朧月夜(おぼろづきよ)
山の端 山と空の境の山の部分
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
源氏は、「男女の過ちは、えてしてこんな無用心から起こるものだ」と心配しつつ、過ちを犯せないものかと中をのぞいた。
女房たちは寝てしまったようだ。
そのとき、開き戸のほうから高い身分らしい女が若々しくきれいな声で、古歌を口ずさみながらやって来る。
「朧月夜に似るものぞなき」 *似るものぞなき 優るものはない
源氏はうれしくなって、とっさに女の袖をとらえて抱き上げた。
びっくりした女は、「あら、嫌だ。どなたですか」
声が震えている。
「怖がることはありませんよ」
○ 深き夜の あはれを知るも 入る月の
おぼろけならぬ 契りとぞ思ふ
夜更けに山の端にはいる朧月の情趣に魅かれて古歌を口ずさんでいるあなたに逢えたのは、前世からの浅からぬ縁があるからですよ
庇(ひさし)の間にそっと女を下ろして、戸を閉めた。
驚いて呆然としている様子が、人懐っこくて可愛らしい。
女は気を取り直して、「変な人が。だれか」と震え声で叫んだ。
「わたしを咎める人なんて、都中さがしてもいません。人を呼んでも何にもなりませんよ。静かにしていなさい」
女(右大臣家の娘)は、源氏と分かって少しほっとした。
家は政敵同士だが、けしからん男の素性が分かっただけでもわずかに気持ちにゆとりをもてた。
それにしてもひどいやり方だが、そうかといって、ものの哀れの分からない不粋な女とは思われたくない。
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花宴③朧月夜
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