史実上の初代伊勢斎宮
大伯皇女 おおくのひめみこ
天武天皇の娘にして、大津皇子の姉。
斎宮 さいぐう 帝の即位ごとに選ばれて伊勢神宮に奉仕した未婚の内親王または女王。
東京国立博物館所蔵
六条御息所 ろくじょうみやすどころ
元東宮妃で、すべてに恵まれた才色兼備の貴婦人。
主要な女君たちのなかで最年長。光源氏より7歳年上。
激しい嫉妬に駆られて「生霊」と化し、ふたりの女 (源氏の正妻・葵の上&愛人の夕顔) を取り殺した。
娘の斎宮に同行して伊勢に下っていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
惟光は、明石での事情を知っている者に手紙を持たせた。
歌一首の手紙ではあるが、改めて源氏の立場を知った明石の君はもったいなくて涙がこぼれた。
返歌、
○ 数ならで 難波のことも かひなきに
などみをつくし 思ひそめけむ
とるに足らない身の上ゆえ諦めておりましたのに どうして身を尽くしてまでお慕いするようになったのでしょう
明石の君は、翌日、源氏一行が去った後の住吉大社に詣でて幣帛を奉った。
幣帛 へいはく 神に奉納する供え物の総称
明石に戻って、
「源氏の君は、そろそろ都にお着きになった頃かしら」
そう思い始めた矢先、使いがやって来た。
「明石の君と姫君を都に迎えたい」とのこと。
明石の君は思い悩んだ。
源氏が人並みに思ってくれているのは嬉しいが、生まれ故郷の明石を離れて見たこともない都に娘とふたりだけで赴くのは余りにも心細い。
田舎者の私が、どうやって都の人々と立ち混じればいいのか。
娘たちには上流社会に戻ってほしいという長年の念願がかなった入道も、いざとなると不安ばかりが募る。
心配でたまらない。
一方では、こうも思う。
「このような辺鄙な土地に、娘たちを一生埋もれさせるわけにはいかない」
二日後、明石の君は、「気後れすることがいろいろと思い浮かぶので、上京の決心がつかない」旨を源氏に伝えた。
朱雀帝が「生前退位」して冷泉帝の世に移ったので、「斎宮」も代替わりとなり、六条御息所が娘の前斎宮とともに帰京した。
源氏はさっそく見舞いの者を遣わしたが、「お互いつらい思いをすることになろう」と考え、自らは挨拶に出向かなかった。
今の日本人にこれだけの熱気があるだろうか