文治3(1187)年2月、義経一行は、ようやく奥州の平泉にたどり着き、旧知の藤原秀衡のもとへ身を寄せた。
かつて、16歳の少年義経は、出家を嫌って鞍馬寺を出奔したとき、黄金で財を成したといわれる商人金売吉次に伴われて、奥州平泉へ下っている。
平家の全盛期に、16~23歳というもっとも多感な青年期を平泉で送っているのだ。
当時、秀衡は、源氏の御曹司をかくまうことによる権力者平清盛との対立を覚悟していただろう。
今回、義経をふところに入れることは、着々と天下の権を握りつつある源頼朝に、
どんな口実をも与えかねない危険性をはらむ。
普通に考えれば、頼朝の追っ手から逃げている義経は厄介者だ。
選択肢は、ふたつ。
義経を頼朝に差し出すか、あるいは一戦交える覚悟で守るか。
秀衡は、懐にはいってきた窮鳥を生かすことにした。
もともと秀衡は、父祖以来の因縁もあり、いずれ頼朝との激突は避けられないと踏んでいる。
ならば、噂に聞いているいくさ上手の義経を総大将に、息子たちをその下につけて鎌倉と戦えばいい。
一の谷や屋島、壇ノ浦における義経の戦いぶりを耳にしている秀衡は、そう決断した。
だが、奥州藤原氏や義経にとって不幸なことに、秀衡は8カ月後、病死する。
遺言は、「判官殿を愚かなしに奉るべからず」
「義経殿を大将軍にせよ」 というものだった。
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