病をえて尼になっていると聞き、五条にある彼女の家に立ち寄った。

幼くしてを亡くした源氏を、わが子以上に大切に養育してくれた恩人である。

門に錠が掛かっているので、従者惟光(これみつ)を呼んでくるように命じた。

惟光大弍乳母の息子で、源氏とは乳兄弟(ちきょうだい)。

乳兄弟…同じ女性の乳を飲んで育った者同士に結ばれる擬制的兄弟

友人であり、忠実な部下でもある。

惟光が出てくるのを待っている間、あたりを見回していると、惟光の家の隣から、簾(すだれ)を透かして何人かの若い女たちが源氏一行をのぞいているのが見えた。

家の前に停まった牛車を見て、「だれが、乗っているのだろう」と噂しあっているのに違いない。

「どんな女たちなのだろう」

源氏は、なにやら不思議な家だと思った。

粗末な家屋で、塀には青々と蔓草が伝っている。

白い花をひそやかに咲かせているのは、夕顔だろう。

朝を待たずにしぼんでしまう、はかない命だ。

従者に命じた。

「夕顔を、一房折って来てくれ」






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夕顔②出会い

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夕顔3  夕 顔

源氏夕顔巻  源氏夕顔巻
 『月百姿 つきひゃくし』 月岡芳年 (最後の浮世絵師)


従者が夕顔の茎を折っていると、家の中から女の子が出てきて白い扇を差し出した。

扇には、香が焚き染めてある。

「その夕顔の花を、この扇に載せて下さい」

粗末な家だが、たしなみの深い女が住んでいるようだ。


源氏がその扇を受け取ると流麗な筆跡で和歌が認めてある。

女の方から先に、男に和歌を詠みかけるのは珍しい。

そのことと和歌の内容とで、女の素性について色々と詮索している老女流作家がいる

○心あてに それかとぞみる 白露の 

    光そへたる 夕顔の花

あて推量ですが、「あの方かしら?」と思っております。あなた様の白露のような美しさで、わが家の夕顔の花が一段と美しく見えます。

この歌から、その家の女を夕顔と呼ぶ。

源氏は和歌の詠み人に魅かれ、その場ですぐに返歌を書いて従者に持たせた。

○寄りてこそ  それかとも見め  たそかれに

    ほのぼの見つる 花の夕顔

近くに来て確かめたら如何ですか。黄昏時にほのかに見える夕顔の花を


これが、はかない夕顔との出会いだった。






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夕顔③夕顔とは何者?

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源氏物語色紙貼交屏風 源氏物語色紙貼交屏風 夕顔

夕顔1 映画『源氏物語 千年の謎』 夕顔(芦名星)をとり殺す六条御息所(田中麗奈)


源氏は、乳兄弟で腹心の惟光(これみつ)に尋ねた。

「お前の家の隣に住んでいるは、いったい何者だ」

「5~6日ほど里帰りしておりますが、の看病に気を取られて隣の家のことは何も聞いておりません」

またまたやっかいな病気が始まったと苦々しく思ったのが声に出たようだ。

「そうか、気に入らんのか。だが、この扇の和歌が気になるのだ。とても巧みだし、だと分かっているのに少しも気後れしたところがない。だれか、あの女を知っていそうな者にたずねてくれ」

惟光としては、源氏の女好きには付き合っていられないと思っても、まさか断わるわけにはいかない。

その家に入って、使用人らしいにたずねた。

そして、源氏に復命した。

は5月頃、あの家に引っ越してきたそうです。風流を好み、姉妹たちがちょくちょく遊びに来るようです。みんな、宮仕えをしております。それ以上のことは分かりません」

「もう少し、調べてくれないか」


のもとには、以前、頭中将殿が通われていたそうです」

そういえば『雨夜の品定め』のとき、頭中将(とうのちゅうじょう)は、「中流にイイ女がいる」と体験談を語っていた。

そして、「自分が通っていた女の存在を気性の激しい正妻が知るところとなり脅しをかけたので、そのは行方をくらましてしまった。それっきり、会っていない」と話していた。

夕顔は、頭中将が通っていた女なのだ。





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夕顔④素直で従順な女

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紫式部像 紫式部公園
 紫式部像in紫式部公園 福井県越前市

夕顔が『雨夜の品定め』で頭中将が話していた常夏の女だと分かると、源氏はますます夕顔に興味をそそられた。

数日後、惟光の手引きで夕顔の寝室に忍び込んで、一夜の契りを結んだ。

そして、これまでの女にない、夕顔の自然体で素直な人柄に惚れこんでゆく。

無邪気で従順な、気が置けないタイプの女は初めてである。

源氏は明け方に夕顔と別れると、夜がくるのが待ち遠しくてならない。

ただ幾度となく身体を重ねても、夕顔は自らの素性を明かそうとはしなかった。

源氏も、「あなたが誰かは知っていますよ」などとは決して口にせず、質素な狩衣(かりぎぬ:普段着)姿で通った。

二人は互いの身元が分かっていながら、あえて触れなかったのはなぜか。


図式的には、夕顔源氏にとって義兄(頭中将)の愛人であり、源氏夕顔にとって愛人の義理の弟である。

もっとも、夕顔頭中将の「愛人・恋人」なのか「妻」なのかはよく分からない。

ただ「正妻」でないことは、はっきりしている。

いずれにしろ夕顔は、伊予介の「正妻」である空蝉があれほど気にしている「人妻」の一歩手前であることは確かだ。

逢瀬を楽しんでいるとき、二人はそうした関係性を忘れたかったのだろうか。

ちなみに「人妻(ひとづま)」とはいうが、「人夫(?)」と言わないのはなぜだろう。

「人夫」には色気のカケラもない上に、読み(にんぷ)も意味(肉体労働者)も「人妻」のもつニュアンスとまったく違っている。


明け方、二人がまだ寝ている枕元の壁越しに男と女が大声でしゃべっている声やけたたましい物音が聞こえてきた。

宮中と二条院と貴族の邸宅しか知らなかった源氏には、初めて耳にする庶民生活の声であり音である。




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夕顔⑤廃墟のような邸へ

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六条御息所夕顔
 光源氏 夕顔 頭中将 六条御息所

見立石山寺紫式部図
 『見立石山寺紫式部図』 菱川師宣

宮中と二条院と貴族の邸宅しか知らなかった源氏には、初めて耳にする庶民生活の声であり音である。

逢瀬を重ねているうちに、源氏はおっとりして品よく肩ひじ張ったところのない夕顔の人柄にのめり込み、自邸の二条院に連れて帰りたいと思うほどだった。

17歳当時、ほかに関係のあった六条御息所(ろくじょうみやすどころ)と空蝉(うつせみ)は意志的で性格がきつく、気が休まらないタイプである。


8月15日の満月の夜が明けた早朝、源氏夕顔を誘った。

「ここを抜け出して、私の知っている場所へ出かけましょう」

夕顔はさすがに気が進まなかったが、侍女の右近(うこん)を伴って牛車に乗り込んだ。

廃墟のような邸に着いて源氏留守番役を呼びに行っている間、夕顔は荒れ果てた不気味な邸の様子に怯えている。

戻ってきた源氏は、震えている夕顔が愛おしかった。

青ざめている夕顔を気遣って、留守番源氏にいった。

「だれか、呼びましょうか」

「誰にも知られないように、ここへ来た。人に話してはならぬ」


留守番役が戻って行くと、源氏夕顔に和歌を詠みかけた。

○いにしへも かくやは人の 惑ひけむ

    我がまだ知らぬ しののめの道   光源氏

 昔の人もこのように迷ったのでしょうか、
 私がまだ知らない明け方の恋の道を


○山の端の 心も知らで 行く月は

    うはの空にて 影や絶えなむ   夕顔

 あなたの気持ちを知らないでついて行くわたしは、
 空の途中で姿を消してしまうのでしょうか


源氏は、「もういいだろう」と覆面をとった。




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