足摺をして泣き叫ぶ俊寛
礼紙(らいし:包み紙)に書いてあるに違いないと思って礼紙を見るが、やはり「俊寛」の文字はない。
そんなはずはない、何かの間違いだろう。
赦免状の初めから終わりへ、終わりから初めへと何度もなんども読みなおすが、二人とあって三人とは書かれていない。
そうしているうちに、成経と康頼が熊野詣でから戻ってきた。
成経が赦免状を読んでも、康頼が目を通しても「俊寛」の二文字はない。
夢かと思おうとしても、これは紛れもない現実だ。
「三人は同罪で、流刑地も同じ。どうして二人は呼び戻され、私一人だけが残されるのか。清盛殿が忘れなさったか。書記の誤りか」
いよいよ船を出そうとすると、俊寛は船に乗っては降り、降りては乗った。
何度もなんども乗り降りを繰り返すが、やはり諦めきれない。
ともづなを解いて船を海へ押し出すと、今度は綱にしがみついた。
海水に腰までつかり、脇までつかり、やっと背が立つところまで引かれていった。
背が立たなくなると、今度は船にしがみついた。
「あなた方、俊寛を捨てるのか。これほど薄情とは思わなかった。せめて九州の地まで乗せて行ってくれ」
必死の形相で、訴える。
だが、使者の基康は、「清盛様の御命令です。お気の毒ですが、お乗せするわけにはいきません」
しがみついている俊寛の左右の手を、船から引き離した。
俊寛は波打ち際に倒れ伏し、幼児が母親を慕って泣きじゃくるように足をばたばたさせて、わめき叫んだ。
「お~い、乗せて行ってくれ~、連れて行ってくれ~」
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