遠流(おんる)の地
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
父親の右大臣よりもさらに気性の激しい弘徽殿大后の怒りは、すさまじい。
息子の朱雀帝に、源氏の官位を剥奪して「遠流の刑」に処するよう迫った。
・遠流の刑
都を遠く離れた、伊豆・安房・常陸・佐渡・隠岐・土佐、6か国の
いずれかに流した
右大臣は、大后の苛烈すぎる反応に、告げ口したことを少し悔やんだ。
朧月夜が帝の寵姫とはいえ、不義密通で遠流の刑とは過酷に過ぎる。
しかも、朱雀は桐壺院臨終のとき、「光をよろしく頼む」と強く言い渡されている。
自分の死後は、右大臣一派が宮廷を牛耳ることを見越してのことである。
生来やさしく、源氏に対しても温かく接している朱雀は、「遠流の刑」をためらっていた。
そのことに業を煮やした大后は、およそ350年前にさかのぼる白鳳期の持統天皇の例にならった。
「不義密通の罪で遠流の刑」はバランスが悪いと悟った大后は、源氏の「反逆罪」をでっちあげる。
後見している東宮を帝位につけるため、朱雀を倒そうと画策しているというのだ。
大津皇子 草壁皇子 持統天皇 天武天皇
作者の紫式部はこの辺の歴史的事実を意識していたと、わたしは勝手に思っている。
それぞれの「人物像」と「相互関係」と「出来事」の構図が、きわめて似通っているのだ。
持統は天武天皇の没後、自分の子だが平凡な草壁皇子を皇位につけたい。
そのために、亡くなった姉の子で、文武両道に優れかつ周囲の人望もあつい大津皇子を、「謀反が発覚した」として捕らえ、ただちに処刑した。
朱雀帝と光源氏、草壁皇子と大津皇子、天武天皇と桐壺帝、持統天皇と弘徽殿大后。
朱雀と源氏、草壁と大津はともに帝の腹違いの兄弟である。
凡庸な生まれつきの兄たちと、英雄的な資質にめぐまれた弟たち。
しかし、弟たちは若くして母親を亡くしている。
兄たちは父・帝の没後、権力者になった母親に自らの意思と関係なく守られていた。
この件は、偶然にしては余りにも似ている。
ただし、史実の大津は処刑されるが、物語の源氏は気配を察して自ら都からほど近い須磨(神戸市)へ退去する。
画面右下の YouTube をクリックしてください。
天翔る白日―小説 大津皇子 黒岩重吾 (中公文庫)/中央公論社
¥1,183
Amazon.co.jp
日中韓を振り回すナショナリズムの正体/東洋経済新報社
¥1,620
Amazon.co.jp 発言のひとつひとつの「真意」を尋ねられる為政者は大変だと思う。
しかし、菅義偉官房長官は政権の柱石というだけでなく、偏屈な「国家主義者」であり国際的にもその「歴史修正主義」を深刻に懸念されている安倍晋三氏の側近だからこそ、
くどいほどに厳しく問われなければならない
↧
賢木44遠流の刑
↧