藤壷 風俗博物館
先帝の后腹(きさいばら:中宮か皇后の腹から産まれた子)で第四皇女。光源氏の「初恋の人」にして「永遠の女性」
紫式部
学者・詩人の藤原為時の娘。藤原宣孝に嫁ぎ、一女(大弐三位)を産んだ。夫の死後、一条天皇の中宮・彰子に仕えている間に、『源氏物語』を執筆。 宇治市源氏物語ミュージアム
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はたち前後の若者たちの間で、60ちかい老婆が着物をはだけて慌てふためいている様は滑稽をとおりこして惨めだ。
そうこうするうちに、源氏は、刀を抜いた男が頭中将であることに気がついた。
「わたしと知って、わざと騒いでいるのだな」
馬鹿らしくなって、太刀を抜いている腕をつかんできつくつねった。
そして、同時に大笑いした。
七月、藤壷は中宮に立ち、源氏は宰相(参議)になった。
帝は、近く譲位する心づもりで準備を進めている。
ふたりの人事も、その一環である。
藤壷が産んだ若宮を次の東宮(とうぐう:皇太子)にと思っているが、これという後見人がいない。
母方は、親王(しんのう:帝の息子)ばかり。
皇族は政治を執らないので、せめて母である藤壷を中宮という確固たる地位につけておこうと考えたのだ。
当然ながら、弘徽殿女御は心穏やかではない。
内親王(帝の娘)とはいえ、新参者に先を越されたのだ。
わが子の将来を思えば、不安も募る。
帝が、なだめた。
「東宮が新帝に立てば、あなたは皇太后(こうたいごう:帝の生母)になられる。安心なさい」
藤壷が中宮として参内する夜は、源氏もお供の役を務めた。
藤壷は后腹の内親王で、しかも際立って美しく、帝の寵愛を一身に集めている。
世間の人々も、格別の存在として仰いでいる。
せつない恋にさいなまれている源氏は、輿(こし)の中ばかりが思いやられた。
藤壷が、いよいよ手の届かない遠くへいってしまう。
つい、独り言をつぶやいた。
○ 尽きもせぬ 心の闇に くるるかな
雲居に人を 見るにつけても
高い位につかれる方を見るにつけても、尽きることのない心の闇に閉ざされます
若宮は成長するにつれて、ますます源氏に似てきた。
藤壷は思い悩んでいるが、気が付いている人はいないのか。
ただ、ふたりが生き写しなので、月と日が大空に並んで光り輝いているようだと世間の人々は思っている。
二月の二十日過ぎ、帝は南殿の桜の宴を催した。
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紅葉賀⑳藤壷、中宮に
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