半蔀車(はじとみぐるま) 牛車(ぎっしゃ)の一種。上皇・摂関・大臣・大将が使用した。宇治市源氏物語ミュージアム
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源氏は、「ずいぶん、若づくりをしたものだな」と思う一方、「今、どんな気持ちでいるのだろう」と気になって、裳の裾をちょっと引っ張ってみた。
源典侍(げんのないしのすけ)は派手な彩色を施した扇をかざして、振り返った。
まなざしは、思い入れたっぷりの流し目。
年季が入っているだけに媚態が身についているが、目もとは黒ずんで窪み、頬の肉はげっそりと落ちこんでいる。
扇で隠しきれない髪の毛は、すっかりそそけている。
源氏が、「その扇は、年に似合わない。派手すぎる」と自分の扇と取り替えると、隅のほうに、古めかしいが風流な筆跡で書き流していた。
「森の下 草老いぬれば (年寄りだから男が寄りつかない)」
「なんとまぁ明け透けな。他に書くこともあろうに」
源氏は苦笑しながら皮肉まじりに、
「『森こそ夏の宿りなるらし』という歌のように、あなたのところには宿る男が多いのですね」
源氏はだれかに見られないかと気が気でないが、源典侍はまるで頓着しない。
思わせぶりに、
○ 君し来ば 手なれの駒に 刈り飼はむ
盛り過ぎたる 下葉なりとも
光君がいらしたら、お召しの馬に草をご馳走しましょう。盛りを過ぎた下草ですが、わたしとともに
源氏は煩わしくなって、
○ 笹分けば 人やとがめむ いつとなく
駒なつくめる 森の木隠れ
森の木隠れの笹を踏み分けて訪ねたら、咎められましょう。いつも大勢の男たちがあなたを慕って集まっているのですから
源氏が立ち上がろうとすると、袖にすがって泣き出した。
「こんなつらい思いをしたことはございません。今になって捨てられるとは、いい恥さらしです」
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