平家ホタル放生 7月6日(金)・7日(土) 於.大覚寺 ※雨天決行
乳母は、文覚を高雄の神護寺に訪ねると、声を振り絞って哀願した。「出産のときに取り上げて以来育ててきた12歳になる若君を昨日、源氏の武士に奪われました。どうか若君を引き取って、お弟子にして頂きとうございます」
子細を尋ねると、「亡き平維盛様の若君を、源氏の武士が昨日、連れ去りました」。「武士とは、誰ですか」。「北条時政殿です」。「知らない人物ではありません。訪ねてみましょう」
文覚は、すぐに六波羅へ出かけて行った。厳しい仏道修行の甲斐あってか、ずいぶん円熟味を増したようだが、素早い行動力は相変わらずである。
乳母は、文覚の言葉をそのままあてにはしないが、心痛が少し軽くなった。大覚寺に戻ると、建春門院新大納言がほっとした表情で、「身を投げたのではなかったのですか。私も、どこかの淵か川へでも身を投げようと思っていたのですよ」
文覚の言葉を伝えると、「もしそうなら、あの子にもう一度、会いたい」
文覚は六波羅に着くと、時政に事情を尋ねた。
「平家の男たちを残らず捜し出して殺すよう、命じられております。特に、六代御前は嫡流だから死に物狂いで捜したが、見つかりません。あきらめて鎌倉に帰ろうとしていたところ、密告する者がいました。
しかし、あまりに美しい若君なので、まだそのままです」
「ならば、是非、お会いしたい」
六代は、二重織物の直垂を着、黒檀の数珠を手に掛けていた。髪の額へのかかり具合、容姿、人となりなど気品にあふれて美しく、この世の者とは思えない。
だが、やはり安心して眠れないのか、表情がやつれている。
文覚を見ると涙ぐんだので、文覚も思わずもらい泣きした。
「後々源氏の敵になられようと、亡き者にするわけにはいかない」
「時政殿、20日間の猶予を下され。鎌倉へ下って許しを頂きます。頼朝殿を世に送り出そうと福原に上って院宣を頂いたとき、頼朝殿は、『どのような大事であっても、文覚房の要望は叶えよう』 と約束して下さった。お忘れではありますまい」
翌朝、斎藤五宗貞と斎藤六宗光は旅立つ文覚の後姿を見送りながら、生き仏のように思われ、手を合わせて涙した。
ふたりが大覚寺に戻ってその様子を伝えたとき、建春門院新大納言と乳母はどれほど嬉しく思ったことか。
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