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Channel: 吉備路残照△古代ロマン
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桐壺更衣②桐壺帝は玄宗か

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$吉備路残照△古代ロマン-紫宸殿 紫宸殿 内裏の顔 
後方に、桐壺更衣らが住んでいた後宮(ハーレム)があった


后の位には皇后・中宮、女御、更衣があり、女御は父親が大臣以上で、更衣は大納言以下。

皇后と中宮は、女御から選ばれた。

後宮の部屋(七殿五舎)の割り振りは、身分の高い者から順に、が起居する清涼殿に近い部屋を与えられる。

右大臣の娘で桐壺帝の第一夫人である弘徽殿の女御は、短い廊下で清涼殿に通じている弘徽殿の住人であった。

亡き大納言を父にもつ桐壺の更衣には、清涼殿からもっとも遠い淑景舎(しげいしゃ 和名:桐壺)が割り当てられた。


およそ親の期待を受けてあるいは積極的に入内(じゅだい:帝の妻になって内裏に入ること)するほどの女たちは、「われこそは」と、自らの美貌と教養に自負があってのことだろう。

自分がもっとも帝に愛されて皇子を儲け、あわよくば父親を「帝の外祖父」にする。

そんな、野心というか願望があったのではないだろうか。


ところが、更衣が入内すると、瞬く間にの愛情を独占した。

ほかの后たちは、見向きもされなくなった。

これは、すべての后を公平に愛さねばならないとしては、明らかな「ルール違反だ」であり、厳しく指弾されても仕方のない異常事態である。

しかも女色に溺れて、政務を放り出している。

更衣のアンチ筆頭格である弘徽殿の女御やほかの后たちの反感や怒りの矛先が、更衣だけにとどまらず、直接、に向かうことにでもなれば……。

弘徽殿の女御の父・右大臣は、当時随一の権勢家である。


殿上人らは、苦虫を噛み潰したような表情でささやきあい、中国の故事を引き合いにだして頭を痛めた。

その昔、「後宮三千人」ともいわれた中国の唐において、玄宗皇帝楊貴妃ひとりを溺愛し、しかも日々の政務を怠ったために「安史の乱」が勃発し、国が大きく傾いた。

楊貴妃が「傾国の美女」と呼ばれるゆえんだが、今のの腑抜けぶりでは、近いうちに同じ轍を踏むのではないか……。


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桐壺更衣③光る君誕生

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$吉備路残照△古代ロマン-清涼殿 清涼殿/帝の日常の生活空間


更衣は夜伽(よとぎ)に呼ばれると、数名の女房らとともに後宮の長い廊下を清涼殿へ赴く。

内裏の東北方向の角にあった桐壺から、十二単(じゅうにひとえ)の裾を引きずりながら歩くのだ。


毎夜のように、自分たちの部屋の前を通る更衣に対して、ほかの后たちが心穏やかであろうはずはない。

昼間はが前を歩くのだが、いかに腸わたが煮えくり返ろうと、さすがに反発や不快感を行動には移せない。

弘徽殿の女御などは、内心、思っていただろう。

「また帝が……。あんな身分の低い女のどこがいいんだか」


うっぷん晴らしをするかのように、更衣が通るときには、散々意地悪をした。

「ああ、またあの女が帝に呼ばれて愛されるのだ」

うす暗い中を歩いている更衣たちの足を滑らせようと、廊下に水を撒くのはまだ序の口。

糞尿をまいて十二単の裾を汚したり、両端に扉がついている廊下の両方に鍵を掛けて閉じ込めたりした。


そんないじめにあっている更衣が、は不憫でならない。

清涼殿に近い部屋にいた更衣をほかへ移して、そこに更衣を住まわせた。

そのことが、たちの間に、更衣に対する反感や嫌悪感をますます募らせる。

もともと蒲柳の質の更衣、心労が重なって耐えきれなくなり、実家へ戻りたいと訴えるが、離れ離れになりたくないは、それを許さない。

しかたなく、更衣の愛情だけを頼りに暮らしていたが、ますます心身ともに衰弱していった。


そんな時、「世になく清らなる玉の男皇子」が産声を上げる。


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Q. ピート・ローズとタイ・カッブの2人しかいない領域に入った気持ちは?



A. 両方のリーグ(プロ野球と大リーグ)を足したものなので、なかなか難しい。

誇れることがあるとすると、4000本のヒットを打つには8000回以上は悔しい思いをしてきている。それと常に自分なりに向き合ってきた事実はある。誇れるとしたらそこかな。

イチローほどの野球の達人になると、人生の達人でもあるようです。

桐壺更衣④更衣、里下り

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$吉備路残照△古代ロマン-大内裏  大内裏 (だいだいり)

古代、帝の住まいである内裏と政府諸官庁の置かれた区画


この世のものとも思えないほどに清らかで、美しい顔立ちである。

は、最愛の桐壺更衣が産んだ子でもあり、まわりの者があきれるほどの愛情を注いだ。


にはすでに第一夫人である弘徽殿女御(こきでんのにょうご)との間に、第一皇子(後の朱雀帝)がいる。

後見人(後ろ盾)は、右大臣という当代きっての権勢家である。

第一皇子がいずれ東宮(とうぐう:皇太子)になるだろうことは衆目の一致するところであったが、容姿と聡明さとにおいて、第二皇子(後の光源氏)にはるかに及ばなかった。

だからということでもあるまいが、は第一皇子に対しては、通り一遍の愛情しか示さなかった。

思えば、まだ弘徽殿女御を中宮にしていない。


それやこれやで、彼女が疑心暗鬼になるのも無理からぬことだった。

「帝は、第二皇子を東宮に立てるつもりではないか」

そういう疑念が、宮中の空気となってに伝わったのだろう。

何といっても、弘徽殿女御は右大臣の娘で第一夫人である。

としても、その思惑を無視することはできない。

更衣にうつつを抜かしていることを、「すまない」という気持ちもないではなかった。


その年の夏、更衣はますます心身を消耗して実家に戻りたいと訴えるが、やはりは許さなかった。

数年来のいつもの症状だろうと、さほど心配する風ではない。

「しばらく、宮中で様子を見よ」

しかし、更衣の病状は日に日に重くなって、5~6日のうちに目に見えて衰弱していった。

そのことを聞きつけた更衣母君が参内、涙ながらに頼んでやっと里帰りすることになる。

若宮(光源氏)をの手元に残して、人目につかないように内裏を退出した。



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桐壺更衣⑤更衣の死

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$吉備路残照△古代ロマン-平安京 平安京


更衣が内裏を退出すると、は、寂しさに胸がつぶれるような思いに打ちのめされた。

その夜は、意識が冴えて、まんじりともしないうちに朝を迎える。

起きると、すぐに更衣の様子を報告させるため更衣の実家に勅使(ちょくし:帝の使い)を送った。

更衣の身体の具合が気がかりでならなかったのだろう。


何回目かの勅使が、これ以上ない悲報をもたらす。

「夜半過ぎに、更衣がお亡くなりになりました」

帝は気が動転して、ひとりで部屋に閉じこもってしまった。

ただただ呆然自失として、何も考えられない。

これから生きてゆく意味が、分からなくなった。

泣いた。

は、声をあげて泣いた。


せめて更衣との一粒種である若宮(後の光源氏)を手元において自分の気持ちを慰めたいが、若宮は喪中のあいだは母里にいるのが習わしである。

若宮は幼くて、母の死を受け止めていなかった。

父の帝が、なぜ身も世もなく涙に暮れているのか分からなかった。

嘆き悲しんでいる女房たちの様子を眺めて、不思議そうにしている。

そういう若宮のいたいけな様子が、いっそう女房たちの涙を誘った。


早くに夫の大納言を亡くしている更衣の母親は、天涯孤独になった。

喪が明けて、帝が若宮を宮中に戻すよう度々催促するが、なかなか応じようとしない。

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若者を使い捨てる「ブラック企業」は、日本社会に特有だそうです。
日本人の民族性だとしたら、実に恥ずかしい。
9月1日、およそ4000社(多い!!)に厚生労働省が立ち入り検査に入ります。

中高年に対しては、「追い出し部屋」が用意されているというが……。


桐壺更衣⑥立太子のこと

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$吉備路残照△古代ロマン-立太子  立太子(りったいし)


何か月か経って、やっと若宮(のちの光源氏)が宮中へ戻ってきた。

ごく幼いころから目を見張るように可愛らしかったが、ますます光り輝くほどの美貌になっている。


翌年、立太子(皇太子に立てる)のことがあった。

桐壺帝は、若宮を皇太子にしたかった。

ちなみに、当時は、長男が跡を継ぐという慣習はない。

生母の実家の権勢によることが多かった。

若宮には、母の桐壺の更衣はすでに亡く、祖父の大納言もとうに亡くなっている。

つまり後見人(後ろ盾)は、なきに等しい。


もし若宮を皇太子に立てると、弘徽殿女御側の反発が凄まじいだろう。

若宮に、身の危険さえある。

彼女の父親は右大臣であり、もっとも政治力があった。


帝はそのようなことを考えて、不本意ながら弘徽殿女御の子である第一皇子(のちの朱雀帝)を皇太子に立てる。

これを見て、都の口さがない連中はささやきあった。

「あんなに可愛がっていても、若宮を皇太子にできないのか」


弘徽殿女御は、「もしかしたら……。」と少なからず不安に思っていただけに、ほっと胸をなでおろした。


一方、孫が皇太子になることに秘かに期待を寄せていた外祖母は落胆する。

「娘のいる浄土へ行くことのほかに、もはや何の望みもない」

ひたすら阿弥陀仏の来迎を願う一方、孫との別れを悲しみながら亡くなった。


若宮の血縁者は、父の桐壺帝だけになった。

帝は、若宮が祖母を失ったことを悲しんだ。

若宮は、そのとき6歳。

母の死のときとちがって、祖母の死を理解できた。


7歳のときに、「書初めの式」が行なわれる。



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藤壺①藤壺の宮、入内

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$吉備路残照△古代ロマン-長谷川一夫 長谷川一夫&藤壺役の木暮実千代

長谷川一夫-市川雷蔵-沢田研二-東山紀之-天海祐希-生田斗真。
光源氏を演じた6名の画像を載せます。イメージに近い役者は?



若宮(以下、光る君)は7歳になると学問を始めたが、そのずば抜けた聡明さに、桐壺帝をはじめとして周りの大人がみんな舌を巻いた。

学問だけではない。

詩歌管弦にも、驚くような才能を示す。


一方、は、いつまでも桐壺更衣のことが忘れられない。

ほかの妃たちを訪れるでもなく呼ぶでもなく、部屋に閉じこもったまま悲嘆に暮れて泣いている。

国政に責任をもつ者としては不適格であり、落第だ。

周囲が気を利かせて、気に入りそうな貴族の娘たちを何人か連れてきたが、どれも気に入らない。


そんな時、ある女房がうれしい知らせをもってきた。

「亡き桐壺更衣様に生き写しの姫宮がおられます。先帝の四番目の姫宮で、たいへん美しい方です」

の心が動いた。

「ぜひ、その姫宮が入内するよう取り計らってくれ」

ところが、姫宮母后が猛反対。

「なんと恐ろしいことを。弘徽殿女御はひどく底意地が悪くて、桐壺更衣をいじめ殺したというではありませんか。そんな所に、大切な娘はやれません」

しかし、ほどなく母后が亡くなった。

すると、兄の兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)らのすすめで、姫宮は入内した。

かねて聞いていた通り、桐壺更衣と瓜二つ。

は、いたく喜んだ。

表情が、久しぶりに晴れ晴れとしている。


姫宮は清涼殿から渡り廊下一本隔てた飛香舎(ひぎょうしゃ 藤壺)を与えられたので、藤壺の宮(以下、藤壺)とよばれた。

桐壺更衣をいじめ抜いた弘徽殿女御たちは、皇女である藤壺には手も足も出ない。

その点は、何の問題もなかった。


光る君が、生涯にわたって恋い焦がれた理想の女性とは、この藤壺である。

父の后である。



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藤壺②身代わりの愛

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$吉備路残照△古代ロマン-市川雷蔵若紫$吉備路残照△古代ロマン-市川雷蔵六条御息所  
市川雷蔵&若紫の若尾文子  六条御息所の中田康子


藤壺が、入内(じゅだい:女御か更衣になること)したのは15歳の時。

もちろん、女御である。

その時、光る君は10歳。

きれいなお姉ちゃんが、やって来たようなものだ。


翻って、桐壺帝は、藤壺にとって父親のような年齢である。

平成の世でも、親子のような年の差婚が時々世間を賑わすが、新婦が15歳はない。

作者の紫式部自身、宮廷に出仕する以前、父親のような年格好の藤原宣孝と結婚していた。

娘をひとり儲けたが、夫とはほどなく死別している。


異例なことだが、は、藤壺を訪ねるときに光る君を伴った。

御簾(みす)の中にさえ入れた。

「どうか、この子を可愛がってほしい。この子の母親とあなたは実によく似ている。ふたりは、母と子のようなものだ」


がこよなく愛していたと聞いている桐壺の更衣と自分が似ているということを耳にしたのは初めてではないだろうが、直接聞かされると、やはりつらい。

もしかしたら、この時点で、藤壺はやり切れない空しさに襲われたかも知れない。

「わたしは、身代わりだったのだ」

それでも、の心は更衣から徐々に藤壺に移ってゆく。


一方、光る君は、事あるごとに女房たちに聞かされた。

藤壺の宮様は、亡くなった母上にそっくりなのですよ」

10歳の少年が、母の面影があるという5歳年上の美少女に憧れを抱くようになるのは当然だろう。

精一杯の好意の表現に、季節ごと、美しい花や紅葉の枝をプレゼントした。

藤壺にしても、よりも光る君に魅かれるようになるのは自然の成り行きではないだろうか。


それにしても、紫式部は、「帝の実子と后の密通」という大胆なテーマを取り上げたものだ。

これが、『源氏物語』という大長編の全編を通して鳴り響く。



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藤壺③光る君、臣籍降下

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$吉備路残照△古代ロマン-沢田研二八千草薫 沢田研二&藤壺(八千草薫)

$吉備路残照△古代ロマン-沢田研二いしだあゆみ 夕顔 (いしだあゆみ)   


いつからともなく、「光る君」に対して、だれよりも若くて美しい藤壺を「輝く日の宮」と称するようになった。


弘徽殿女御は、類まれな容姿に恵まれている二人が、宮中でもてはやされていることが不快である。

意地悪こそ出来ないが、桐壺の更衣とそっくりな藤壺の存在が気に入らない。

しかも更衣と同じように、の寵愛を一人占めしている。

皇太子にはわが子の第一皇子が就いたが、光る君にしかるべき有力な後見人がつくようなことがあれば、この先どうなるか分からない。

父の右大臣ともども、疑心暗鬼に囚われていた。


一方、桐壺帝は、光る君の行く末を案じていた。

このまま皇籍において親王とするか、あるいは臣籍に降下させて臣下とするか。

たとえ親王にしても、後見人のいない光る君は、最下位の親王として苦労するだけであろう。

私にしても、いつ退位するか分からない。

しかし、最愛の子を臣下とするのはいかにも忍びない。

思い悩んだ末に、その頃ちょうど来日していた高麗(こま:朝鮮半島にあった国)の観相家に、右大弁(従四位上に相当:中級貴族)の子という身分で、光る君の前途を占わせた。

観相家は、不思議そうな顔をしている。

「このお子は将来、帝王にもなり得る人相です。でも、そうなると、まちがいなく国が乱れ、人々が苦しみます。また臣下として、国政を補佐するだけで終わるとも思えません」

かつて日本の占い師に占ってもらった時も、似たようなことを言っていた。


は涙をのんで光る君を臣籍に下し、源氏姓を与えた。

光源氏の誕生である。



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藤壺④「待つ」人生

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$吉備路残照△古代ロマン-東山光源氏

 光源氏(東山紀之) TBSドラマ『源氏物語』      

$吉備路残照△古代ロマン-藤原道長

 藤原道長&紫式部(中谷美紀)映画『千年の謎』


内裏(だいり:後宮 ハーレム)に入るほどの女たちは、格式の高い家に生まれた娘たちのうち、容姿と教養にひときわ恵まれた者である。

入内すると、大臣以上の家柄の者は「女御(にょうご)」、大納言以下の場合は「更衣(こうい)と階層化された。

皇后と中宮は、女御の中から選ばれる。

故大納言の娘である桐壺の更衣は名前が示すとおり「更衣」であり、皇女(帝の娘)の藤壺は「女御」、それも最高ランクの「女御」である。


「先帝」の娘である藤壺が15歳で入内したとき、すでに先輩の「女御」や「更衣」たちは帝とともに齢を重ねていた。

当時の年齢感覚では、20代半ばを過ぎたおばさんたちの中にそろそろ適齢期を迎える少女が一人、といったところだろうか。

もちろん、彼女ら相互に付き合いがあるわけではない。

「家」の盛衰をかけた不倶戴天のライバルである。

究極の目的は帝の子を産んで、父親を帝の「外祖父」にすること。

換言すれば、「家」は権力の階段を上るために、自慢の娘を入内させるのだ。

まさに、「性」は「政」である。


桐壺帝は桐壺の更衣が入内して以来、他の「女御」や「更衣」を見向きもしなくなった。

藤壺が、入内してからも同じ。

すべての后を等しく愛さなければならないはずの帝は、自分のなすべき務めを果たしていないのだ。


どうなんだろう。

桐壺の更衣や藤壺と逆ベクトルの連想だが、
入内したものの帝の訪れが1度もなく、あるいは2度となく、せまい部屋で、孤閨をかこったまま空しく年老いていった「女御」や「更衣」が、史実としていたのではないだろうか。

「1度もなく」はないにしても、何らかの理由で「2度となく」はあったのではないだろうか。

いずれにしろ、入内するということは、ひたすら帝の訪れを「待つ」ことに他ならない。

もちろん、実家で暮らしている女たちにしても、恋愛そして結婚するには、男からの恋文(和歌)を「待つ」ほかないわけだ。

男が「和歌」を送る時点では、女についての噂を伝え聞いているだけで、顔も人柄も知らなかったというのは不思議な気がする。

見たこともない相手に、どうして「恋の歌」を作れるのだろうか。


当時は「通い婚」だから、男が女の「家」に通った。

男が通わなくなったら、それで終わり。

ふたりの「愛の巣」を営むということはない。


平成の女性方は、こうした「待つ」人生をどう思われるだろうか。

もっとも、夫が留守のはずの自宅に若い男を持ち帰る、「待てない」女傑が現われる世の中だから、ひたすら「待つ」だけの女の人生はもはや流行らないのかも知れないが……。


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藤壺⑤理想の妻

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$吉備路残照△古代ロマン-千年の恋1

 光源氏(天海祐希)&紫の上(常盤貴子)  

$吉備路残照△古代ロマン-千年の恋

 光源氏&藤壺(高島礼子)   映画『千年の恋』


光源氏(以下、源氏)は、12歳の時に「元服の儀(成人式)」を挙げる。

帝は源氏のために、皇太子の「元服」のときに見劣りしない豪華な饗宴をもよおした。

この皇太子と対等の豪勢な「元服の儀」が、弘徽殿女御の神経をひどく逆なでする。

それはともかく、「加冠の儀」で頭に冠をかぶせると、源氏は一段と凛々しくて立派な男ぶりであった。

帝は、源氏の成長ぶりを亡き桐壺の更衣に見せたら、どんなにか喜ぶだろうと目頭を熱くしている。


「元服の儀」と同時に、もう一つ儀式が執り行われた。

左大臣の娘・葵の上(以下、葵)との「結婚の儀」である。

葵は、源氏よりも4歳年上の16歳。

美しいが理知的な顔立ちゆえに、冷たい印象を与える。

もともと右大臣家の要望で、皇太子妃になるべく育てられていた。


しかし、位は上だが右大臣にやや押され気味の左大臣は、娘を皇太子妃にすることよりも、帝の寵愛が深い源氏に嫁がせる方を選んだ。

この結婚は、帝にとっては左大臣が源氏の「後見人」になることを意味し、左大臣にとっては帝の秘蔵っ子を婿にとることによって権力の巻き返しを図る機会になる。

いわゆる政略結婚だ。

そんな大人の思惑はともかく、12歳の源氏はその夜、左大臣家に泊まり、16歳の葵と「添い臥し」た。

今の感覚からするとずいぶん早いが、添い寝した相手が「本妻」になる。

葵と仲睦まじかったら、浮気の虫が多少うずいても、生涯にわたって安穏とした日々を送れただろう。


だが、その夜、源氏は自分の本心にはっきりと気がついた。

藤壺への思いは、もはや母親似ゆえの憧れなどではなく、恋であると愛であると。

藤壺こそ、「理想の妻」であると。


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藤壺⑥もうこの部屋には

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$吉備路残照△古代ロマン-千年の謎 光源氏(生田斗真) 桐壺更衣&藤壺(真木よう子) 葵の上(多部未華子) 桐壺帝(榎木孝明) 弘徽殿女御(室井滋) 藤原道長(東山紀之) 紫式部(中谷美紀)

$吉備路残照△古代ロマン-夕顔1  夕顔(芦名星)をとり殺す六条御息所(田中麗奈)   映画『源氏物語 千年の謎』


源氏と葵の新婚生活は、心の通わないよそよそしいものだった。

ふたりとも親の愛情を一身に浴びて、また女房たちの至れり尽くせりの世話を受けながら育ってきた。

他人に気を使うことが苦手だ、というより思いもしない。

「お山の大将」同士が一緒になったらどうなるか、という悪い例だろう。

もしかしたら、葵は、「どうせ愛情のない結婚ならば、臣下に降った源氏よりも皇太子のほうがよかった」と、心のどこかで悔やんでいたかもしれない。

もともとは皇太子妃になる予定だったのだ。

あるいは、夫の心の中には常に「他の女の面影」があるということに、「女の勘」とやらで気がついていた可能性だってある。

もしそうであれば、源氏の罪は深い。


思いを寄せている女がいるにかかわらず周囲の状況で別の女と結婚する罪と、ある女と結婚して初めて本当に愛している女の存在に気がつく罪。

源氏の場合は、むろん後者である。

ここでいう罪とは妻に対する「申し訳なさ」ほどの意味だが、夫は罪の意識をもちつつ、心の根っこの部分に「欠落感」を抱えたままに一生を送ることになる。


この論法で、「女」と「男」を入れ替えたらどうなるか。

何年か前、ある文芸雑誌における女流作家だけの鼎談(ていだん:3名による座談会)の中で、若いころに派手な男性遍歴を重ねて世間を賑わしたという老作家が語っていた。

「女は引きずらないから割と平気だし、よくある話よね」

「よくある話」かどうか知らないが、もしそうであれば、女のほうが男より世渡りが上手いのだろう。


源氏が左大臣家から宮廷に戻って、今までそうしてきたように藤壺の部屋へあいさつに行くと、藤壺の決意に満ちたきっぱりとした言葉が、御簾の向こうから聞こえてきた。

「元服なさったからには、あなたは立派な一人前の男性です。もう、この部屋に入ることはなりません」



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藤壺⑦正妻と心の妻

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$吉備路残照△古代ロマン-光源氏の元服の場面 光源氏、元服の儀      風俗博物館  京都駅から走れば7~8分ほどで行けます


今まで藤壺の部屋に源氏を伴っていた父の帝も、源氏の「元服」後はひとりで行くようになった。

12歳の「成人」は、「ずっと一緒にいたい」大好きな藤壺と、急に会えなくなってしまった。

会えなくなると、ますます恋心は募る。

藤壺のいる飛香舎(ひぎょうしゃ 藤壺)からもれてくる、やさしい声に耳を澄ませて心を慰めた。

たまに宮中で「管弦の催し」などがある時には、藤壺の奏でる琴の音に合わせて、笛を吹いて心を通わせようとした。


なお、例外中の例外だが、帝の計らいで、源氏は亡き母・桐壺の更衣に与えられていた内裏の淑景舎(しげいしゃ 桐壺)で暮らしている。

女房たちも、母に仕えていた顔ぶれがそのまま付けられた。


新婚ほやほやで、妻はまだ「正妻」の葵ひとりなのに、源氏はなかなか左大臣家に通おうとしなかった。

源氏クラスの最高貴族でも、やはり「通い婚」である。

3日間つづけて通わないと結婚は成立しないので、双方の親の手前、3日間は通ったはずだ。

葵の気持ちはともかく、父の左大臣は、「婿どのは、まだ少年だから」と気にする風ではなかった。

それどころか、源氏と葵のために格別にすぐれた女房を選び、源氏が喜びそうな催しの準備に余念がなかった。


「正妻」ははたして、夫が「心の妻」と同じ屋根の下にいることに気がついていただろうか。

初夜からギクシャクしている源氏が通ってこなくても寂しくはなかったかも知れないが、やはりプライドは傷つくだろう。



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藤壺⑧藤壺、里下り

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$吉備路残照△古代ロマン-源氏物語ミュージアム 『源氏物語ミュージアム』     京阪宇治線 宇治駅下車 疾走約4分 徒歩約11分
宇治川を隔てて、宇治平等院。
平安王朝の雅な雰囲気にひたるには最適の場所かも知れません。

$吉備路残照△古代ロマン-源氏物語ミュージアム1 空蝉(うつせみ)と軒端荻(のきばのおぎ)の碁の対局を垣間(かいま)みる光源氏 


帝は、元服と結婚の祝いとして、亡き桐壺更衣の実家を全面的に改築して、源氏の私邸とした。

これが、「二条院」である。

立派になった邸を眺めて、源氏は何度も夢想した。

「この邸で、藤壺の宮と暮らせないものか」


18歳の春、源氏は高熱に悩まされて、北山に転地療養する。

治療のあいまに鞍馬寺あたりを散策しているときのこと、趣のある小柴垣越しに中を垣間見ると由緒ありげな家があった。

ちょうどその時、10歳ほどの可憐な女の子が、気品のある尼君のところへ駆けて来た。

この少女こそ、のちに源氏が引き取った「紫の上」である。


源氏は、その少女にしばらく見とれていた。

あまりにも似ている。

片時も心を離れない藤壺に、あまりにも似ている。

会えなくなって久しい藤壺のことを思って、源氏の目から涙があふれてきた。


源氏にとって、藤壺は「所与の」理想の女であり、紫の上は「自らの手で育てた」理想の女である。

ちなみに、藤壺と紫の上は、叔母と姪の間柄。


源氏が、都へ戻ってしばらく経ったある日。

「藤壺の宮の病状が重く、実家に帰っている」という噂が耳にはいった。

帝が藤壺の体調を何くれと心配して憔悴しきっている様子が痛々しく気の毒だったが、源氏は別のことを考えていた。

「(内裏では会えないが)実家なら、藤壺の宮に会う絶好のチャンスだ」


源氏は、なにも重病の藤壺を見舞いたいわけではない。

父親を裏切ることといい、藤壺の実家に行きたい動機といい、現代の倫理観をもってしてはとても理解できない。

源氏の思考と行動には、か弱い小動物を追いかける猟犬のようなところがある。


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藤壺⑰藤壺中宮

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$吉備路残照△古代ロマン-石山寺 ←クリック 拡大
紫式部は、石山寺(滋賀県大津市)参籠の折に、『源氏物語』の着想を得たとされる。  『仁王像』は運慶・湛慶作

$吉備路残照△古代ロマン 紫式部像 石山寺源氏苑


「器量のすぐれた赤ん坊は、似るのであろう」

桐壺帝は大らかな性格らしく、若宮が源氏と瓜二つであることに何らの疑いも挟んでいないようだ。

源氏と藤壺が胸のつぶれるような不安に怯えていることなど、どこ吹く風、若宮がかわいくてたまらない様子である。

源氏は心の中で帝に手を合わせ、早々に宮中を退出した。


帝は、つとに源氏に対して負い目を感じている。

かつて桐壺の更衣を母にもつ源氏を、その低い出自ゆえに皇太子に即けてやれなかったからだ。

その時の自分を今なお不甲斐なく思っている帝は、皇女である藤壺女御の産んだ若宮を、「疵(きず)なき玉」として大切に育てた。

若宮は幼くして皇太子となり、11歳で即位している。

冷泉帝である。


七月、藤壺は、第一夫人である弘徽殿女御を飛び越えて中宮となり、源氏は宰相(参議)になった。

帝が皇太子に位を譲って、若宮を皇太子に即けるための人事である。

ただ若宮の母方はみな親王で、政治的な後見人にはなりえない。

帝は、源氏を若宮の後見人に指名した。

弘徽殿(こきでん)女御ら、右大臣側は心穏やかではない。


源氏が21歳のとき、御代(みよ)が変わる。

桐壺帝が譲位して、朱雀(すざく)帝の御代になった。

母の弘徽殿女御は皇太后となり、弘徽殿大后(おおきさき)と呼ばれるようになった。


皇太子には若宮が立ち、源氏は右大将に昇進する。


桐壺帝は桐壺院となり、藤壺とのんびり仲睦まじく暮らした。


源氏は、藤壺がますます手の届かない遠い所へいってしまったような気がする。



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藤壺⑱後見人はストーカー

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$吉備路残照△古代ロマン-石山寺と紫式部展 
2013年 『秋季石山寺と紫式部』 展 9/1(日)~11/30(土)
     ・絵巻と源氏絵のディテール 
【併設展示】
 勢多唐橋東西大綱引合戦開催記念 「石山寺と勢多の唐橋」

$吉備路残照△古代ロマン-見立石山寺紫式部図  
  『見立石山寺紫式部図』 菱川師宣


源氏23の秋、桐壺院が藤壺中宮を残して崩御した。

藤壺は悲しみのあまり実家の「三条の宮」に引きこもり、源氏は自邸の「二条院」にこもる。


その少し前、院は朱雀帝を枕元に呼んで、後顧の憂いのないように源氏のことを頼んだ。

自分の死後、朱雀の外祖父である右大臣が実権を握って、源氏を圧迫することを懸念したのだろう。

「源氏は世の中を治める器量を持ち合わせているが、ある事情で、臣下として朝廷に仕えさせた。そのことを決して忘れてはならぬ」

院は死ぬ間際まで、源氏の行く末を案じている。

朱雀は、院の遺言を守ることを誓った。


院が亡くなると、世の中の空気が一変する。

源氏の左大臣家側と弘徽殿女御の右大臣家側のパワーバランスが崩れ、後者に大きく傾いた。


院の死後、藤壺の苦悩は深く、犯した罪の意識にさいなまれ続けた。

「院は本当に、皇太子を自分の子と信じておられたのだろうか。もしかしたら、すべてを分かっていて、その上で……」

その頃、またも源氏が藤壺のもとへやって来ようとしている。

院の死は、源氏の行動に何の反省も与えなかったようだ。

究極のマザーコンプレックスだった源氏は、究極のストーカーになっている。

桐壺更衣と源氏と藤壺3人の関係性においては、マザコンとストーカーがストレートにつながるのだろうか。

とにかく、狂恋としか言いようがない。

しかも、源氏は皇太子の後見人なのだ。

「ふたりの秘密が世間に知られたら、どうなることか。皇太子にも類が及ぶであろう」

藤壺は気が気でない。


ある日、不意に源氏が目の前に現れた。



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藤壺⑲結ばれない運命

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$吉備路残照△古代ロマン-源氏物語人物相関図  ← クリック 拡大
  源氏物語 血縁中心の人物相関図

$吉備路残照△古代ロマン-中谷美紀
 紫式部役『源氏物語 千年の謎』の中谷美紀 平安神宮


藤壺は、源氏の一方的な恋情の押しつけに戸惑うばかり。

御簾ごしに、熱に浮かされたかのように切々と思いを訴えている。

藤壺はどうしても源氏の激しい恋の炎を避けねばならないが、その心労たるや、身体を壊すほどだった。

恐怖にさえ感じている。


出会いのタイミングが悪かった。

初対面のとき、二人は互いに初恋に似た気持ちを抱くが、その時、藤壺はすでに桐壺帝の妻(女御)である。

すべてに恵まれている美男美女のカップル誕生、というわけにいかない状況にあったのだ。

その辺のことを理解している藤壺は源氏への思いを抑えて内側に閉じ込めようとしてきたが、まだ8~9歳だった源氏は舞い上がってしまう。


この件で、私は、かなり古いアメリカ映画を連想する。

病床の母親が、高校生の息子を諭す場面。

「人にはね、本当に大事な人が一人いるものよ。その人と出会ったら、しっかり捕まえなきゃダメ。そうしないと、一生、後悔するわよ」

源氏と藤壺は、互いに「その一人」だったのではないか。

そう思うと結ばれない運命にあった二人が気の毒だが、もし祝福されて結婚という筋書きであれば、『源氏物語』という世界に冠たる文学作品はうまれなかった。

順風満帆あるいは可もなし不可もなしの人生航路は、文学にはなりえないということかも知れない。


もう一つ、思いつきのようなこと。

『源氏物語』でもっとも頻出するキーワードは、「そっくり」という意味の言葉である。

源氏が藤壺に憧れいつしか身を焼くような恋に発展したのは、幼いころ、藤壺が、亡き母・桐壺更衣に「生き写し」と、事あるごとに女房たちに聞かされていたからだ。

まだ幼い若紫(紫の上)を奪うようにして自邸に引き取り、自分の理想の女に育てたのは、若紫が藤壺と「似ていた」から。

また、源氏と藤壺との間に生まれた若宮(皇太子のちの冷泉帝)は、源氏と「瓜二つ」である。

この「似ている」ことが物語展開の縦糸とすれば、源氏のあくなき女性遍歴が横糸だ。


そして、物語全体を、「因果応報」という思想で括っている。


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藤壺⑳覚悟の落飾

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$吉備路残照△古代ロマン  平安神宮  祭神は、桓武&孝明天皇。1895(明治28)年4月1日、平安遷都1100年を記念して開催された内国勧業博覧会の際に、平安京遷都時の大内裏の一部復元を計画。実物の8分の5の規模で復元された。


藤壺は源氏に心身ともに疲れはて、桐壺院をだまし通した罪に震えた。

眩暈がして、底知れぬ闇に堕ちて行く。

薄らぐ意識の中、「源氏とともに、奈落の底に堕ちたい」と願っていた。

「中宮様、大丈夫ですか」

女房たちの叫び声が聞こえるが、すぐに遠のいていった。


御簾(みす)の外では、源氏が呆然と立ち尽くしている。

もう明け方に近い。

「人が来ます。早く、どこかへ隠れて下さい」

女房たちの声に、源氏は塗籠(ぬりごめ:納戸)に身を隠して、息をひそめた。


藤壺の兄の兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)らがやって来て、何やら話している。

源氏が出るに出られないうちに、とうとう日が暮れてしまった。

「中宮様は、ずいぶん御気分が良くなられたようだ」

兵部卿宮たちが、ようやく帰って行く。


女房たちが見送りに出ているすきに、源氏は塗籠を抜けだし、御簾を跳ね上げて藤壺の部屋へ入った。

藤壺は、驚くまいことか。

「あのとき」以来の藤壺は、消え入るように儚げで美しい。

源氏は胸がつまって、目から涙が溢れた。


藤壺は、視線を逸らした。

「気分がすぐれません。どうか、お帰りになって下さい」

女房たちも、きつく帰るように促した。

源氏は夢遊病者のような足取りで、暗闇に消えて行く。

あとに、藤壺の嗚咽が闇夜に響きわたった。


桐壺院の1周忌、藤壺は突然、出家の意志を明らかにした。



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